拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~

ぽん

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新たな旅 ーミズガルドー

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「疲れたぁー。」

 腰を下ろし、水を飲むイオリは瓦礫の上で休んでいた。

「それはそうだろう。
 あんなでっかい蛇を相手に1人で立ち向かったんだぞ?」

 ヴァルトは笑うと一緒になって腰を下ろした。
 そんなヴァルトをフワフワの白い毛玉が不満そうに小突いてきた。

『1人じゃないよ!ボクとソルも頑張ったもん!!』

「そうだな。見てたよ。
 お前達のお陰だよ。ありがとう。」

 ゼンをクシャクシャに撫でるとヴァルトは嬉しそうに微笑んだ。

 イオリは王宮を見上げているトーレチカとイグナートの兄弟に目をやり呟いた。

「この国は大丈夫なんでしょうか?
 当初はスコルとパティの事やナギの事があったらミズガルドという国が滅んでも別にいいや。って思ってたんですけどね。
 あのお2人がいるのなら、良いかな位には思える様になってきたんですよ。
 ここに住んでいる人達だって困るだろうし。」

 ヴァルトは頷くとイオリの肩を叩いた。

「この国の事を決めるのは、この国の人間だよ。
 この際、差別なんかもなくす国政を望むが根付いた人の心理ほど厄介な物はない。
 今まで信じて生きてきた事を捨てて新し考え方をするって怖い事だろうからな。
 初代アースガイル国王の《実際に大変だったのは国を得てからだった》と言う言葉が残っている位だからな。
 生半可な事ではダメだろう。
 
 まぁ、その時はアースガイルがいつでも相手になるがな。」

 そんなヴァルトの言葉にトゥーレとマルクルも満更ではない顔で頷いていた。






「王宮が滅茶苦茶だ・・・。」

 見上げて呟くイグナートにトーレチカも続いて見上げた。

「これで良いのさ。
 過ちを正すには・・・
 新しく生きるには、醜悪なこの城など無用だよ。」

 そう話すトーレチカにイグナートも微笑みを返した。
 そんな時だった。

「皆の者、よくぞ国難を乗り越えた。
 褒美を取らせるぞ!!」

 ズタボロになった国王イヴァンが堂々と王宮に戻ってきた。
 後ろからは、後宮や王宮の奥に逃げ込んでいた王妃や側室、王子や姫がゾロゾロとついてきていた。

「私の王宮が壊れているではないか!!
 今すぐに直せ!!
 そして、我々が休める場所を確保せよ!
 早くしないか!!

 おぉ!!トーレチカ!それにイグナートではないか!
 此度の件は誠によくやった。
 褒めて遣わすぞ!!
 これからも、ワシの為に良き働きをしなさい。」

 イヴァンは2人の兄弟を見つけると嬉しそうに近寄ってきた。

 トーレチカは溜息を吐くと国王イヴァンに言った。

「国難にあって、貴方は今まで何をしていたのですか?
 兄上?」

「な・・・何とは何だ!
 私は国王だぞ!私の手となり足となるのが家臣達の仕事だろう?
 それなのに、この様な状況を作り出し王宮を壊すとはけしからん!!
 貴族共も私をおいて、さっさと逃げおった。
 やはり、信頼できるのは肉親しかいないの?
 トーレチカでかしたぞ!」

 そんな国王イヴァンをトーレチカは殴りつけた。
 拳が顔にめり込み、血や涙でグチョグチョになった国王は瓦礫に倒れながら踠いていた。

「国王とは玉座に座る事だけが仕事ではないぞ!!
 愚兄め!!
 何度も何度も忠告をした貴族を排除し、挙げ句の果てにヴァハマンに手玉にとられて自身は怯えて隠れている?
 それの、何処が国王か!

 良いか兄上よ・・・。
 私は病弱でもなければ愚鈍でもない。
 長兄を死に追いやったヴァハマンの傀儡になったお前に一筋の情があったから、側にいただけだ。
 
 今回の事件は我ら王族の罪だ!!
 愚かなお前と、それを諫めなかった私の罪だ!!
 
 死んだ者は帰ることはない。
 罪を償う方法すらないのだ!
 
 本来ならば、我らは死をもって償わなければいけない身!
 それを、カレリンを含めアパルキンやグロトフが我々を支えると手を貸してくれたのだ。
 
 何が王宮を直せだ?今すぐ休むだ?
 良い加減にしないか!!」

 普段、大人しい義弟が声を荒げているのに国王イヴァンは怯えていた。

「国王陛下イヴァン様は国難に際し、精神が崩壊の末、錯乱状態に陥ったために隔離して余生を送られる事となった。
 速やかに空いている部屋に連れて行く様に。」

 表情のない顔でトーレチカは指示を出した。

「はっ!」

 衛兵に捕まれ引きずられて行く国王イヴァンは最後まで騒いでいた。

「トーレチカ!貴様!私は錯乱などしていないぞ!
 お前まで私を裏切るのか!!
 トーレチカ!答えろ!トーレチカーーーーーー!!!」

 国王が連れて行かれた事で慌て出したのが王妃や側室、王子や姫達であった。

 そんな状況でもトーレチカは速やかに拘束ののち、それぞれの背景を調べ処分を決めて行くと告げた。
 中でも、王妃と長男は激しい抵抗を見せたが周りにいる貴族はいつも甘い言葉ばかり言う者達ではない。
 あっけなく拘束されると順々に連れて行かれていった。

「私は国王になどなりたくない・・・。
 今からでも変わらないかい?イグナート。
 お前の方がよっぽど向いていると思うよ。」

 イグナートは首を振ると妻ソフィアを抱き寄せた。

「私たちは静かに領地を守ります。
 それに、国王にふさわしいのは本当の意味で国を憂いておいでだったトーレチカ兄上でしょう。
 ご自身の領地に足を運ばなくても、差別のなく領民が笑顔で過ごすミズガルドでは珍しい土地を作り上げておいでだ。
 衛兵も手紙1つで集まってきて、兄上の考えを組み王都の住民達を避難させました。
 王宮の奥から国内の情報を集め、手助けもしてやっていた。
 見事です。
 私など、自分の悲運に妻を巻き込み悲しい思いをさせてきました。
 これからは国を支える一貴族として前を向いていきます。」

「そうか・・・やはり、私が国王かぁ・・・。」

 そんなトーレチカにイグナートと妻ソフィアは微笑んだのであった。
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