続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

旅路 〜グランヌス・王宮〜

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「まだ、目覚めぬのか。」

　姫巫女の寝顔を痛まし気に見下ろしていた男が呟いた。

「一度もお目覚めになりません。
　原因も分からず、申し訳ございません。」

　侍女であるツユクサの言葉など耳に入らぬかの様に男は無表情だった。

　姫巫女の最近の様子を聞かれたツユクサは涙ながらに話し始めた。

「王よ。
　姫巫女様は後宮のご様子を心配されておりました。
　王妃の御容体も分からぬまま、後宮の門は閉ざされております。」

「・・・後宮。」

　表情乏しく、虚な目をした男・・・グランヌス国王トウカ・ノブタカ・ショーグンは誰に何を言う事もなく、ズルズルと衣装を引きずりながら部屋を出て行った。
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　王妃の私室に集まっていた奇妙な集団は侍女達が用意した香り高い茶にイオリが持ち出した菓子を楽しんでいた。

「本当にイオリは多彩だな。
　アースガイルの国王も気にいる筈だ。
　何と言ったか、クッキーだったか？
　これは実に良い菓子だ。」

　ご機嫌な王妃にイオリは微笑んだ。

「気に入って頂けて良かったです。
　それに、王妃様の部屋にテントを設置させてもらっちゃって、すみません。」

　部屋の片隅に張られた小さなテントに目をやり王妃は目尻を下げた。

「子供は寝る時間だ。
　部屋を用意しも良かったのだが、本当にテントで良いのか？」

「俺らにとっては、テントの方が安全なんです。
　お気遣い有難う御座います。」

　王妃とイオリの会話を聞いているのかいないのか、カンスケ爺やは厳しい顔をしていた。

「まさか、“エルフの里”が出てくるとはな。
　ダークエルフの復活だぁ？
　なに、時代遅れな事をほざいてるんだ。」

「爺様。
　事実、私は“エルフの里の戦士”に命を狙われたのです。　
　イオリ殿と“ルーシュピケ”の戦士達のお陰で大事には至りませんでしたが、それがキッカケで“ルーシュピケ”に迷惑をかけています。
　グランヌスの軍が“ルーシュピケ”に宣戦布告したのは事実ですか？」

　顔を強張らすムネダカにカンスケ爺やとソウビ王妃は顔を見合わせた。

「昨日に800の兵が出立した。
　一つの集落を襲うにしちゃ数が多い。
　隠密が裏から手を回し、時間稼ぎをしているよ。
　予想より“ルーシュピケ”への到着は随分と遅れる筈だ。」

「それでは、こちらも早く手を打たなければなりません。」

　妹や弟達が人質に取られているムネタカは、今や焦る一方だった。


「お待ち下さい！！
　王よ。
　どうかっ！どうかっ！」


　ここに来て、外が煩くなった。
　扉を見つめる一同だったが、王妃が溜息を吐きながら呟いた。

「たわけの登場だ。」

「チッ！」

　すると、アオイ妃が、よほど側妃とは思えない舌打ちをした。

バンッ！

　音を立てて扉が開かれると、刀を片手に持った男がワナワナと震えていたのだった。