続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路〜王都〜

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トントントントン

ジュッ ジュワー  

グツグツグツ

 夕焼けが色を染め始めた頃、森の中で美味しそうな音がする。

「イオリー。お米炊けたー。」

「了解!
 こっちも出来るからみんなに声をかけてきて。」

「はーい。」

 スコルは木陰に設置されたテントに姿を消していった。

「トンカツは多めに作って保存しておこう。
 時間がない時にカツ丼にでもしよう。」

 イオリはそれぞれの皿にロースカツを盛り付けると味噌汁をお椀によそっていった。


 
 ゼンの言う通りに陽が沈むより早くに野営地を決めたイオリ達は、昼間同様にテントやテーブルを準備した。
 テントの中に興味があったアレックスとロジャーの案内をパティとナギに頼み、イオリとスコルは料理に取り掛かり、ヒューゴとニナはシールドを貼り始めた。
 
「あぁ~。良い風呂だった。
 本当に旅路なのか忘れそうになるな。」

 さっぱりしたようなアレックスはご機嫌にイオリのテントから出てきた。

「気に入ってもらったようで何よりです。
 御2人は今夜は・・・。」

「あぁ、イオリ達の隣にテントを立てるよ。
 寝る時は自分のベッドの方が落ち着くからな。」

「分かります。
 それじゃ、ご飯は遠慮なく食べていってくださいね。」

 アレックスはテーブルに並ぶ料理に目を輝かすと、ニッコリと頷いた。

「うわぁぁ。良い匂い!
 美味そう!!」

「トンカツだ!!」

「お腹減ったぁ。」

 ロジャーにパティ、ナギが顔を出すと嬉しそうにテーブルに近づいてきた。

「兄様、早く!早く!」

「分かってるよ。ニナ。」

 川で手を洗い終えたヒューゴをニナが引っ張っている。

「みんな、揃ったね。
 今日はロースカツだよ。
 パティが解体してくれたレッドボアの肉を使ってるんだ。
 お好みで塩かソースを使ってね。
 サラダもしっかり食べてね。
 スープはキノコのお味噌汁だよ。
 食後にはフルーツ寒天があるからね。
 さぁ、召し上がれ!」

「「「「いただきまーす!!」」」」

 手を合わせ、フォークや箸を手に子供達が食べ始めるとアレックスとロジャーも見よう見まねで食べ始めた。

「これは米か?
 ・・・そんなに美味いのかい?」

 米に食べ慣れていないアレックスが戸惑うように言うとスコルが頷いた。

「騙されたと思って食べてみて。
 米は家畜の餌なんかじゃないよ!
 ロースカツにはソースね。
 カツを食べてから米をかき込むの!」

「ほうほう・・・。
 ・・・旨ッ!
 なんだこれ!?これが米か?」

 アレックスはロースカツと米の組み合わせを気に入ったらしい。

「ロジャー、これ!
 美味しいから食べてみて!」

 パティは添え付けのキュウリをロジャーに進めた。

「えー!これ野菜じゃんかぁ。
 俺、肉の方が好き・・・。」

 難色を示すロジャーにパティとナギが分かってないなと馬鹿にするように息を吐いた。

「これだから、ロジャーは・・・。
 これは、ただのキュウリじゃないんだよ。
 イオリ特製のお漬物。
 米が好きなら、キュウリの漬物は外せないよ。」

「そうだよ。
 キュウリだけじゃないよ。
 イオリの料理ならニナだって嫌いな野菜を食べるよ。」

 それを聞いたロジャーは興味津々でキュウリの漬物をフォークで刺し、パクッっと口に入れた。

「・・・んま!
 美味いよ!これ!」

 感動するロジャーにイオリは笑った。

「ありがとうございます。
 米の殻に塩とか昆布とかを混ぜて漬けるんです。
 祖母から教えてもらったんですよ。
 塩や昆布は勿論、ダグスク産ですよ。」

 黙々と食べるヒューゴに比べ、ロジャーとアレックスは随分と騒がしかった。
 それもこれも、自分の料理が気に入ってくれたかと思えば、嬉しいイオリであった。

「さぁ、明日も頑張りましょう。」
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