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第一章 闇夜の死竜

第二十五話「闇夜の死竜に託す」

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 俺はすぐにロイドに駆け寄った。
 ロイドの左肩からは血が流れている。

「ロイド!」
「アル……すまねぇ、しくじった」

 痛みに耐えているのか、片目を瞑りながら俺を見上げた。
 セシリアたちも俺とロイドを囲むように周りに集まってくる。
 俺たちの中に回復魔法を使えるものはいない。
 ここにはいないブランドン先生でも無理だろうし、ダリア先生が使えるかもという期待は持たないほうがいい。

 ウルズの町に戻ってから、回復術士を頼るしかないと思った。
 幸いにも、出血は派手だが左腕を欠損するような大怪我ではない。
 しかし、戦いに参加するのは無理だ。

「いや、謝るのは俺のほうだ。稲妻の谷でワイバーンに襲われて、一匹やり損なった。まさか、その一匹とロイドたちが戦闘になっているとは思わなかったけどな」

 セシリアが血を拭い、ミリアムが傷薬を塗っている。
 ブレンダが自分のマントを破って、ロイドの肩から腕にかけて巻いた。

「いだだだだっ! おい、ブレンダっ……もっと優しく頼むって!」
「しっかり縛っておかないと血が出てくるでしょ。我慢しなさい」

 ひとまず応急処置はできた。
 しかし問題はどうやってサイーダ森林を出るかだ。
 俺がいれば簡単なのだが、ロイドがこの状態では五人だけで返すのは心配だ。
 ゴブリン相手でも決して油断はできないだろう。
 せめて樹竜クラスがいれば……。

「ところで、樹竜クラスの五人はどこに?」
「ブランドン先生の指示で、彼らは先にウルズに戻りました。僕たちも一緒に行くように言われたんですが、アルとセシリアをあのままにできませんでしたし」

 そうか。みんな、俺とセシリアを助けようとしてくれてたんだな。
 自分の命を優先するなら森を出るのが正解だというのに。
 樹竜クラスはエドガーやイアンがいなくても五人揃っていれば、無事にウルズの町まで帰ることができるだろう。

「ロイド、立てるか?」
「ああ、大丈夫だ。先生たちがあの魔物と戦っているから、早く加勢してやらないと……」
「ロイド、怒らずに聞いてくれ。その怪我じゃ、おまえが行ったところで何もできない」
「なっ……! わ、わかってるよ! でも、どうすりゃいいんだ! 先生がいまも俺たちのために魔物を足止めしてるんだぜ!」
「……俺が何とかする」

 ロイドが目を見開いた。

「アルが……か」
「ロイドがこの状態じゃ、みんなだけで森を出るのは逆に危ない。だから、俺についてきてくれ……」

 その後に続く言葉に詰まる。
 みんなへの説明が難しい。
 俺がいま考えていることは、みんなでブランドン先生たちのところへ向かう。
 そして俺があの魔物を倒すことだ。

 一応、念のためハロルドとブレンダにロイドを守らせ、セシリアとミリアムは自分の身を守ることを優先させる。
 ただし、これは俺が魔物を倒せるという前提での話の上に成り立っている。
 なので、みんなにそれをどう言えばいいのか……。
 うまい言葉が出てこない。

 だが、沈黙した俺にみんなは意外な反応を示した。

「わかった。それで行こう。俺はアルを信じるぜ」
「えっ……ああ」

 あっさりすぎるほど、ロイドは素直に応じる。
 戸惑ったのは俺だ。

「アルくん、私も自分くらいはちゃんと守ってみせるの」

 ミリアムが胸を張って言う。

「この状況ではアルに任せるしかないでしょう。アル一人に責任を押しつけるようで心苦しいですが、僕はアルならできると思っています」

 何を根拠にそう言うのか、ハロルドは大きく頷いた。

「そうね。アルを信じて、あたしたちは……あたしたちにできることを全力でするわよ」

 ブレンダがみんなの顔を順番に眺めながら言った。

「ちょ、ちょっと待て! おまえら、何でそんななんだよ!? いつもなら、ロイドは真っ先に反論するし、ミリアムは怖がったり、ハロルドは小難しいこと言うし、ブレンダだって反論するだろ! 自分で言うのもなんだけど、俺の言ってることおかしくなかったか!?」

 みんなが顔を見合わせてから、代表して口を開いたのはセシリアだった。

「アルがワイバーンを斬ったのをここにいる全員が見たわ。それに、稲妻の谷でアルはわたしの目の前で何匹もワイバーンを斬り伏せたじゃない。そんなことを言わなくても、みんなはアルならできると信じているのよ」
「ど、どうして……?」

 それって、俺の実力が初級の域を超えていることに気付いてるってことなのか?

「アルが隠したがっていたから、わたしたちもアルに直接問いただしたりはしなかったわ。そして、いま……アルにしか頼ることができない状況になっていしまったわ」
「いや、だからどういう――」

 俺の言葉を止めるようにセシリアが手のひらを向けた。
 そして、セシリアたちは互いにうなずき合って、俺のほうを見る。

「アル、あとはお願いするわ。いまからわたしたちは、あなたの指示で動きます――」



 セシリアの最後の言葉を、俺の仲間が異口同音に叫んだ。



「「「「「闇夜の死竜!!」」」」」



「………………え?」

 みんなが俺を力強い目で見つめている。
 こいつら、いま何て言った?
 正直言って困惑している。

 俺はいま、どんな顔をしている?

 俺が立ち尽くしていると、ロイドから背中を叩かれた。

「行こうぜ、ウルズの守護神」
「うっ、え~と……ウルズの双剣使い!」
「アルが両手に剣を握ったのなら、きっと勝つんですよね?」
「さあ、行くわよ。五年風竜クラスの団結力を見せるときだわ」

 ロイドに続き、ミリアム、ハロルド、ブレンダが俺の背中を叩いて、通り過ぎていく。
 その先はブランドン先生がいる方角だ。
 そして、最後にセシリアが俺の腕を取った。

「アル、なんて顔してるのよ」
「あ……いや、ちょ……」

 だから俺はいま、いったいどんな顔をしてるんだ……!?

「町へ戻ったら話したいことがたくさんあるの。みんなも同じはずよ」
「俺の正体に気づいてたってこと……なのか?」
「うん。黙っててごめんなさい。だけど、もうアルは隠さなくていいから。アルにできることを思いっきりすればいいと思うわ」

 いったいいつからだ?
 本当かよ……。

 ………………いや、今はそんなことより――

「……わかった。じゃあ、ブランドン先生を助けに行くぞ!」

 五年風竜クラスの仲間と共に、俺は森の奥へと駆け出した。 
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