【完結】地下牢同棲は、溺愛のはじまりでした〜ざまぁ後の優雅な幽閉ライフのつもりが、裏切り者が押しかけてきた〜

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中

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③〜ナザトside〜

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 もう寝る!! と、ふて寝したベルの鼻をつまむ。 
 そうすれば、「んごっ」と声を出しながら、つまんでいた手を叩かれた。 
 再び深い眠りへと入っていく姿に、契約の魔法を使ったとしても、安心し過ぎじゃないか……と心配になる。

「やっぱ、思い出さなかったか」

 ベルが俺を覚えていないと言った時、そりゃそうだよな……と思った。
 誘拐依頼に来た時も、そのあとも、無反応だったしな。
 

 俺とベルとの出会いは、もう12年も前になる。
 あの頃の俺は、今と比べものにならないくらいチビでガリガリだった。
 最低限に満たない食事に、いつも腹を空かせていた。生きているのが精一杯。そんな毎日だった。
 すきま風と雨漏りはあるが、屋根のある寝床があるだけマシだと知ったのは、俺より小さな子を路地裏で見た時だったか。

 魔物の襲撃で人が命を落とすのは、珍しいことでも何でもなくて、孤児院はいつも満員で、新しい子どもを受け入れる余裕なんてものは、どこにもなかった。

 そんな日常に変化が起きたのは、ベルが孤児院に来た時だった。
 孤児院の扉をすごい勢いで開けて、発狂していた身なりのキレイな天使のような女の子。今でもその時の姿を覚えている。

「衛生面、どうなってるのよ!? それに、痩せすぎ!! お金が足りてないの? まさか、お父様ったら必要な費用をケチってるんじゃないでしょうね!? 責任者、責任者はどこにいるの!?」

 その声に、慌てて出てきた院長をみた瞬間、鬼のような形相をしたんだよな。

「あんた、クビ!! 何よ、その贅肉は!! 話し合う価値もないわ!!!!」

 そう言われた院長がキレて、ベルに手を伸ばしたところで、ベルは悲鳴を上げながら転んだ。
 そして──。

「この男に押されて転んだわ。今すぐ捕らえなさい」

 悪い笑みを浮かべながら、自身の護衛たちに命じたのだ。
 院長は、まだ指一本すら、触れていないというのに。

 そこから、あっという間に状況が変わっていった。
 新しい院長が来て、温かい食事を食べ、ふかふかの布団で寝れるようになった。
 飢えをしのぐために水で腹を膨らませることも、町に出て、残飯を探す必要もなく、寒さに震えることもなくなった。
 毎年、冬になると体力のない奴から死んでいったけど、はじめて誰も死ぬことがなかった。

 そして1年後には、大きくて立派な孤児院が新しく建てられたのだ。

 その頃だったな。よく孤児院へとやって来たベルに話しかけられたのは。

「ねぇ、そこのあなた、字を書いたり、計算はできるの?」
「……できないけど」

 そう答えた俺に、ベルは行儀悪く舌打ちをすると、礼を言って去っていった。
 そして、翌週には、勉強がはじまった。
 教師が見つかるまで、なんとベルが教えてくれたのだ。

「私は、ベルリム。ベルって呼んでちょうだい。今日から、教師が見つかるまでは、私が教えるわ。いい、社会に出て働く時、文字が書けたり、計算ができた方が有利になるの。文字が読めないと、とんでもない契約をさけられたり、騙されるリスクが高くなるわ。生きていくために、死ぬ気で学んでちょうだい」

 7歳の少女が言う言葉てではなかったが、俺たちの中でベルは救世主で、特別だった。
 ベルの言うことなら、皆が信じたのだ。
 しばらくすると、新しい教師が来て、ベルは教壇に立つことはなくなった。そのかわりに、俺たちと遊ぶようになったのだ。

「子どもは、遊ぶのも仕事だからね」

 なんて、大人ぶって言っていた。
 誰よりも楽しんでいたくせに。

 週に一度やって来ては、遊んで帰っていく。
 ベルは、俺たちの救世主で、仲間だった。けれど、それも終わりが来た。

「もう、来れなくなった。王妃教育が始まるんだぁ」

 さみしそうに言ったベルは、諦めたように笑った。

「ナザトは、ここで誰よりも魔法が上手でしょ? 魔法で、みんなのことを守って欲しいの」

 真剣な夕焼けのようなオレンジの瞳に、俺は頷くことしかできなかった。

 また来て欲しいと言えるほど、子どもじゃなかった。
 別れがさみしいと言えるほど、素直でもなかった。
 ベルの役に立てるほどの力も持っていなかったのだ。

 もう二度と、ベルの人生と交わることはない。
 そのことがショックだった。
 恋をしていたわけじゃない。ただ、何も返せないまま、終わるのが嫌だった。

 どうしたら、またベルと会えるのか。
 必死に道を探して、ベルが褒めてくれた魔法に力を入れることにした。
 ベルは、王妃教育が始まると言っていた。城勤めになれば、またベルと会える。恩を返せると思ったんだ。

 馬鹿だよな。
 孤児院出身の俺が、城という育ちの良い連中と共に働いて、同じ扱いが受けられるわけないのにな。
 城に勤められるほどの実力は、簡単に手に入った。少しコツを掴めば、苦労はしなかった。

 魔法省の新人の中でも俺が一番の実力者だった。
 だが、そんな俺が気に食わなかったんだろう。
 すべてのミスは俺のせいにされ、挙句の果てに、ない罪を作り上げられて、クビになった。

 そこで俺は諦めた。
 腹いせに国を壊してやろうかとも思ったが、それだとベルも困るだろうとやめた。

 そして、同じように辞めさせれられたヤツにスカウトされて、裏の世界に足を踏み入れたのだ。
 仕事は実力主義で、好き嫌いで、受けるか受けないかを決めた。
 俺は気まぐれだけど、必ず結果を出すと有名になっていった。

 そんな俺の噂を聞いて、依頼に来たのだろう。
 まさか、こんな形でベルと再開するなんて思ってもいなかった。

 再開したベルはキレイになっていた。
 でも、表情は暗く、昔の明るさはどこにもなかった。

 依頼内容の誘拐も、本当はやりたくなかったんだろう。
 口調はキツく、態度も刺々しかったけど、時々噛む唇が、諦めた目が、つらいと言っていた。

 だから、わざと失敗することに決めた。
 城に忍び込んで、王子を脅した。
 おまえの大事な女を助けてやるから、ベルリムを幽閉しろ。幽閉したあとは、俺に寄越せと。

 王子はベルを本妻にして、愛する女を側室にするつもりだった。王妃としての責務だけを、ベルに押し付けるつもりだったのだ。 
 クズすぎて殺そうかと思ったが、まだ使い道があるから、取っておくことにした。殺すのは、いつでもできる。


 また昔のように明るいベルに戻って欲しかった。それだけだった。
 だけど、昔のように明るく戻っていたベルを見たら、離れたくなくなった。
 軽口を言い合うのが、心地よかった。

 連れ去ることもできたが、地下牢ここでゆっくりと愛を育むのも悪くない。ここなら、ベルの力じゃ逃げられない。
 誰も、ベルに会いに来ないから、俺だけのベルにできる。

 王子を生かしておいて、正解だった。
 同棲を邪魔するようなら、また脅して頼みを聞いてもらえばいい。

 頼みを聞いてもらえないなら、国を滅ぼそう。
 ベルを大切にしないヤツが王になる国なんか、滅んで当然だ。
  
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