続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

旅路〜ルーシュピケ〜

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　糸紡ぎの小屋に別れを告げると、今度はいよいよ機織り達の小屋の番だった。

　小さな小屋が立ち並ぶのは、徐々に規模を大きくさせてきた歴史の証拠だ。

カタンカタン　カタンカタン

　その中の1つを覗くと、職人達が黙々と布を織り続けている。

「・・・魔法みたい。」

　思わず呟いたのはコーラルだった。

　獣人であるコーラルは魔法が使えない。
　しかし、目の前で機織り作業をしている職人の中にも獣人達がいた。
　彼らが細い糸を操り、作り出している布はコーラルにとって魔法そのものだった。

「ルーシュピケの布はエルフと獣人が時間をかけて作り上げているんです。
　もしかしたら、この布こそがエルフ、獣人といった種族をこえた住人達が1つに纏まった要因かもしれませんね。」

　グラバーは誇らしそうに職人達を見つめた。

「そして、そこにグラバーさんがいる事で人族も繋がりを持つ事が出来ている。
　って事ですね。」

　イオリが微笑むとグラバーはキョトンとした目を瞬かせた。

「・・・そうなるのでしょうか？」

「作る者がいて売る者がいる。
　だから、特産品と技術が長い間も守られるんですよ。」

　自分の故郷もそうだったなと、イオリは思い出していた。

「イオリ～。
　見てみて！
　ガタンッってして、カタンカタンってするんだよ。」

　エルフの女性職人の機織り機を覗き込んでいるナギが嬉しそうな声をあげた。

「こら、邪魔しちゃダメだよ。」

　イオリが慌てるとエルフの女性は微笑んでいた。

「良いんですよ。
　見ていって下さいな。」

　女性の言葉に甘えてイオリ達も近づいてみる。

　大きな機織り機を1人で操るエルフの女性にコーラルは目を奪われているようだった。
　機織り機自体もイオリが知っている足を使って綜絖を上下させる物ではなく、ルーシュピケの機織り機は引き紐を使う手織り式の物だった。

「ガタンッは何をしてるの？」

　ナギが問い掛ければエルフの女性が優しく教えてくれた。

「綜絖っていう板を動かしているのよ。
　ほら、隙間が出来るでしょう？
　その隙間に糸を通していくの。」

「それでカタンカタンってやるんだね。」

　好奇心いっぱいのナギにエルフの女性が楽しそうに笑った。

「フフフ。
　そうよ。
　カタンってやって糸を締めるの。
　今のを続ける事で大きな布が出来上がるのよ。」

カタンカタン　カタンカタン

　イオリには分かっていた。
　
　ナギは布が出来る過程にも興味があるが機織り機が奏でる音が楽しくて仕方がないのだ。

　自然と足でリズムをとっているナギを見てラックがクスクスと笑っている。

　文明と離れているルーシュピケが独自に作り上げてきた特産品。
　男も女もエルフも獣人も楽しそうに働いている姿を見て、世界中が求めている理由が分かる気がした。

　満足そうなイオリを見て嬉しいのだろう。

「ご覧いただいた織り機は何年もかけて改良されてきましたが、初期に作られた物も残っているんですよ。
　ご覧になりますか？」

　グラバーの新たな提案はイオリの関心を引くのに十分だった。

「是非、拝見させてください。」