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王都 〜青春からの因果〜
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ーーー私達は貴方の国への忠誠心を知ってますよ。
宰相グレン・ターナーに少しも寛容的とは言えない顔で見下ろされたクォーレル伯爵は眉間に皺を寄せた。
「・・・私は褒められているのか?」
それには今度こそグレン・ターナーは鼻を鳴らして口元を歪めた。
「貴族が自国の国王ないしは国に忠誠を誓うのは当たり前の事。
褒められる要素が何処にあります?
貴方は貴族の義務を果たしているに過ぎません。
面倒な男という評価は変わりませんよ。」
『やぱっりコイツは嫌いだ』
クォーレル伯爵は心の中で改めて認識した。
呆れた顔で溜息を吐いたのはポーレット公爵テオルドだ。
「グレン・・・。
お前も大概に面倒な事だ。
とういう訳で、クォーレルよ。
我らはけして其方に疑いの目を向けている訳ではない。
しかし、我らが仕掛けた香りが其方から漂ってくるそうだ。」
「香り・・・ですか?」
思い当たる事がないクォーレル伯爵は考え込んだ。
すると、壁際に立っていた真っ黒な青年が近づいてきた。
「宜しいですか?」
「あぁ、ここからはイオリに頼もう。」
テオルドの笑顔を見れば、この若者への信頼度が分かるものだった。
「クォーレル伯爵。初めまして。
ポーレットにて冒険者をしていますイオリと申します。
今回は公爵の護衛の任を受け同行しています。」
若者の丁寧な挨拶にクォーレル伯爵は小さく頷いた。
「やはり、君が“黒狼”だったか。」
クォーレル伯爵の言葉にイオリは困ったように微笑みながら、話を続けた。
「宰相閣下が仰った襲撃にも対峙しました。
その際に“デーゾルド”という植物の種を逃げた襲撃者に仕込んだんです。
“デーゾルド”が放つ腐臭は向こう1年は消える事がありません。
襲撃者が黒幕と接触した時に匂いが移る事を期待していたのですが・・・。」
「私から、その匂いがしたというのだな?」
「はい。
微かですが、クォーレル伯爵から確かに“デーゾルド”の香りがします。
人間には感じられなくても、動物達は誤魔化せません。」
そう言うイオリの視線には真っ白な小さな狼と、これまた小さなカーバンクルが自分を見ている事にクォーレル伯爵は気がついた。
「だとしても、私としては腐臭を撒き散らしていた人物と面会した事がない。
王宮では多くの貴族が出入りしている現在では、何処で行き合ったものか・・・。」
再び考え込むクォーレル伯爵にイオリは近づいた。
「失礼ですが、匂いを嗅がせていただいても良いですか?」
戸惑うクォーレル伯爵であったが、ニコニコとしているテオルドと「ホラッ、早く。」と顎をしゃくる宰相グレンに急かされ、イオリに頷いた。
すると、イオリはスンスンと鼻を動かしクォーレル伯爵の頭のテッペンから匂いを嗅ぎ出した。
居心地の悪いクォーレル伯爵であるが、そんな彼を誰も揶揄ったりしない。
この時になって、クォーレル伯爵は学生時代から彼等が自分を揶揄った事などなかった事に初めて気が付いた。
他者を卑屈に見ていたのは自分の悪い性分である。
その恥ずかしさを隠す様にクォーレル伯爵は自分を嗅ぎわ回る真っ黒な青年に集中した。
暫くするとイオリは顔を上げた。
「手ですね。
手から“デーゾルド”の香りがします。
ゼン。バンデ。どうかな?」
イオリが振り返ると2匹がピョンッと飛び跳ねてやってきた。
そして、クォーレル伯爵の手を嗅ぐと「グエェ」といった顔付きで逃げ出して行く。
「決定ですね。
匂いの元はクォーレル伯爵の手で間違いありません。」
イオリは人好きそうな顔でニッコリとした。
宰相グレン・ターナーに少しも寛容的とは言えない顔で見下ろされたクォーレル伯爵は眉間に皺を寄せた。
「・・・私は褒められているのか?」
それには今度こそグレン・ターナーは鼻を鳴らして口元を歪めた。
「貴族が自国の国王ないしは国に忠誠を誓うのは当たり前の事。
褒められる要素が何処にあります?
貴方は貴族の義務を果たしているに過ぎません。
面倒な男という評価は変わりませんよ。」
『やぱっりコイツは嫌いだ』
クォーレル伯爵は心の中で改めて認識した。
呆れた顔で溜息を吐いたのはポーレット公爵テオルドだ。
「グレン・・・。
お前も大概に面倒な事だ。
とういう訳で、クォーレルよ。
我らはけして其方に疑いの目を向けている訳ではない。
しかし、我らが仕掛けた香りが其方から漂ってくるそうだ。」
「香り・・・ですか?」
思い当たる事がないクォーレル伯爵は考え込んだ。
すると、壁際に立っていた真っ黒な青年が近づいてきた。
「宜しいですか?」
「あぁ、ここからはイオリに頼もう。」
テオルドの笑顔を見れば、この若者への信頼度が分かるものだった。
「クォーレル伯爵。初めまして。
ポーレットにて冒険者をしていますイオリと申します。
今回は公爵の護衛の任を受け同行しています。」
若者の丁寧な挨拶にクォーレル伯爵は小さく頷いた。
「やはり、君が“黒狼”だったか。」
クォーレル伯爵の言葉にイオリは困ったように微笑みながら、話を続けた。
「宰相閣下が仰った襲撃にも対峙しました。
その際に“デーゾルド”という植物の種を逃げた襲撃者に仕込んだんです。
“デーゾルド”が放つ腐臭は向こう1年は消える事がありません。
襲撃者が黒幕と接触した時に匂いが移る事を期待していたのですが・・・。」
「私から、その匂いがしたというのだな?」
「はい。
微かですが、クォーレル伯爵から確かに“デーゾルド”の香りがします。
人間には感じられなくても、動物達は誤魔化せません。」
そう言うイオリの視線には真っ白な小さな狼と、これまた小さなカーバンクルが自分を見ている事にクォーレル伯爵は気がついた。
「だとしても、私としては腐臭を撒き散らしていた人物と面会した事がない。
王宮では多くの貴族が出入りしている現在では、何処で行き合ったものか・・・。」
再び考え込むクォーレル伯爵にイオリは近づいた。
「失礼ですが、匂いを嗅がせていただいても良いですか?」
戸惑うクォーレル伯爵であったが、ニコニコとしているテオルドと「ホラッ、早く。」と顎をしゃくる宰相グレンに急かされ、イオリに頷いた。
すると、イオリはスンスンと鼻を動かしクォーレル伯爵の頭のテッペンから匂いを嗅ぎ出した。
居心地の悪いクォーレル伯爵であるが、そんな彼を誰も揶揄ったりしない。
この時になって、クォーレル伯爵は学生時代から彼等が自分を揶揄った事などなかった事に初めて気が付いた。
他者を卑屈に見ていたのは自分の悪い性分である。
その恥ずかしさを隠す様にクォーレル伯爵は自分を嗅ぎわ回る真っ黒な青年に集中した。
暫くするとイオリは顔を上げた。
「手ですね。
手から“デーゾルド”の香りがします。
ゼン。バンデ。どうかな?」
イオリが振り返ると2匹がピョンッと飛び跳ねてやってきた。
そして、クォーレル伯爵の手を嗅ぐと「グエェ」といった顔付きで逃げ出して行く。
「決定ですね。
匂いの元はクォーレル伯爵の手で間違いありません。」
イオリは人好きそうな顔でニッコリとした。
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