続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路〜パライソの森⒉〜

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「・・・。」

「・・・・。」

「・・・・・おかしい。」

「・・・なんか、逆に怖いよな。」

 ガーディアン“ペンプティ”のメンバーが呟いている。

「何がおかしいんですか?」

 イオリが問いかけると、イドリアルが振り返った。

「魔獣が1匹も出てこない。
 こんな事、まずない事だ。」

「それどころか、木々達の声すらしない。
 まるで・・・いや、何でもない。」

 ーーーまるで、3年前の“腐敗の日”の様な静けさだ。

 ガーディアンの1人は思わず口をつぐんだ。

 いつもだったら、ルーシュピケの砦から出てきた者を待ち構えている魔獣達がいるのだ。
 全くもって静かな出発に安堵したのは束の間、砦から離れて暫く経つが、魔獣の気配が全くしないのだ。
 ガーディアン達は不審と不安で互いに顔を見合わせている。

「森が眠ってる。」

 ナギが呟いた。

「眠っている?
 そうか、お前にはそう見えるのか。」

 イドリアルがナギの頭を撫でた。
 
 一度、経験した恐怖は消えやしない。
 森が朽ちていくのを体験したルーシュピケの住人達には、怯える要素しかなかったのだ。

 しかし、イオリ達は森が眠るという出来事を経験していた。

「・・・待っているんですね。」
 
 イオリはそう言うと、大きくなったアウラにニナとナギを乗せた。
 “明けない魔の森”を初めて出た時だって、森は静かに息を凝らしていた。
 
「恐らく、俺達が大樹に到着するまで森は静かなままのはずです。
 行きましょう。」

 イオリの確信めいた瞳にイドリアルは驚きながらも頷いた。

「一体、何が起こっているんだ。」

「隠れている人族が余計な事をしてなきゃ良いがな。」

 ガーディアンのメンバーも不安を押し殺しているのだろう。
 
「急ぐぞ!」

 一団はイドリアルの掛け声で森を疾走した。

 
 イオリ達が静かな森を駆け抜けている中・・・

__________


「・・・一体、何が起こっているのだ。」

 “グランヌス”から来たムネタカは洞窟の中で声を顰めた。

「主・・・。
 御2人も騒いじゃ駄目ッスよ。」

 パライソの森に身を潜めていた1人の男と従者3人は現在、非常に危険な状態だった。
 静かだと思っていた森。
 
 それが瞬きもしない内に洞窟全体が魔獣に囲まれてしまっていたのだ。

「ど・・・どうするのです?」

 幼馴染である侍女キクは、あまりの非常時に怯えていた。

「落ち着け。
 今の状態じゃ、逃げても獲物になるだけだ。
 静かに待機していた方が良い。」

 もう1人の幼馴染である護衛ソウスケがキクを宥めた。

「そうッスね。
 魔獣達が暴れてないからと言って、今のままじゃ、逃げる事も出来ません。
 かといって、このまま此処にいても、いつかは標的にされます・・・。」

 顔を歪める、もう1人の護衛ロクを見てムネタカは、事態の悪化を再確認する。

「もし、逃げ込むとしたら“ルーシュピケ”だな。
 エルフや獣人を巻き込みたくなかったのだが・・・。」

 ムネタカの苦渋な顔つきにソウスケが力強く肩を掴んだ。

「何故に魔獣達が集まりだしたかは定かじゃない。
 俺達の事に気づいているかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
 ロクの言う通り、暴れていないのだから様子を見よう。」

「そうです。
 ムネタカ様を危険には晒せません。」
 
 キクがムネタカの裾をギュっと握りしめた。

「・・・そうだな。
 ロク。
 魔獣達の動きに注視してくれ。
 大人しくしていれば、奴らにも隙ができるやもしれぬ。
 ここを脱する時は、その時だ。」

 主人の命令に、ロクは膝まづいて頭を下げた。

「・・・承知しました。」

 ムネタカは惨事が起こらぬ事だけを祈るのだった。
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