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第1章 王都編
第33話 美しい魔術とお茶会の終わり
しおりを挟む周囲の視線は相変わらずだけれど、ほしきみ☆のみんなといる空間はとても居心地がいい。うっかり、絆されてしまいそうになるくらいには。
「ねぇ。リカルド、スコルピウス嬢。魔術を使えるってどんななんだろう。僕には想像もできない。二人の本当の意味での理解者にはなれないかもしれない。どう頑張っても……。
だけど、感情を分かち合うことはできるし、話し合うことはできる。だからね、今から起こることへの気持ちをまずは一緒に分かち合いたい」
「兄上?」
「それって、どういう──」
私が言い切る前にレオナルドは立ち上がると周りを見渡した。その表情は今話していた彼とは別人のようで、雰囲気が違う。
「今日はお茶会に集まってくれて、ありがとう。
私達、次年度の入学生を中心にしたお茶会はどうだっただろうか? 途中、魔力暴走を起こすというトラブルで皆を怖がらせてしまい、申し訳なかった。
王族としてではなく、リカルドの兄として、家族として謝罪をさせて欲しい」
レオナルドが軽く頭を下げれば、王妃様とリカルドも立ち上がり謝罪をする。家族としてと言ってはいるものの、王族が頭を下げたことへのざわめきが会場へと広がっていく。
顔をあげたレオナルドは視線のみでそのざわめきを鎮め、沈痛な表情を和らげてふわりと微笑んだ。
「これから、今日が最高の思い出となってもらえるようにこれから皆と夢の世界へと向かう。短い時間だが、楽しんで欲しい」
そう言い終わると、明るかった空が暗くなった。天気が崩れたのではない。まるで夜になったかのように。
ざわり、不安が会場内で溢れ出そうとしたその時──。
ひらりひらり、と輝く蝶々が現れた。ピンク、黄色、赤、紫、緑……。様々な輝く蝶々は、不安を取り除くかのように皆の周りをゆったりと飛んでいく。
思わず手を伸ばせば、右手の人差し指に蝶々は止まった。まるで、羽を休めるかのように。
「きれい……」
誰かの呟きは皆へと広がっていく。蝶々に気をとられていて気が付かなかったが、周りを見渡せばイルミネーションのように庭園が輝き、空はまるで星がダンスしているように光ったり消えたりしている。
本当に、夢の世界みたい……。
だが、その夢は終わりを告げたのだろう。蝶々は指先から飛び立ち、羽ばたきとともにふわりと消えた。
会場内は感嘆のため息で溢れ、どこかしんみりとした雰囲気になったその時──。
ヒューーー、パーン!!
突然の大きな音と、夜空に咲く大輪の花。花火が打ち上がっていた。魔術で打ち上げているので、前世のものと音も違うし、形ももっと様々だ。
それでも懐かしくなるのは、前世では毎年花火大会に行っていたからだろうか。
花火が終われば、空が明るくなる。夢の終わりが来たようだ。
それでも、誰もがまだ夢見心地の中、王妃様が皆に向かって話をする。
「いかがだったかしら? 夢のような世界は我が国が誇る魔術師達が特別に見せてくれました。彼等は表舞台に立つことはほとんどありません。
けれど、いつも私達の生活を支え豊かにしてくれます。彼等に心からの感謝と敬意を──」
割れんばかりの拍手と歓声が起きた。それに答えるかのように空から色とりどりの花が舞い落ちきて、王妃様とレオナルドも驚いたように空を見上げている。
何て粋な計らいだろう。この国の魔術達は優秀なだけでなく、素晴らしい心意気の持ち主のようだ。
魔術への認識を少し変え、皆の心に最高の思い出を刻み、大成功でお茶会は幕を閉じたのだった。
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