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王城 〜旅支度〜
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果物が入ったヨーグルトを満足するまで食べたゼンは「ケプッ」とゲップをすると前脚を綺麗する様に舐めた。
「ヒューゴちゃんはスコルちゃんとパティちゃんと一緒に冒険者のお仕事に行ったのよね?」
オルガが聞けば執事のハミルトンが頷いた。
「さようです。
ナギ様とニナ様はリーヴル公爵夫人と共に図書室に向かわれました。」
「皆んな忙しそうね。
なかなか一緒にお茶とはいかないわね。
寂しいわ。」
2人の会話を聞いていたのか、いないのか、ゼンはテーブルから飛び降りるとトコトコと走り出した。
「あら、ゼンちゃん。
何処か行くの?
あまり遠くに行かないでね。」
オルガに声を掛けられたゼンは立ち止まると「キャウ」と返事をし再び走り出した。
「おい。アレ。」
真っ白な毛糸玉が通り過ぎて行くのを離宮・シグマを護衛していた騎士の1人が指差した。
「あっ。アレは・・・イオリ様の。」
騎士達は一生懸命に走っている小さな小さな純白の狼に目を細めた。
「どこ行くんだ?
あの子だけで大丈夫か?」
「一応、各所に連絡しておこう。」
騎士が伝達の魔道具で各所に連絡しているなど知らないゼンは至る所で微笑まれながら見守られているのも気付かずに走っていた。
王城の毛足の長い絨毯に足を取られコテンと転ぶゼンを騎士やメイド達がハラハラして見ている中、目の前に現れた革靴にぶつかったゼンは顔を上げた。
「おや。君は・・・。
イオリ君の子狼ではないか。
こんな所でどうしたのだ?」
しゃがんでゼンを抱き上げた男は眉毛を下げて顔を蕩けさせた。
「いや、何度見ても美しい毛並みだな。」
「父上?」
後ろから男を呼ぶ声がして、男はゼンを愛でて弛んでいた顔を慌てて戻した。
「知り合いの狼がいた。」
「狼?わぁ。可愛らしい子ですね?」
「ウム。
タウンハウスに来た事があるのだ。」
「あぁ、シャムル・モンストルの手紙の件ですね?
では、英雄殿の狼なのですか?」
驚く若者に覗き込まれたゼンは、居心地悪そうに「ギャウ」と顔を背けた。
ゼンを落ち着かせるように男は頭を撫でてやる。
若者は自分の父親が小動物を抱いている姿に何とも慣れないのか、曖昧に笑った。
「あぁ、そうだ。
一緒に我が家に来てくれた子供達が図書室にいたな。
連れて行ってあげよう。」
男は息子の揶揄う様な視線から逃げる様にスタスタと歩き出した。
そうして長い廊下の先の大きな扉を開くと男は中を覗いた。
「失礼。この子が王城を歩いていたのだが・・・。」
男が声を掛けると、図書室の椅子から慌ただしく立ち上がった者達がいた。
「ゼンちゃん?!どうしたの?」
「イオリは?」
ニナとナギが駆け寄ると、男・・・クォーレル伯爵はゼンを優しく差し出した。
「廊下を1人で歩いていたのだ。
どうしようかと思ったが、君達が図書室にいたのを思い出してね。」
ニナがゼンを受け取るととナギが頭を下げた。
「クォーレル伯爵。有難うございます。
イオリから離れるなんて滅多にないですけど・・・。
どうしたんだろう。」
ナギが首を傾げるとクォーレル伯爵の後から笑い声がした。
「何はともあれ合流出来てよかった。」
あれ?とした顔をしたナギにクォーレル伯爵は小さい声で耳打ちした。
「・・・息子だ。
領地より妻と一緒に呼び寄せたんだ。」
クォーレル伯爵が若い頃からテオルド達への劣等感から家族を王都に拘らせない事を知っていたナギは、少しは心の整理がついたのだろうと察しニコッとした。
「良かったですね。」
ナギの良かったの言葉の意味に気づいているクォーレル伯爵は顔を赤らめてコクンと頷いた。
※※※※※ ※※※※※
書籍化第4巻宜しくお願いします!
