拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~

ぽん

文字の大きさ
114 / 389
帰還  〜ポーレット〜

276

しおりを挟む
「フー。グラトニー商会は明日行くとして、教会に顔出してから“日暮れの暖炉”に行こうか。」

「「「賛成!」」」

 そう言うとイオリ達は教会の扉を開いた。
 相変わらず、静かな教会の祭壇に蝋燭を灯しているエドバルドの姿があった。

「ただいま帰りました。エドバルドさん。」

「イオリさん!お帰りなさい。無事のお帰りをお待ちしていました。
 まずはお祈りしますか?」

「お願いします。」

 エドバルドは嬉しそうに場所を譲った。




_________

「リュオン様。
 無事にポーレットに着きました。」

 すると、リュオン像から微かな光りがイオリを包み込んだ。

《お帰りなさい。これからも貴方を見守ります。
 得た知識を、どう使うかは貴方次第です。
 どうぞ、心のままに・・・・。》
_________




 リュオンの声を聞き微笑むとイオリはエドバルドに向き合った。

「そう言えば、アンティティラの教会でダーグルさんにお会いしましたよ。
 エドバルドさんに、宜しくって。」

 エドバルドは苦笑すると頷いた。

「そうですか、彼は元気でしたか?」

「初めてお会いした時、教会で違法な行いをした冒険者達を捻り上げていました。」

「あははははは!そうですか。
 変わっていませんね。何よりです。
 それで、イオリさん。今回の旅で何かを得ましたか?」

 エドバルドは楽しそうに笑うとイオリに尋ねた。

「新しい家族と、この国の先人の尊い志を知りました。」

「ほう・・・。それは、それは。また重たい物を持ち帰りましたね。」

 優しいエドバルドの視線を受けヒューゴは会釈をした。

「ヒューゴと申します。妹のニナです。」

「この街の教会の代表をしています。エドバルドと申します。
 どうぞ、いつでもおいで下さい。」

 優しく撫でられるとニナは嬉しそうにしていた。



 エドバルドにも後日改めてと教会を出れば陽が今にも落ちそうになっていて、街灯の光が灯り始めていた。

 急いで日暮れの暖炉に向かうと子供達が嬉しそうに走りだした。

「気をつけるんだよ!!」

「「はーい!!ナギ!行こう!!」」

「うん!」

 心配そうなアウラはイオリの頷きを見ると子供達の背中を追うように走っていく。

「日暮れの暖炉は俺がこの街に来て初めて泊まった宿なんです。
 それ以来、お世話になってて子供達も懐いているんですよ。」

 微笑むイオリにヒューゴも楽しそうに笑った。
 子供達が行ってしまったのを見て、ニナも早くとヒューゴの胸を叩いていた。

「そうだね。俺達も行きましょう。」

 イオリはゼンを撫でながらヒューゴを案内した。




「ガーリックチキン出来たぞ!」

「はーい!!お客さん、お待たせ。
 ウチの名物ガーリックチキンよ。」

「こっちに酒!頼む!」

「はーい!!」

 忙しい時間帯の日暮れの暖炉では先ほどイオリ達に因縁をつけた男達が飲み直しをしていた。

「あー!しくったな・・・。
 まさか、あんなガキがSランクなんて思わねーじゃねーか!」

「普通はあそこで小銭出させて、酒の一杯でも浮くんだけどな。」

「これから、どーするよ。
 この街には結構、良い仕事があるって聞いて来たんだ。
 美味い飯屋も多いしよ。」

「そうは言ってもよ。ギルドで目をつけられるのは不味いぜ。」

 手にする酒を一気に煽るとリーダー格の男が馬鹿にするように言い出した。

「って言うか、あんなガキがSランクって事自体が可笑しくないか?
 ちっせー子供も連れていたしよ。
 魔の森があるから、どんな強え冒険者がいるかと思えば大した事ねーな。」

 乾いた笑いを酒で潤していると、店の女将がテーブルに手をつくように聞いてきた。

「ねー!今の話、本当?
 子供を連れた若いSランク冒険者の話!」

「んあ?なんだよ・・・。そうだよ。
 さっきギルドに顔出して直ぐに出て行ったぜ。」

 驚いた男達の1人が答えると女将はズイッ!っと真剣な顔を近づけた。

「じゃあ、側に白い狼いなかった?」

「いたよ?黒い小せえ馬も・・・何だよ一体!
 あんなガキが何だって言うんだよ!」

「ガキって!!あの子達の事、そんな言い方しないで!!」

 ギャーギャー言い出した客と女将の言い争いに店主のライオンの獣人が止めに入った。

「おいおい!何だってんだよ!」

「貴方!あの子達が帰ってきたのよ!」

「何!?本当か!いつだ?!」

「さっきギルドに顔出したって!
 それを・・・このお客さんがガキだとか、大した事ないとか、この街のギルドの悪口とあの子達を悪く言うから・・・。」

「何ぃぃ?本当かい?お客さん?」

 青すじを立てたライオンの獣人に威嚇されて冒険者達は慌てたように言った。

「だって、そうだろ!なんでガキがSランクなんだよ!」

「そうだ!百戦の英雄じゃないと貰えない称号だ!」

「クソが!胸糞悪い店だぜ!帰ろうぜ!」

 そう言って立ち上がった男達だったが、店主につかまった。

「出て行ってくれるのは賛成だが、金は置いてけよ。
 食い逃げで治安維持隊に捕まる前にな!」

「うるせーな!!わかってるよ!
 これで良いんだろう!」

 バンとテーブルに手を叩きつけると腕輪からお金を置いて悪態をついて出て行った。

 それを確認すると店主は眉を下げて食事中の客達に頭を下げた。

「すまないな。お客さん方、迷惑かけた。酒一杯サービスするから、許してくれ。」

 仕事に戻ろうした時だった。
 扉がバン!と開け放たれ子供達が飛び込んできた。

「「「ただいまー!!」」」

「「・・・・・!? おかえり!!」」

 獣人の夫婦は嬉しそうに子供達を迎え入れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

ボクは転生者!塩だけの世界で料理&領地開拓!

あんり
ファンタジー
20歳で事故に遭った下門快斗は、目を覚ますとなんと塩だけの世界に転生していた! そこで生まれたのは、前世の記憶を持ったカイト・ブラウン・マーシュ。 塩だけの世界に、少しずつ調味料を足して…沖縄風の料理を考えたり、仲間たちと領地を発展させたり、毎日が小さな冒険でいっぱい! でも、5歳の誕生日には王都でびっくりするような出来事が待っている。 300年前の“稀人”との出会い、王太子妃のちょっと怖い陰謀、森の魔獣たちとの出会い…ドキドキも、笑いも、ちょっぴり不思議な奇跡も、ぜんぶ一緒に味わえる異世界ローファンタジー! 家族や周りの人達に愛されながら育っていくカイト。そんなカイトの周りには、家族を中心に愛が溢れ、笑いあり、ほっこりあり、ちょっとワクワクする“グルメ&ファンタジーライフ”が今、始まる!

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。