【メモリーバンク】記憶ゼロの俺が、量子の魔法で世界を変える ~封じられた過去が今、再構築をはじめる~

カイワレ大根

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第5章

第99話 祠への帰還を誓う朝――解析眼と記憶の扉

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 翌日。
 ギルドで最低限の報告を済ませ、いくつかの確認と手続きを終えると、リュークたちはガルドたちと別れ、早々に宿へと戻っていた。

 依頼の内容はあくまで“調査”だった。
 塔そのものの構造異常や、住民が耳にしたという不可解な異音。

 けれど、そこで自分たちが目にした“量子的な現象”を、そのまま報告できるはずもなかった。
 光の階段。幻の構造。記憶に直接干渉してくるような歪み。
 どれも常識では説明できないし、説明したところで「精神汚染」や「幻覚」と片付けられるのが関の山だ。

 結局、報告は、未確認の異常を確認したという曖昧な一文にとどめざるを得なかった。
 核心に触れる部分はすべて伏せたまま。

 その結果――
 成果自体は一応認められたが、報酬は控えめに抑えられた。
 金貨小およそ三十枚。そのうちリュークたちの取り分は、わずか八枚ほど。
 決して少ない額ではない。

 街で数週間は生活できる。装備や素材を買い揃える余裕もある。

 けれど、もし塔での出来事を“正しく”伝えられていたなら――
 空間を歪ませる術式の痕跡、幻の階段、あの記憶のざわめき。
 それらすべてを報告できていたなら、この報酬は数倍になっていたかもしれない。

(……いや、それでも話せない。“量子のスキル”のことは、隠しておかなきゃならない。

 迂闊に口にすれば、間違いなく疑いをかけられる。利用されるか、隔離されるか……どちらにせよ碌《ろく》な結末にはならない)

 リュークは心の中で苦笑し、小袋を持ち上げて指先で重みを確かめる。
 硬貨が触れ合う

 カチャリ

 という音が耳に残るたびに、それがむしろ虚しく響いた。
 確かにそこにあるはずの報酬。だが、その重みでは胸の奥の“欠落”を埋めることはできなかった。

 昨夜、塔で“視た記憶”――
 自分の過去か、未来か、あるいは記録されなかった時間の断片か。

 その映像の余韻がまだ、思考の底でざわめき続けていた。
 報酬の数字や袋の重さでは決して測れないもの。
 価値でも通貨でも換算できないものが、心の奥で燻り続けている。

 それは不安とも期待ともつかない感覚。
 ただ一つ確かなのは――
 あの塔で見たものは、単なる幻ではなく、“次へ進むための扉”そのものだということ。

 リュークの思考の底には、昨夜、塔で“視た記憶”の余韻が、いまだ微かな揺らぎとなって残っていた。

 ──祠の石造り。夜の静けさを切り裂く風。封印を縛るように刻まれた古代の印。
 ──闇に響いた獣の咆哮。誰かの声。そして、確かに自分を見据えていた“あの目”。
 静かな朝の空気の中で、リュークは不意に口を開いた。
 
「……あの場所に、もう一度行ってみようと思う」
 
 言葉が落ちると、部屋の空気が少しだけ張り詰める。
 ルミエルが顔を上げ、その青い瞳を細めた。
 
「……村の祠のこと?」
 
 リュークはゆっくりと頷く。

「塔の中で見た記憶は断片的だった。 けど、どうしても引っかかる。」
「シャドウファングの過去に繋がっているのかもしれないし……いや、もしかすると、俺自身の記憶の一部なのかもしれない」
 
 その言葉に、ルミエルは少しだけ目を伏せ、両手を組んで黙考する。
 やがて、ためらいを振り払うように、静かな声で言葉を紡いだ。
 
「今なら……“視える”かもしれない。」
「あの祠に刻まれていた記録や構造。 あのときは理解できなかった意味も、量子視覚を得た今なら……きっと」
 
 リュークは、その言葉に小さく笑みを浮かべる。

「そうだな。次に必要なのは――解析眼。 あれを手に入れて、さらに深く踏み込む必要がある」
 
 その名を口にした瞬間、シャドウファングが低く鳴いた。
 尾をわずかに揺らし、リュークの足元に寄り添うように立つ。
 彼もまた、本能の奥で“何か”を感じ取っているようだった。

 リュークは立ち上がり、仲間たちへと視線を巡らせる。

「まずは、解析眼の取得と物理の記憶(初級)の開放だ。 そのうえで、もう一度――あの祠へ戻って確かめる」
 
 言葉の響きには、昨夜までにはなかった確かな芯があった。
 ルミエルはしばしの沈黙ののち、小さく、しかし確かな頷きを返す。
 その瞳の奥には、静かな覚悟の光が宿っていた。
 
「……うん。昨日までとは違う“何か”が、胸の奥で目を覚まし始めてる。 たぶん……私も、その答えに近づいてる」
 
 シャドウファングが、ひと振り尾を揺らし、空気を切った。
 その仕草はまるで「共に行く」と告げる同意の印のようだった。
 リュークは二人を見渡し、唇を引き結ぶ。

「……きっと、これからもっと多くの“記憶”と出会うことになる。」
「それは時に俺たちを傷つけるかもしれないし、形のない不安を呼び起こすかもしれない。 でも――今はまだ、その入口に立ったばかりだ」
 
 そして、深く息を吐く。
 その吐息は決意の表明のように、静けさに溶けていった。

 物語は再び、次の真実へと歩み始める。
 まだ形を持たない“過去”と“未来”の狭間で――
 彼らは一歩ずつ、失われた意味を取り戻そうとしていた。


 次回:静寂の街に揺らぐ兆し――黒狼の影が語るもの
 予告:静寂の街に忍び寄る影。その兆しは、黒狼の背に刻まれた“記憶”を呼び覚ます。

――――――――――――――――――――――――――――――――
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