拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~

ぽん

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新たな旅 ーミズガルドー

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「トーレチカ兄上!!」

 母と妻を安全な場所に連れて戻ったイグナートは壊された王宮から姿を現した異形の大蛇ドミトリー・ドナードを見上げた。

「あれが、あの者の研究とやらなのか・・・?
 あんな姿になってまで何をしたかったのだ。」

 呟くイグナートにトーレチカはポンっと肩を叩いた。

「あの者の考えなど誰も理解など出来んよ。
 そして理解などしてはいけないんだ。
 市民の避難は始まっている。後はあれをどうするかだが・・・。」

 そんな2人の兄弟が話しているとトーレチカの側にいたリルラが袖を引っ張り無言で指をさした。

「ん?あれは・・・。」

 それは、白い狼に乗った真っ黒な青年が異形の大蛇に立ち向かっている姿だった。
 白い狼は先ほどの姿よりも大きくなっていて器用に瓦礫を足場に登って行っている。

「あの者は・・・先程の・・・。」

 トーレチカの疑問に答えたのはイグナートだった。

「ヴァルト殿の護衛の冒険者です。
 白き狼はもっと小さかったですが・・・。
 ポーレット公爵から、随分と信頼されているらしいです。」

「それどころじゃない。」

 イグナートの言葉に被せたのはリルラだった。

「イオリは・・・私達の恩人だ。
 奴隷印を外してくれたのも、自由をくれたのもイオリ。
 ポーレット公爵だけじゃない。
 アースガイル王もイオリを信頼してる。
 この状況を変えてくれるのはイオリだけだよ。」

 驚くイグナートとは別にトーレチカは納得した様だった。

「そうか・・・あれが“黒狼”か・・・。」

 トーレチカの言葉が届いたのか、イオリは異形の大蛇ドミトリー・ドナードに銃口を向け挨拶代わりの一撃を与えた。

ドガァーーーーン!!

 イオリが放った爆撃弾により頭の辺りに煙が立ち込めると、異形の蛇は苛立った様に尻尾を振りゼンを叩き付けた。

 土煙を上げて叩きつけられたイオリとゼンをリルラは声泣き悲鳴を上げて助けようと飛び出した。

「リルラ!待て!!イオリ達の邪魔になる!!」

 息を上げて走って来たヴァルトに止められてリルラは涙を堪えた。

「しかし、ヴァルト殿!
 あの者1人に任せるなど・・・。」

 慌てるイグナートにヴァルトは首を振った。

「まだ、我々が手を出せる相手じゃありません。
 今はイオリに任せます。
 聖属性を持つ私の従魔が王宮を囲んでいます。
 気味の悪い大蛇も簡単にはあそこから出る事はできないでしょう。
 その間に陣形を立て直してください。
 ミズガルドの軍は2人の命令を待っています!!」

 トーレチカはヴァルトに頷くとグロトフ伯爵を呼び出すと魔法を使える人材と騎士達の配置を伝えた。

「急げ!!あの冒険者が耐えているうちに!」

「はっ!!」

 軍は速やかに王宮を囲むと攻撃に備えた。

「・・・ヴァルト様!!あそこ!」

 リルラが指を差す場所に土煙の中、立っているイオリとゼンの姿を確認した。
 安心したヴァルトであったが、すぐに首を傾げた。
 イオリの腕が真っ赤な光で輝いていた。
 次の瞬間、腕をあげたイオリに答える様に腕から赤い光が飛び立ち眩い光を放った。
 
 驚くヴァルト達が目にしたのは美しい真っ赤な“ドラゴン”だった。

「ソル・・・か?何故?」

 戸惑うヴァルトであったが、己の目に移ったのは伝説の生き物ドラゴンが姿を表した事実だった。

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