続々・拾ったものは大切に大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

文字の大きさ
212 / 363
王都 〜青春からの因果〜

210

しおりを挟む
 “デーゾルド”と呼ばれる魔花がある。
 
 魔力に反応し、強い腐臭を発する不思議な花だ。
 魔獣の中では、この魔花の香りを好み魔力補充として根を食すものもいる。

 けっして毒性はなく、あるとすれば腐臭で気分が悪くなるというくらいだろう。

「それが“デーゾルド”という植物なのだな?
 ・・・それは匂いではなく、色などの視覚的な罠では駄目だったのか?」

 誰しもが疑問に思っていた事をクォーレル伯爵はイオリに問いかけた。

「あっ・・・。色でも良かったか。」

 クォーレル伯爵の指摘にポカンとした後にイオリがニッコリとすると、ポーレット公爵テオルドはクスクスと笑い、宰相グレンは皺の寄った額をトントンと叩いていた。

「経緯は分かりました。
 先程も申し上げましたが、異常な腐臭を発した人間と面会した事はありません。
 流石に、そんな異常事態を忘れる事はないでしょう。」

 クォーレル伯爵の証言にテオルドは頷いた。

「しかも、手だけとなると状況は限られる。」

 テオルドは宰相グレンを見上げると、彼も考え込む様に目を瞑っていた。

 すると、テオルドの従者であるノアが呟いた。

「・・・書類?
 いや、手紙などは考えられませんか?」

「あぁ、それだ!!
 手紙なら本人と接触してないし、手で触りますもんね。
 うわっ!ノアさん、賢い!!」

 イオリが素直に褒めると、ノアは小さく微笑んだ。

「クォーレル伯爵。
 受け取った手紙の中で思い当たるものはありませんか?」

 ノアに話し掛けられて、クォーレル伯爵はドキッとしながらも考え込んだ。

「こんなにも貴族が多く王都に集まる事は稀だ。
 普段よりも多くの手紙が届いている事は事実だ。
 その中の1通となると・・・。」

 困った顔をするクォーレル伯爵に宰相グレンが助け舟を出す。

「恐らく、黒幕は王都で暗躍している者の中にいるはずです。
 普段から王都にいる貴族に絞って下さい。」

「成程・・・。
 それを踏まえて一度屋敷に戻り調べてみましょう。」

「分かるんですか?」

 目を丸くするイオリにクォーレル伯爵はコクンと頷いた。

「当然だ。
 届いた手紙は保管しているし、送られてきた品の目録も付けている。
 執事に申しつければ問題ない。」

 どうやら貴族としては当たり前なのか、驚いているのはイオリばかりだ。

 イオリは手を挙げてテオルドにお願いをした。

「クォーレル伯爵の家に行きたいです!!
 ゼンが手紙を見つけますよ。」

 自分の名前が呼ばれて、再びクッサイ匂いを嗅がされる事を察したゼンはノアの足元に隠れた。

 それを見ていたノアは優しく微笑むとイオリに頼み事をした。

「イオリよ。
 ニナを連れて行ってくれ。」

「あぁ、そうですね。
 そうします。
 良いですよね?」

 やる気満々のイオリにテオルドとグレンは微笑んだ。

「頼んだ。」

「そうして下さい。」

 話の見えないのはクォーレル伯爵ばかりだ。
 疑問を口にする事なく先行きを見守っている。

 するとノアが学生時代の様な気やすさでクォーレル伯爵の肩をポンッと叩いた。

「イオリの家族に清掃魔法に長けた子がいるのです。
 屋敷中に散らばった“デーゾルド”の微かな匂いも取り払ってくれるはずです。」

 理解したクォーレル伯爵は、思わず微笑んだ。

「それは助かる。」

 良い年した男達が青春の蟠りを解消した瞬間に立ち会っている事に気付かないイオリだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

処理中です...