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第2章 領地編1~新たな出会い~
第16話 控えめに言って、最高だよ!
しおりを挟む「どうにでもなるって言うけど、実際にもし綻びが出たらどうするんだ?」
そう不安に思うのも当然だろう。魔物に襲われればフォクス領は一溜まりもないのだから。
「ふふふん。何と秘密兵器があるのですよ」
「秘密兵器?」
私はリュックから救急箱を取り出した。中には絆創膏やガーゼ、テーピング用のテープなんかがたくさん入っている。
「実はね、これ全部が結界の応急処置用になるんだ」
「どういうことだ?」
「結界の綻びにこれを貼るんだよ。防御と侵入不可の魔術を込めておいたから魔物も入って来れないから安心して。オロチで実証済みだから。
問題は、ただの侵入不可だから人にも全く同じ作用がでるんだけどね」
本当は魔物のみの侵入不可にしたかったのだが、繊細な作業は難しい。出来なくはないけれど、作れる数が微量になるのだ。
絆創膏1枚に魔物のみ侵入不可の魔術をかけている間に、対象を問わない侵入不可であれば少なくとも50枚は作れる。
それなら、その応急処置をした場所を避けてもらっった方が早いし簡単だ。
「結界から出るのは補強されているところからでもできるけど、侵入のは例え小さな絆創膏でも避けてもらわないと弾き飛ばされちゃうから気をつけてね」
そう伝えれば、ジンは不思議そうな表情をしていた。頭では理解できても、きっと想像ができないのだろう。
百聞は一見にしかずって言うし見せた方が分かりやすいかな。またオロチに協力してもらおう。
説明が終わったので、救急箱をリュックに入れて領主様のいるところへと向かう。領主様が待っていてくれたそこは、確かに他のお家よりも大きいけれど警備も何もない。
しかも、なんか待っていてくれた人数が多い。領主様以外みんな魔術が使えるようには見えないんだけど。
よく見れば、ジンにも似ているし、まさか……。
「親父、何でみんな集めたんだよ。レン兄だけで良かっただろ」
「何言ってるんだ。わざわざフォクス領のために遠くから来てくれているんだ。家族全員で迎えるのが最低限の礼儀というものだ」
着物を着た黒髪、黒目の領主様はジンを諌めると、私たちに頭を下げた。それに続いてその場に集まっていた人たちもまた頭を下げる。
「ようこそいらっしゃいました。どうぞ、お入りください」
そう言って案内してくれたのはお座敷だった。久々の畳に、においをかぎながら頬擦りをしたい衝動にかられる。
我慢、我慢よ。そんなことしたら、変人認定されちゃうんだから。
なんて堪えていれば、なんと羊羹と緑茶が出てきた。
ここは、天国なのだろうか。うん、きっと天国だ。そうに違いない。「お口に合うと良いのですが」とか謙虚過ぎる。最高だから、食べてください! でいいんじゃないかと思うんだよね!!
「「いただきます」」
私とノアは羊羹を口に運ぶ。オロチは当然のように緑茶を優雅に飲んでいる。
うはぁぁぁあ。ねっちりとした歯ごたえに砂糖をたくさん使った甘み。ちょっと甘すぎるかな? なんて印象を与えながらも、緑茶の渋みでまた食べたくなる。
これはもう、無限ループじゃないだろうか。考えた人は誰だ! 控えめに言って最高だよ!!
どうよ! 和菓子は最高だろう!! とノアを見れば、緑茶が少し渋かったのだろう。難しい顔をしていた。けれど、羊羹をもう一口食べれば瞳をキラキラと輝かせている。
「姉さん。最高すぎる組み合わせだよ」
「だよね。この食文化が失われるとか何があっても阻止すべき案件だよね」
流石姉弟というべきか、ノアは俄然やる気を出してくれたよう。
「フォクス領を守るための結界について、お話しましょうか。何か気が付いたことがあればすぐに教えてください」
と、ノアは領主様に向かって切り出した。
でもね、自己紹介が先だとお姉ちゃんは思うのよ。まぁ、羊羹に目がくらんだ私が言えることでもないんだけどさ。
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