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旅路〜王都〜
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「・・・なんなのだ。
これは・・・。」
国王アルフレッドは唖然としていた。
オンリールの処遇を決め、他の貴族からの詮索も切り抜け、溜まりに溜まった仕事を片付けて戻ってみれば、庭から芳しい香りが漂ってきたのだ。
「あら、アルフレッド。
お帰りなさいませ。」
顔を綻ばせてフォークとスプーンを持っていたのは王妃シシリアである。
「アル!
お仕事終わったの?」
「お疲れー。」
「イオリのご飯美味しいよ。」
「フーフー!」
子供達は国王が帰ってきた事など気にするでもなく、目の前の食事に夢中である。
イオリの料理と聞いて、尚更に黙ってはいられない。
アルフレッドはズカズカとテーブルに近づき、地団駄を踏んだ。
「狡いではないか!
ワシがしたくもない仕事で苦しんでいる間に、美味そうなものを食いおって!!」
「したくもない仕事とは聞き捨てなりませんね。
その仕事を多くの人間が支えているのもお忘れなきように。」
「うっ・・・分かっている。」
一緒に来た宰相グレンの針のような声にアルフレッドは冷や汗をかいた。
「あれっ?
お2人共、帰ってきてたんですか?
どうです?
食べます?小田巻蒸し。」
そこにイオリがニコニコしなが現れた。
手には大きな器を乗せたトレーを持っていた。
「食べる!」
元気よく手をあげ、テーブルに座ったアルフレッドに苦笑するとイオリはハミルトンにトレーを差し出した。
受け取ったハミルトンはアルフレッドの前に置くと「熱いのでお気をつけてお召し上がり下さい。」と注意喚起している。
「オダマキムシとは何ですか?
ムシとはまさか、虫ではないですよね?」
訝しげなグレンにイオリは笑った。
「まさか!
ムシとは蒸した料理の事ですよ。
小田巻蒸しは茶碗蒸しの中にうどんを入れたものです。
うどんは麺類ですよ。
鶏肉と練り物、油揚げやネギも入ってます。
美味しいんですよ。
グレンさんも如何です?」
「よく分かりませんが、とても美味しそうです。
是非、頂きます。」
顔を綻ばすグレンに頷くとイオリはキッチンに戻って行った。
「何だこれは!?
熱いの~。
でも、それもまた良い!」
大きな声で喜ぶアルフレッドはうどんをフォークに巻きつけた。
「茶碗蒸しはスプーンで掬うと良いよ。」
勝手知ったるスコルが薦めるとアルフレッドは真剣な顔で頷いた。
「はぁ~。
優しい味だ。
これはいくらでも食べられそうだ。」
「ダメよ。アルフレッド。
後で、デザートも出るのよ。
お腹に余白を空けておかなければ。」
シシリアが鼻高々に教えると、アルフレッドは「それはいかん。」と大切そうに小田巻蒸しを食べた。
グレンの元にもトレーが運ばれてきて、ゼンやアウラ、ヒューゴもフーフーしながら食べ始めた。
「全部、アースガイルで手に入る材料で作ったんですよ。
茶碗蒸しの決め手の出汁や練り物はダグスクから。
うどんの材料の小麦やネギは王城で分けて頂きましたし、鶏肉は旅の途中で狩って来ました。
美味しいでしょう?」
一同が頷くのをイオリは満足そうに微笑んだ。
「アルフレッド。
今日は私がイオリちゃんにデザートをお願いしたの。
先日、“デザリア”のカカオの話はしたでしょう?
貴方も食べたがっていたじゃない。」
「おぉ、チョコレートというやつだな?
今日はそれが出るのか?」
アルフレッドは身を乗り出した。
「美味しいチョコレートって、職人さんの手が必要なんですよ。
流石に俺には畑違いです。
でもカカオを利用した他の物なら出来るかと思ってチャレンジしました。
ブラウニーです。
ナッツを混ぜ込んでいるんで食感もあります。
先日、シシィさんにも飲んでもらったホットチョコレートを用意しました。
両方甘いですからね。
ハーブティーとフルーツも準備してもらいましたよ。」
華やかな皿に盛り付けられた茶色の塊を不思議そうに覗く一同であったが、香り豊かなブラウニーを我慢できぬとばかりにイオリを見上げるのだった。
「はいはい。
少し待って下さいね。」
イオリは楽しそうに切り分けていった。
これは・・・。」
国王アルフレッドは唖然としていた。
オンリールの処遇を決め、他の貴族からの詮索も切り抜け、溜まりに溜まった仕事を片付けて戻ってみれば、庭から芳しい香りが漂ってきたのだ。
「あら、アルフレッド。
お帰りなさいませ。」
顔を綻ばせてフォークとスプーンを持っていたのは王妃シシリアである。
「アル!
