続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路〜ルーシュピケ〜

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 工場の敷地に足を踏み入れると、倉庫から大きな塊を背負って出てくる男達が見えた。

「あぁ、丁度よかった。
 彼らが運んでいるのが先程の、コトーネの花のフワフワを集めた塊です。
 まずは採取したフワフワからゴミなどの不純物を取り除くんですよ。」

 グラバーの説明の通りにエルフ達がコトーネの綿わたに洗浄魔法をかけていた。

「コトーネの花は洗浄だけで良いのですが、ランロッサの茎などの繊維は硬いので、そのままでは使えません。
 茹でた後に叩き柔らかくする必要があります。
 繊維を壊さない力加減が大切なんです。」

 魔法を使うエルフ達の隣では獣人達が湯気を上げた細い茎を木槌で叩いている。

「熱そう・・・。」

 コラールが顔を強ばらせると、グラバーは笑いながら頷いた。

「えぇ、慣れるまで時間がかかります。
 それでも、彼らは鍛錬を続けているんです。」

 何事にも楽な事はないと、コーラルは教えられたようだ。

 
 次に案内されたのは1つの小屋の中だった。
 綿わたに包まれている中に8人ほどの男女が作業中だ。

「ここでは集めた材料を糸に変える作業をしています。」

「あの塊が糸になるの?」

カラカラカラ

 職人達が車輪を回しているの脇で、ナギは驚いた。

「少しずつ細く伸ばしていくんだよ。
 ほら、カサドさんの所にも糸車はあっただろう?
 カサドさんが作る防具にはアラクネの糸が使われてるって言ってたじゃないか。」

 イオリが思い出したように自分のコートをさすった。

「イオリ様の防具にアラクネの糸が使われているのですね?
 アラクネの糸は此処でも使われています。
 アラクネの討伐は大変ですので、材料としても高価ですが、少量でも混ぜ合わせれば長持ちする布が出来ますよ。」

 職人達はナギやコーラルが目を輝かせているのを微笑んで見つめていた。

「俺達の仕事を楽しんで見てくれるなんて嬉しいねぇ。」

 エルフの男が手を止めずに話しかけてきた。

「お邪魔しています。」

 イオリが挨拶をすると、職人達は「ゆっくりしていけ」とばかりに頷いた。

「コトーネの花をベースに様々な材料をブレンドさせる事で糸が出来上がります。
 混ぜ合わせる比率や糸の太さによって、出来上がった布の質感が変わってくるんですよ。
 面白いでしょう?」

 グラバーは子供のような眼差して巻き取られていく糸を紹介した。

「楽しい!
 糸を作る作業なんて初めて見たよ。
 こんな細いのが服になるんでしょ?
 魔法みたいだ!」

 同じように目を煌かせたナギの頭を撫でたイオリは昔を懐かしんでいた。


 ーーーイオリ、糸をというのは一本の細い糸を作る根気のいる作業さ。
    お前も色んな事を経験して自分の生きる一本道を根気よく見つけるんだよ。

 ーーーでもさ、ばあちゃん。
    道が沢山あったら、どの道を選べば良いか分からないよ。

 ーーー歩ける道なんて、結局1つしかないんだよ。
    そうだね・・・迷ったら、美味しい物がある方を選びな。

 
 人が聞けば、イオリは祖母の教えを守っていると笑うだろう。
 イオリが思い出し笑いをしていると、ナギが不思議そうに見上げていた。

「・・・紡ぐ。
 ナギ、糸を作る作業の事を紡ぐっていうんだよ。」

「紡ぐ?」

「そう。
 採取・精製そしてりをかけて糸を紡ぎ、初めて布の材料になるんだ。
 ここにいる人達はとっても根気のいる仕事をしているんだね。
 生きる事って根気がいるね。」

 当たり前に着ている服の存在が尊いのだと、ナギは教えられているのだと知った。
 イオリの言葉はグラバーだけじゃなく職人達をも感動させていた。

 毎日毎日、積み重ねていた仕事の大変さを知っている者がいる。
 職人達は手を止める事もなく、人族の青年に微笑みかけた。
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