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旅路〜デザリア・ガレー〜

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 ・・・あれは聖女様が女王になって2年後の事だった。
 
 馴染みの昔話をするようにハーディ翁は滑らかな口調で話し始めた。

「それは王家が秘匿する書簡に記されていた。
 《枯渇した領地の再生に“闇に堕ちた光の置き土産”がデザリアを襲い、聖女を拐かそうと各国を誑かす。》
 ・・・とね。
 それに対抗したデザリアだったが、多様な力の前に崩壊の危機だったと記されていた。
 友好を築いていたアースガイルからの助力には時間がかかる。
 聖女は己の最後の力を使って、“エルフの里”にをかけた。
 聖女の力によって、“エルフの里”はかつてない程に生活が後退したと聞く。
 それより後“エルフの里”の者達が表に出てくる事はなかった。
 ・・・近年まではな。」

 “闇に堕ちた光の置き土産”
 とても面倒な表現であるが、“エルフの里”の事を言っているんだと誰もが分かった。

 そして、ハーディ翁は危機感を持っていたのだ。
 
 聖女の生まれ変わりの王女として誕生した孫、バシラ・フレール。
 近年において聞こえてくる“エルフの里”という忌み名。
 そして、突如としてと呼ばれた青年・イオリの存在。

 ーーー世界の均衡が崩れる

 部屋にいた者達は困惑していた。
 そんな中、1人だけ呑気に笑う者がいた。

「あー。
 やっぱり、そうだったんだ!」

 空気も読まずに笑い出したイオリに視線が向くのも無理はなかった。
 「ハハハ!」笑い続けるイオリに一同が戸惑う中、慣れたようにヒューゴが溜息を吐いた。

「イオリ、1人で笑ってないで、何に気づいたか教えてくれ。」

「すみません。クククッ。
 可笑しくって。
 多分ですけど、俺の存在がなんですよ。」

 肩を震わせながらイオリは説明を始めた。

「この場合、聖女に記憶がないっていうのが、ポイントなんですよね。
 聖女は。」

 
 ーーー???
    言っている意味が分からない。
 
 一同が困惑しているのが分かるイオリは実に楽しそうだ。

「もろもろと端折りますが・・・とりあえず。
 俺がこの世界に来た時にリュオン様が選択させてくれたんですよ。
 年齢が幼くなる代わりに記憶を持って転移するのか、記憶を持たずに生まれ変わるのか。
 俺は記憶を持ったまま転移する事を選びました。
 比べて、聖女はデザリアの姫として生まれ変わった。
 に・・・。」

 あっさりとイオリが暴露した事に気持ちがついていけていないシモン・ヤティムがゲホゲホと咳き込んでいる。

「あっ。
 ちなみに、かつてアースガイルから送られてきた剣士。
 彼も“神の愛し子”です。
 十蔵さんって言うんですよ。」

 再び、イオリの発言によって騒ぎが大きくなっていく。
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