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旅路〜パライソの森⒉〜
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『あの方と会えたか?』
「お陰様で、久々にお話ができましたよ。」
『そうか。
心のつかえは取れたか?』
「はい。」
アマメとイオリの気兼ねない会話を周りの者達は、ただ聞いている事しか出来ない。
とてつもない緊迫感で身動きが取れない中、さやさや吹く風だけが彼らの癒しとなっていた。
『であるならば、このパライソの森に再び問題が起こっている事は聞いているか?』
本題に入ってきたアマメにイオリだけじゃなく、ヒューゴやガーディアン達も緊張した面持ちだ。
「特には・・・。
アマメが待っている・・・とだけ聞いています。」
『そうか。
ならば、話そう。
このパライソの地が争いの場となるのだ。』
一思いに言ったアマメの台詞にイオリよりもガーディアン達の方が厳しい顔付きになった。
「それは、森の侵入者に関係があるんですか?」
『うむ。
奴らは隠れている。』
「ルーシュピケの民に見つからないように?」
『違う。
別の何かから隠れているのだ。』
「別の何か・・・。
争いの場と言う事は、相手にバレたって事ですね?」
「そうだ。
既に追手が放たれている。
邪魔をしてみたがいつまで持つや分からぬよ。」
イオリとアマメの会話を邪魔せずにいたヒューゴが近づいてきた。
「アマメ様。
俺はイオリとパーティーを組んでいるヒューゴと申します。
お聞きしたい事があるのです。」
丁寧に首を垂れたヒューゴにアマメの視線が移った。
『知っている。
盾となりし人の子よ。
お前もまた運命に導かれてイオリと出会った。
イオリにとって大切な存在は、私にとっても大切な存在だ。』
「もったいない言葉です。
恐縮です。
アマメ様はパライソの森での争いを止めたいのですか?
それとも、その身を隠している者の身の安全を考えておられるのですか?」
イオリが聞かない事をヒューゴは、しっかりと聞く。
アマメは暫く考えると、再びイオリに視線を戻した。
『パライソの森が争いの場をなる事は変えられぬ。
しかし、その者を保護する事に意味はある。
あとはイオリが、どうするか決めれば良い。』
避けられない争いならば、理由の一端は掴んでおく方が良い。
『時はないぞ。
あの者は既に危険な状態にある。』
ーーー急げ。
アマメはイオリに大きな顔を突き出した。
イオリはアマメの鼻先に手を当てると瞳を閉じた。
「貴方の森を傷つけさせないよ。」
『イオリの優しさは分かっている。
時に夜の森のように、漆黒の闇が全てを覆う時がくる。
しかし、朝日の明るさを持つイオリが打ち払う事だろう。
行け。
イオリが先へ進むには、あの者が必要になる。』
「それじゃ、また。」
イオリはアマメと小鹿に短い別れを言うと走り出した。
「続け!!」
イドリアルの掛け声にガーディアンがイオリの後を追う。
『小さき戦士よ。
其方達がイオリを強くする。
己が存在を忘れるな。
焦らず、イオリの背を追うのだぞ。』
スコル、パティ、ナギ、ニナ、そしてラックはニッコリ笑うと大きく頷いた。
「アウラ、ゼンちゃん行こう。」
スコルの掛け声で子供達を乗せた2匹の魔獣は走り去った。
最後に残されたヒューゴも会釈をして立ち去ろうとした時だった。
『イオリは優しい。
優しいからこそ、痛みを笑顔で隠す。
あの子を支えてやっておくれ。
あの子は我らの主の“愛しい子”であり、我ら守護を任じられた者達の癒しなのだ。』
大きな鹿の母なる心に触れたヒューゴは真剣な顔で頷くき、大剣を摩るとイオリの後を追いかけたのだった。
「お陰様で、久々にお話ができましたよ。」
『そうか。
心のつかえは取れたか?』
「はい。」
アマメとイオリの気兼ねない会話を周りの者達は、ただ聞いている事しか出来ない。
とてつもない緊迫感で身動きが取れない中、さやさや吹く風だけが彼らの癒しとなっていた。
『であるならば、このパライソの森に再び問題が起こっている事は聞いているか?』
本題に入ってきたアマメにイオリだけじゃなく、ヒューゴやガーディアン達も緊張した面持ちだ。
「特には・・・。
アマメが待っている・・・とだけ聞いています。」
『そうか。
ならば、話そう。
このパライソの地が争いの場となるのだ。』
一思いに言ったアマメの台詞にイオリよりもガーディアン達の方が厳しい顔付きになった。
「それは、森の侵入者に関係があるんですか?」
『うむ。
奴らは隠れている。』
「ルーシュピケの民に見つからないように?」
『違う。
別の何かから隠れているのだ。』
「別の何か・・・。
争いの場と言う事は、相手にバレたって事ですね?」
「そうだ。
既に追手が放たれている。
邪魔をしてみたがいつまで持つや分からぬよ。」
イオリとアマメの会話を邪魔せずにいたヒューゴが近づいてきた。
「アマメ様。
俺はイオリとパーティーを組んでいるヒューゴと申します。
お聞きしたい事があるのです。」
丁寧に首を垂れたヒューゴにアマメの視線が移った。
『知っている。
盾となりし人の子よ。
お前もまた運命に導かれてイオリと出会った。
イオリにとって大切な存在は、私にとっても大切な存在だ。』
「もったいない言葉です。
恐縮です。
アマメ様はパライソの森での争いを止めたいのですか?
それとも、その身を隠している者の身の安全を考えておられるのですか?」
イオリが聞かない事をヒューゴは、しっかりと聞く。
アマメは暫く考えると、再びイオリに視線を戻した。
『パライソの森が争いの場をなる事は変えられぬ。
しかし、その者を保護する事に意味はある。
あとはイオリが、どうするか決めれば良い。』
避けられない争いならば、理由の一端は掴んでおく方が良い。
『時はないぞ。
あの者は既に危険な状態にある。』
ーーー急げ。
アマメはイオリに大きな顔を突き出した。
イオリはアマメの鼻先に手を当てると瞳を閉じた。
「貴方の森を傷つけさせないよ。」
『イオリの優しさは分かっている。
時に夜の森のように、漆黒の闇が全てを覆う時がくる。
しかし、朝日の明るさを持つイオリが打ち払う事だろう。
行け。
イオリが先へ進むには、あの者が必要になる。』
「それじゃ、また。」
イオリはアマメと小鹿に短い別れを言うと走り出した。
「続け!!」
イドリアルの掛け声にガーディアンがイオリの後を追う。
『小さき戦士よ。
其方達がイオリを強くする。
己が存在を忘れるな。
焦らず、イオリの背を追うのだぞ。』
スコル、パティ、ナギ、ニナ、そしてラックはニッコリ笑うと大きく頷いた。
「アウラ、ゼンちゃん行こう。」
スコルの掛け声で子供達を乗せた2匹の魔獣は走り去った。
最後に残されたヒューゴも会釈をして立ち去ろうとした時だった。
『イオリは優しい。
優しいからこそ、痛みを笑顔で隠す。
あの子を支えてやっておくれ。
あの子は我らの主の“愛しい子”であり、我ら守護を任じられた者達の癒しなのだ。』
大きな鹿の母なる心に触れたヒューゴは真剣な顔で頷くき、大剣を摩るとイオリの後を追いかけたのだった。
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