コミカライズも第2巻が書籍化されました!是非、ご覧下さい。
「ヒューゴちゃんはスコルちゃんとパティちゃんと一緒に冒険者のお仕事に行ったのよね?」
オルガが聞けば執事のハミルトンが頷いた。
「さようです。
ナギ様とニナ様はリーヴル公爵夫人と共に図書室に向かわれました。」
「皆んな忙しそうね。
なかなか一緒にお茶とはいかないわね。
寂しいわ。」
2人の会話を聞いていたのか、いないのか、ゼンはテーブルから飛び降りるとトコトコと走り出した。
「あら、ゼンちゃん。
何処か行くの?
あまり遠くに行かないでね。」
オルガに声を掛けられたゼンは立ち止まると「キャウ」と返事をし再び走り出した。
「おい。アレ。」
真っ白な毛糸玉が通り過ぎて行くのを離宮・シグマを護衛していた騎士の1人が指差した。
「あっ。アレは・・・イオリ様の。」
騎士達は一生懸命に走っている小さな小さな純白の狼に目を細めた。
「どこ行くんだ?
あの子だけで大丈夫か?」
「一応、各所に連絡しておこう。」
騎士が伝達の魔道具で各所に連絡しているなど知らないゼンは至る所で微笑まれながら見守られているのも気付かずに走っていた。
王城の毛足の長い絨毯に足を取られコテンと転ぶゼンを騎士やメイド達がハラハラして見ている中、目の前に現れた革靴にぶつかったゼンは顔を上げた。
「おや。君は・・・。
イオリ君の子狼ではないか。
こんな所でどうしたのだ?」
しゃがんでゼンを抱き上げた男は眉毛を下げて顔を蕩けさせた。
「いや、何度見ても美しい毛並みだな。」
「父上?」
後ろから男を呼ぶ声がして、男はゼンを愛でて弛んでいた顔を慌てて戻した。
「知り合いの狼がいた。」
「狼?わぁ。可愛らしい子ですね?」
「ウム。
タウンハウスに来た事があるのだ。」
「あぁ、シャムル・モンストルの手紙の件ですね?
では、英雄殿の狼なのですか?」
驚く若者に覗き込まれたゼンは、居心地悪そうに「ギャウ」と顔を背けた。
ゼンを落ち着かせるように男は頭を撫でてやる。
若者は自分の父親が小動物を抱いている姿に何とも慣れないのか、曖昧に笑った。
「あぁ、そうだ。
一緒に我が家に来てくれた子供達が図書室にいたな。
連れて行ってあげよう。」
男は息子の揶揄う様な視線から逃げる様にスタスタと歩き出した。
そうして長い廊下の先の大きな扉を開くと男は中を覗いた。
「失礼。この子が王城を歩いていたのだが・・・。」
男が声を掛けると、図書室の椅子から慌ただしく立ち上がった者達がいた。
「ゼンちゃん?!どうしたの?」
「イオリは?」
ニナとナギが駆け寄ると、男・・・クォーレル伯爵はゼンを優しく差し出した。
「廊下を1人で歩いていたのだ。
どうしようかと思ったが、君達が図書室にいたのを思い出してね。」
ニナがゼンを受け取るととナギが頭を下げた。
「クォーレル伯爵。有難うございます。
イオリから離れるなんて滅多にないですけど・・・。
どうしたんだろう。」
ナギが首を傾げるとクォーレル伯爵の後から笑い声がした。
「何はともあれ合流出来てよかった。」
あれ?とした顔をしたナギにクォーレル伯爵は小さい声で耳打ちした。
「・・・息子だ。
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クォーレル伯爵が若い頃からテオルド達への劣等感から家族を王都に拘らせない事を知っていたナギは、少しは心の整理がついたのだろうと察しニコッとした。
「良かったですね。」
ナギの良かったの言葉の意味に気づいているクォーレル伯爵は顔を赤らめてコクンと頷いた。
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