お仕事終わったの?」
「お疲れー。」
「イオリのご飯美味しいよ。」
「フーフー!」
子供達は国王が帰ってきた事など気にするでもなく、目の前の食事に夢中である。
イオリの料理と聞いて、尚更に黙ってはいられない。
アルフレッドはズカズカとテーブルに近づき、地団駄を踏んだ。
「狡いではないか!
ワシがしたくもない仕事で苦しんでいる間に、美味そうなものを食いおって!!」
「したくもない仕事とは聞き捨てなりませんね。
その仕事を多くの人間が支えているのもお忘れなきように。」
「うっ・・・分かっている。」
一緒に来た宰相グレンの針のような声にアルフレッドは冷や汗をかいた。
「あれっ?
お2人共、帰ってきてたんですか?
どうです?
食べます?小田巻蒸し。」
そこにイオリがニコニコしなが現れた。
手には大きな器を乗せたトレーを持っていた。
「食べる!」
元気よく手をあげ、テーブルに座ったアルフレッドに苦笑するとイオリはハミルトンにトレーを差し出した。
受け取ったハミルトンはアルフレッドの前に置くと「熱いのでお気をつけてお召し上がり下さい。」と注意喚起している。
「オダマキムシとは何ですか?
ムシとはまさか、虫ではないですよね?」
訝しげなグレンにイオリは笑った。
「まさか!
ムシとは蒸した料理の事ですよ。
小田巻蒸しは茶碗蒸しの中にうどんを入れたものです。
うどんは麺類ですよ。
鶏肉と練り物、油揚げやネギも入ってます。
美味しいんですよ。
グレンさんも如何です?」
「よく分かりませんが、とても美味しそうです。
是非、頂きます。」
顔を綻ばすグレンに頷くとイオリはキッチンに戻って行った。
「何だこれは!?
熱いの~。
でも、それもまた良い!」
大きな声で喜ぶアルフレッドはうどんをフォークに巻きつけた。
「茶碗蒸しはスプーンで掬うと良いよ。」
勝手知ったるスコルが薦めるとアルフレッドは真剣な顔で頷いた。
「はぁ~。
優しい味だ。
これはいくらでも食べられそうだ。」
「ダメよ。アルフレッド。
後で、デザートも出るのよ。
お腹に余白を空けておかなければ。」
シシリアが鼻高々に教えると、アルフレッドは「それはいかん。」と大切そうに小田巻蒸しを食べた。
グレンの元にもトレーが運ばれてきて、ゼンやアウラ、ヒューゴもフーフーしながら食べ始めた。
「全部、アースガイルで手に入る材料で作ったんですよ。
茶碗蒸しの決め手の出汁や練り物はダグスクから。
うどんの材料の小麦やネギは王城で分けて頂きましたし、鶏肉は旅の途中で狩って来ました。
美味しいでしょう?」
一同が頷くのをイオリは満足そうに微笑んだ。
「アルフレッド。
今日は私がイオリちゃんにデザートをお願いしたの。
先日、“デザリア”のカカオの話はしたでしょう?
貴方も食べたがっていたじゃない。」
「おぉ、チョコレートというやつだな?
今日はそれが出るのか?」
アルフレッドは身を乗り出した。
「美味しいチョコレートって、職人さんの手が必要なんですよ。
流石に俺には畑違いです。
でもカカオを利用した他の物なら出来るかと思ってチャレンジしました。
ブラウニーです。
ナッツを混ぜ込んでいるんで食感もあります。
先日、シシィさんにも飲んでもらったホットチョコレートを用意しました。
両方甘いですからね。
ハーブティーとフルーツも準備してもらいましたよ。」
華やかな皿に盛り付けられた茶色の塊を不思議そうに覗く一同であったが、香り豊かなブラウニーを我慢できぬとばかりにイオリを見上げるのだった。
「はいはい。
少し待って下さいね。」
イオリは楽しそうに切り分けていった。
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