6 / 11
第1章「海援隊編(黎明)」
第5話 村を守る剣
しおりを挟む
朝靄が森を包んでいた。
鳥のさえずりが聞こえる中、木々の間で木剣の音が響く。
リュオムとミラは息を合わせて打ち込み、少し離れた場所でシン=トナリが静かに祈りを捧げていた。
「足の踏み込みが甘い!」
シュウザの叱声が飛ぶ。
リュオムは苦笑しながら木剣を構え直した。
「相変わらず厳しいぜよ。けんど、悪くない気分じゃ」
ミラが息を切らしながら笑う。
「ねぇ、師匠ってほんと鬼だよね!」
「鬼でもええ。おまんの腕が上がるならな」
その時、森の奥から弟子のひとりが駆け込んできた。
顔は土と汗にまみれ、目は恐怖に見開かれていた。
「し、師匠……南の村が! 魔獣が、村を襲って……!」
その言葉に、場の空気が一変した。
木剣を構えたままのリュオムが表情を引き締める。
「村……って、あの谷の下の?」
「そうだ。子どもや老人も多い、逃げ切れん」
シュウザは静かに剣を納めた。
「弟子たちでは止められまい。……お前たち、行け」
「え?」
「剣は命を奪うためではなく、守るためのもの。お前たちに、それを学ばせる時が来た」
ミラが真っ先に頷いた。
「行こう、リュオム!」
「……しゃあねぇな。海援隊、初仕事ぜよ」
森を抜け、谷へと続く道を駆け下りる。
風が乾いた土を巻き上げ、焦げた匂いが漂ってきた。
村の屋根が燃えている。泣き叫ぶ声、倒れた家畜、黒煙。
地面を蹴り砕きながら、四足の魔獣が家々を蹂躙していた。
「っ……ひどい……!」
ミラの声が震える。
リュオムは剣を抜き、振り返ることなく言った。
「怖うてもええ。けんど、前を見え。おまんが守りたい思うた分だけ、剣は強うなるきに」
彼の言葉に、ミラは小さく頷いた。
「来るぜよ――!」
吠え声とともに、魔獣が群れで突進してくる。
リュオムは竜魔紋の光を胸に宿し、踏み込んだ。
木剣が唸り、風が爆ぜる。
一閃――獣の体が裂かれ、血が砂に散った。
その動きはもはや人ではなかった。
竜のように俊敏で、炎のように激しい。
だが、力を振るうたびに胸の紋が熱を増し、瞳が紅く染まっていく。
「リュオム! やめて!」
ミラの声が届かない。
彼の耳には、血の轟音と心臓の鼓動しかなかった。
竜魔紋が脈打ち、周囲の空気が歪む。
リュオムは息を荒げ、剣を握り締めたまま次の獣に突っ込んだ。
――その刃が、仲間の影をかすめた瞬間。
ガンッ!
鋭い木刀の一撃が彼の剣をはじいた。
視界が揺れ、リュオムは砂の上に倒れ込む。
「……師匠?」
シュウザ=チバリスが立っていた。
その眼差しは厳しくも、深い慈しみを宿している。
「剣は心を写す鏡だ。心が乱れれば、剣もまた乱れる」
リュオムは息を荒げ、拳を握った。
「けんど……守りたかっただけぜよ……!」
「ならば、その“想い”を力ではなく“意志”で振れ」
その言葉に、竜魔紋の光がゆっくりと鎮まっていく。
リュオムは砂に手をつき、深く頭を下げた。
「……すまん、師匠」
戦いが終わった村には、静けさが戻っていた。
倒れた家の傍で、村人たちがリュオムたちに頭を下げる。
「本当に……ありがとう。あなたたちが来てくれなかったら……」
ミラは胸の前で手を握りしめた。
「これが……守るってこと、なんだね」
シンが頷き、穏やかに祈る。
「無益な血を流さずに済んだ。それが何よりだ」
リュオムは竜魔紋に触れ、微笑んだ。
「力は鎖やのうて、翼にせんといかん――そういうことぜよ」
シュウザが静かに近づき、肩に手を置く。
「それでいい。……剣士の第一歩だ」
夜。焚き火を囲む三人の顔が炎に照らされていた。
リュオムが笑いながら言う。
「今日からや、この世界でも“海援隊”を名乗るぜよ」
シンは静かに数珠を揺らしながら微笑む。
「志の名に恥じぬよう、己を律しよう」
ミラは勢いよく手を挙げた。
「じゃあ、あたしは一番弟子ね!」
「勝手に言えや。けんど、悪うない」
三人の笑い声が夜空に溶けていく。
――そして遠く離れた山の砦。
黒衣の男が、その光を見上げていた。
赤い瞳が月光に煌めく。
「竜の子か……面白ぇ。お前も“こちら側”に堕ちてくるさ」
唇の端を歪めるその男――イゾルデ。
かつて“岡田以蔵”と呼ばれた剣鬼の姿だった。
鳥のさえずりが聞こえる中、木々の間で木剣の音が響く。
リュオムとミラは息を合わせて打ち込み、少し離れた場所でシン=トナリが静かに祈りを捧げていた。
「足の踏み込みが甘い!」
シュウザの叱声が飛ぶ。
リュオムは苦笑しながら木剣を構え直した。
「相変わらず厳しいぜよ。けんど、悪くない気分じゃ」
ミラが息を切らしながら笑う。
「ねぇ、師匠ってほんと鬼だよね!」
「鬼でもええ。おまんの腕が上がるならな」
その時、森の奥から弟子のひとりが駆け込んできた。
顔は土と汗にまみれ、目は恐怖に見開かれていた。
「し、師匠……南の村が! 魔獣が、村を襲って……!」
その言葉に、場の空気が一変した。
木剣を構えたままのリュオムが表情を引き締める。
「村……って、あの谷の下の?」
「そうだ。子どもや老人も多い、逃げ切れん」
シュウザは静かに剣を納めた。
「弟子たちでは止められまい。……お前たち、行け」
「え?」
「剣は命を奪うためではなく、守るためのもの。お前たちに、それを学ばせる時が来た」
ミラが真っ先に頷いた。
「行こう、リュオム!」
「……しゃあねぇな。海援隊、初仕事ぜよ」
森を抜け、谷へと続く道を駆け下りる。
風が乾いた土を巻き上げ、焦げた匂いが漂ってきた。
村の屋根が燃えている。泣き叫ぶ声、倒れた家畜、黒煙。
地面を蹴り砕きながら、四足の魔獣が家々を蹂躙していた。
「っ……ひどい……!」
ミラの声が震える。
リュオムは剣を抜き、振り返ることなく言った。
「怖うてもええ。けんど、前を見え。おまんが守りたい思うた分だけ、剣は強うなるきに」
彼の言葉に、ミラは小さく頷いた。
「来るぜよ――!」
吠え声とともに、魔獣が群れで突進してくる。
リュオムは竜魔紋の光を胸に宿し、踏み込んだ。
木剣が唸り、風が爆ぜる。
一閃――獣の体が裂かれ、血が砂に散った。
その動きはもはや人ではなかった。
竜のように俊敏で、炎のように激しい。
だが、力を振るうたびに胸の紋が熱を増し、瞳が紅く染まっていく。
「リュオム! やめて!」
ミラの声が届かない。
彼の耳には、血の轟音と心臓の鼓動しかなかった。
竜魔紋が脈打ち、周囲の空気が歪む。
リュオムは息を荒げ、剣を握り締めたまま次の獣に突っ込んだ。
――その刃が、仲間の影をかすめた瞬間。
ガンッ!
鋭い木刀の一撃が彼の剣をはじいた。
視界が揺れ、リュオムは砂の上に倒れ込む。
「……師匠?」
シュウザ=チバリスが立っていた。
その眼差しは厳しくも、深い慈しみを宿している。
「剣は心を写す鏡だ。心が乱れれば、剣もまた乱れる」
リュオムは息を荒げ、拳を握った。
「けんど……守りたかっただけぜよ……!」
「ならば、その“想い”を力ではなく“意志”で振れ」
その言葉に、竜魔紋の光がゆっくりと鎮まっていく。
リュオムは砂に手をつき、深く頭を下げた。
「……すまん、師匠」
戦いが終わった村には、静けさが戻っていた。
倒れた家の傍で、村人たちがリュオムたちに頭を下げる。
「本当に……ありがとう。あなたたちが来てくれなかったら……」
ミラは胸の前で手を握りしめた。
「これが……守るってこと、なんだね」
シンが頷き、穏やかに祈る。
「無益な血を流さずに済んだ。それが何よりだ」
リュオムは竜魔紋に触れ、微笑んだ。
「力は鎖やのうて、翼にせんといかん――そういうことぜよ」
シュウザが静かに近づき、肩に手を置く。
「それでいい。……剣士の第一歩だ」
夜。焚き火を囲む三人の顔が炎に照らされていた。
リュオムが笑いながら言う。
「今日からや、この世界でも“海援隊”を名乗るぜよ」
シンは静かに数珠を揺らしながら微笑む。
「志の名に恥じぬよう、己を律しよう」
ミラは勢いよく手を挙げた。
「じゃあ、あたしは一番弟子ね!」
「勝手に言えや。けんど、悪うない」
三人の笑い声が夜空に溶けていく。
――そして遠く離れた山の砦。
黒衣の男が、その光を見上げていた。
赤い瞳が月光に煌めく。
「竜の子か……面白ぇ。お前も“こちら側”に堕ちてくるさ」
唇の端を歪めるその男――イゾルデ。
かつて“岡田以蔵”と呼ばれた剣鬼の姿だった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜
来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。
自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。
「お前は俺の番だ」
番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。
一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。
執着と守護。すれ違いと絆。
――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。
甘さ控えめ、でも確かに溺愛。
異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる