拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~

ぽん

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帰還  〜ポーレット〜

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「はぁー。昨日のカツ丼は格別に旨かったな・・・。」

 天井を仰ぎ見るヴァルトは思い出すかの様に目を細めた。

「えぇ、そうですね。聞けば味付けの決め手は海で取れる干し魚だそうです。
 山の物と海の物の癒合が昨夜のカツ丼なのですね。」

 なんだかんだ言って、大食漢のトゥーレもお気に入りだったのかヴァルトに同調して目を細めていた。

「米は良いな。単体で食べると何だか分からないが、味の濃い料理が出されると米が無性に食べたくなる。
 イオリはそれをよく知ってるぜ。」

 マルクルなんて食通にでもなったかの様に批評を始めると、3人は顔を見合わせニヤリとした。

「さぁ、イオリにばかり気を取られてはいられませんよ。
 また書類が溜まらないように仕事を進めましょう。」

 トゥーレの言葉にヴァルトは溜息を吐きながら書類の束を手にとった。
 クロムスがテーブルの端で齧っているのは、昨夜イオリから貰った飴がけのアーモンドだろう。
 手を伸ばそうとすると、小さな手でパチンっ!と叩かれた。

「そう言えば、聞きました?商人ギルドから、イオリへの面会を嘆願する手紙が届いたらしいですよ。」

 自身も仕事の書類から目を離さずにトゥーレは言った。

「やっとか・・・。いつ来るものかと思っていたが、想像より遅かったな。
 で?父上はどうするって?」

「イオリに聞いてから返事をする様で後ほどガーデンに招待すると言っていましたよ。」

「それなら、その時一緒に休憩を取ろう。
 父上達の話も聞けるだろうからな。」

 一先ずは仕事に没頭することになったヴァルトであったが一枚の報告書で手が止まった。

「昨日、イオリに絡んだ冒険者達の処分はどうなった?」

「街からの退去は免れませんが、冒険者ギルドの判断はまだついてませんよ?
 どうしました?」

 ヴァルトが一枚の書類をトゥーレに差し出した。

「なるほど、貴族の依頼を受けた冒険者達なのですね。
 これは・・・。冒険者ギルドへ伝えておきましょう。

 正式な依頼の裏に違法依頼を受ける冒険者がいるとはね。
 小銭稼ぎの裏には大金が動くと言うやつですか?」

 マルクルも席を立ち、トゥーレの持っている紙を覗くと顔を顰めた。

「これは泥棒じゃないか?ホワイトキャビンの製造元から砂糖のレシピを盗めって事だろう?」

「正確には違いますね。どの様な製造工程の元、安値が実現できるのか確認を取れです。」

「一緒だろうが!」

 怒るマルクルは詰め寄られ、呆れたトゥーレは首を横に振った。

「私に怒らないでください。彼らの残した契約書類にそう書かれているんですから。」

「何はともあれ、あれを野放しにするな。面倒を起こすぞ。」

「承知しました。今すぐに、治安維持隊に伝えましょう。
 ギルドには書面でよろしいですか?」

「あぁ、早い方がいい。
 それと父上と兄上にも伝えてくれ。
 タヴァロス侯爵が動いたとな。」

 トゥーレとマルクルが足早に部屋を出ていくとヴァルトは呻く様に天井を仰いだ。

「面倒な人だ・・・。
 自分の娘を兄上に押し付けようとして、断れると今度は砂糖か・・・。」

 胸元をトントンとされ首を下げると、クロムスが飴がけアーモンドを一粒《まぁ、食え》という様に差し出してきた。

「ありがとう。もう少し頑張れるよ。」

 ヴァルトは微笑むと飴がけアーモンドを口に入れた。
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