111 / 784
旅路〜王都〜
119
しおりを挟むトントントントン
ジュッ ジュワー
グツグツグツ
夕焼けが色を染め始めた頃、森の中で美味しそうな音がする。
「イオリー。お米炊けたー。」
「了解!
こっちも出来るからみんなに声をかけてきて。」
「はーい。」
スコルは木陰に設置されたテントに姿を消していった。
「トンカツは多めに作って保存しておこう。
時間がない時にカツ丼にでもしよう。」
イオリはそれぞれの皿にロースカツを盛り付けると味噌汁をお椀によそっていった。
ゼンの言う通りに陽が沈むより早くに野営地を決めたイオリ達は、昼間同様にテントやテーブルを準備した。
テントの中に興味があったアレックスとロジャーの案内をパティとナギに頼み、イオリとスコルは料理に取り掛かり、ヒューゴとニナはシールドを貼り始めた。
「あぁ~。良い風呂だった。
本当に旅路なのか忘れそうになるな。」
さっぱりしたようなアレックスはご機嫌にイオリのテントから出てきた。
「気に入ってもらったようで何よりです。
御2人は今夜は・・・。」
「あぁ、イオリ達の隣にテントを立てるよ。
寝る時は自分のベッドの方が落ち着くからな。」
「分かります。
それじゃ、ご飯は遠慮なく食べていってくださいね。」
アレックスはテーブルに並ぶ料理に目を輝かすと、ニッコリと頷いた。
「うわぁぁ。良い匂い!
美味そう!!」
「トンカツだ!!」
「お腹減ったぁ。」
ロジャーにパティ、ナギが顔を出すと嬉しそうにテーブルに近づいてきた。
「兄様、早く!早く!」
「分かってるよ。ニナ。」
川で手を洗い終えたヒューゴをニナが引っ張っている。
「みんな、揃ったね。
今日はロースカツだよ。
パティが解体してくれたレッドボアの肉を使ってるんだ。
お好みで塩かソースを使ってね。
サラダもしっかり食べてね。
スープはキノコのお味噌汁だよ。
食後にはフルーツ寒天があるからね。
さぁ、召し上がれ!」
「「「「いただきまーす!!」」」」
手を合わせ、フォークや箸を手に子供達が食べ始めるとアレックスとロジャーも見よう見まねで食べ始めた。
「これは米か?
・・・そんなに美味いのかい?」
米に食べ慣れていないアレックスが戸惑うように言うとスコルが頷いた。
「騙されたと思って食べてみて。
米は家畜の餌なんかじゃないよ!
ロースカツにはソースね。
カツを食べてから米をかき込むの!」
「ほうほう・・・。
・・・旨ッ!
なんだこれ!?これが米か?」
アレックスはロースカツと米の組み合わせを気に入ったらしい。
「ロジャー、これ!
美味しいから食べてみて!」
パティは添え付けのキュウリをロジャーに進めた。
「えー!これ野菜じゃんかぁ。
俺、肉の方が好き・・・。」
難色を示すロジャーにパティとナギが分かってないなと馬鹿にするように息を吐いた。
「これだから、ロジャーは・・・。
これは、ただのキュウリじゃないんだよ。
イオリ特製のお漬物。
米が好きなら、キュウリの漬物は外せないよ。」
「そうだよ。
キュウリだけじゃないよ。
イオリの料理ならニナだって嫌いな野菜を食べるよ。」
それを聞いたロジャーは興味津々でキュウリの漬物をフォークで刺し、パクッっと口に入れた。
「・・・んま!
美味いよ!これ!」
感動するロジャーにイオリは笑った。
「ありがとうございます。
米の殻に塩とか昆布とかを混ぜて漬けるんです。
祖母から教えてもらったんですよ。
塩や昆布は勿論、ダグスク産ですよ。」
黙々と食べるヒューゴに比べ、ロジャーとアレックスは随分と騒がしかった。
それもこれも、自分の料理が気に入ってくれたかと思えば、嬉しいイオリであった。
「さぁ、明日も頑張りましょう。」
1,521
あなたにおすすめの小説
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。
かの
ファンタジー
孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。
ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
ボクは転生者!塩だけの世界で料理&領地開拓!
あんり
ファンタジー
20歳で事故に遭った下門快斗は、目を覚ますとなんと塩だけの世界に転生していた!
そこで生まれたのは、前世の記憶を持ったカイト・ブラウン・マーシュ。
塩だけの世界に、少しずつ調味料を足して…沖縄風の料理を考えたり、仲間たちと領地を発展させたり、毎日が小さな冒険でいっぱい!
でも、5歳の誕生日には王都でびっくりするような出来事が待っている。
300年前の“稀人”との出会い、王太子妃のちょっと怖い陰謀、森の魔獣たちとの出会い…ドキドキも、笑いも、ちょっぴり不思議な奇跡も、ぜんぶ一緒に味わえる異世界ローファンタジー!
家族や周りの人達に愛されながら育っていくカイト。そんなカイトの周りには、家族を中心に愛が溢れ、笑いあり、ほっこりあり、ちょっとワクワクする“グルメ&ファンタジーライフ”が今、始まる!
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
モンド家の、香麗なギフトは『ルゥ』でした。~家族一緒にこの異世界で美味しいスローライフを送ります~
みちのあかり
ファンタジー
10歳で『ルゥ』というギフトを得た僕。
どんなギフトかわからないまま、義理の兄たちとダンジョンに潜ったけど、役立たずと言われ取り残されてしまった。
一人きりで動くこともできない僕を助けてくれたのは一匹のフェンリルだった。僕のギルト『ルゥ』で出来たスープは、フェンリルの古傷を直すほどのとんでもないギフトだった。
その頃、母も僕のせいで離婚をされた。僕のギフトを理解できない義兄たちの報告のせいだった。
これは、母と僕と妹が、そこから幸せになるまでの、大切な人々との出会いのファンタジーです。
カクヨムにもサブタイ違いで載せています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる