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帰還  〜ポーレット〜

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「フー。グラトニー商会は明日行くとして、教会に顔出してから“日暮れの暖炉”に行こうか。」

「「「賛成!」」」

 そう言うとイオリ達は教会の扉を開いた。
 相変わらず、静かな教会の祭壇に蝋燭を灯しているエドバルドの姿があった。

「ただいま帰りました。エドバルドさん。」

「イオリさん!お帰りなさい。無事のお帰りをお待ちしていました。
 まずはお祈りしますか?」

「お願いします。」

 エドバルドは嬉しそうに場所を譲った。




_________

「リュオン様。
 無事にポーレットに着きました。」

 すると、リュオン像から微かな光りがイオリを包み込んだ。

《お帰りなさい。これからも貴方を見守ります。
 得た知識を、どう使うかは貴方次第です。
 どうぞ、心のままに・・・・。》
_________




 リュオンの声を聞き微笑むとイオリはエドバルドに向き合った。

「そう言えば、アンティティラの教会でダーグルさんにお会いしましたよ。
 エドバルドさんに、宜しくって。」

 エドバルドは苦笑すると頷いた。

「そうですか、彼は元気でしたか?」

「初めてお会いした時、教会で違法な行いをした冒険者達を捻り上げていました。」

「あははははは!そうですか。
 変わっていませんね。何よりです。
 それで、イオリさん。今回の旅で何かを得ましたか?」

 エドバルドは楽しそうに笑うとイオリに尋ねた。

「新しい家族と、この国の先人の尊い志を知りました。」

「ほう・・・。それは、それは。また重たい物を持ち帰りましたね。」

 優しいエドバルドの視線を受けヒューゴは会釈をした。

「ヒューゴと申します。妹のニナです。」

「この街の教会の代表をしています。エドバルドと申します。
 どうぞ、いつでもおいで下さい。」

 優しく撫でられるとニナは嬉しそうにしていた。



 エドバルドにも後日改めてと教会を出れば陽が今にも落ちそうになっていて、街灯の光が灯り始めていた。

 急いで日暮れの暖炉に向かうと子供達が嬉しそうに走りだした。

「気をつけるんだよ!!」

「「はーい!!ナギ!行こう!!」」

「うん!」

 心配そうなアウラはイオリの頷きを見ると子供達の背中を追うように走っていく。

「日暮れの暖炉は俺がこの街に来て初めて泊まった宿なんです。
 それ以来、お世話になってて子供達も懐いているんですよ。」

 微笑むイオリにヒューゴも楽しそうに笑った。
 子供達が行ってしまったのを見て、ニナも早くとヒューゴの胸を叩いていた。

「そうだね。俺達も行きましょう。」

 イオリはゼンを撫でながらヒューゴを案内した。




「ガーリックチキン出来たぞ!」

「はーい!!お客さん、お待たせ。
 ウチの名物ガーリックチキンよ。」

「こっちに酒!頼む!」

「はーい!!」

 忙しい時間帯の日暮れの暖炉では先ほどイオリ達に因縁をつけた男達が飲み直しをしていた。

「あー!しくったな・・・。
 まさか、あんなガキがSランクなんて思わねーじゃねーか!」

「普通はあそこで小銭出させて、酒の一杯でも浮くんだけどな。」

「これから、どーするよ。
 この街には結構、良い仕事があるって聞いて来たんだ。
 美味い飯屋も多いしよ。」

「そうは言ってもよ。ギルドで目をつけられるのは不味いぜ。」

 手にする酒を一気に煽るとリーダー格の男が馬鹿にするように言い出した。

「って言うか、あんなガキがSランクって事自体が可笑しくないか?
 ちっせー子供も連れていたしよ。
 魔の森があるから、どんな強え冒険者がいるかと思えば大した事ねーな。」

 乾いた笑いを酒で潤していると、店の女将がテーブルに手をつくように聞いてきた。

「ねー!今の話、本当?
 子供を連れた若いSランク冒険者の話!」

「んあ?なんだよ・・・。そうだよ。
 さっきギルドに顔出して直ぐに出て行ったぜ。」

 驚いた男達の1人が答えると女将はズイッ!っと真剣な顔を近づけた。

「じゃあ、側に白い狼いなかった?」

「いたよ?黒い小せえ馬も・・・何だよ一体!
 あんなガキが何だって言うんだよ!」

「ガキって!!あの子達の事、そんな言い方しないで!!」

 ギャーギャー言い出した客と女将の言い争いに店主のライオンの獣人が止めに入った。

「おいおい!何だってんだよ!」

「貴方!あの子達が帰ってきたのよ!」

「何!?本当か!いつだ?!」

「さっきギルドに顔出したって!
 それを・・・このお客さんがガキだとか、大した事ないとか、この街のギルドの悪口とあの子達を悪く言うから・・・。」

「何ぃぃ?本当かい?お客さん?」

 青すじを立てたライオンの獣人に威嚇されて冒険者達は慌てたように言った。

「だって、そうだろ!なんでガキがSランクなんだよ!」

「そうだ!百戦の英雄じゃないと貰えない称号だ!」

「クソが!胸糞悪い店だぜ!帰ろうぜ!」

 そう言って立ち上がった男達だったが、店主につかまった。

「出て行ってくれるのは賛成だが、金は置いてけよ。
 食い逃げで治安維持隊に捕まる前にな!」

「うるせーな!!わかってるよ!
 これで良いんだろう!」

 バンとテーブルに手を叩きつけると腕輪からお金を置いて悪態をついて出て行った。

 それを確認すると店主は眉を下げて食事中の客達に頭を下げた。

「すまないな。お客さん方、迷惑かけた。酒一杯サービスするから、許してくれ。」

 仕事に戻ろうした時だった。
 扉がバン!と開け放たれ子供達が飛び込んできた。

「「「ただいまー!!」」」

「「・・・・・!? おかえり!!」」

 獣人の夫婦は嬉しそうに子供達を迎え入れた。
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