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24『運命』に、友人ができました
言い合うふたりにレティアさんが咳払いをする。
「落ち着いてください。ドレスのデザインに熱くなるのはわかりますが、伯爵、大事なことを忘れてはおりませんか?」
「大事なこと?」
そう言って、ライラクスは口を閉じると、ハッとした表情をした。
「ヴォレッカ、家紋を大切にしてくれて嬉しいよ」
ギュッと私の手を握り、ライラクスは言う。
「ライラクスのためではありませんよ」
「それでも嬉しいんだ」
「はぁ、左様ですか……」
そう答えた私を見て、ファララス公爵令嬢はクスクスと楽しそうに笑う。
「あのライラクス様がこうなるとはねぇ」
「うるさい……」
ライラクスの返事に、ファララス公爵令嬢は爆笑した。
「はぁ、楽しいわぁ。ところで、ヘンルーダって追悼の花ですわよね。いくら家紋といえど、結婚式にその花は大丈夫なのかしら?」
うん、そうなるよね。
私もライラクスから家紋の話を聞くまでは、ウェディングドレスのデザインに取り入れてもらいたいとは思ってなかった。
結婚という日に、選ばれる花ではないと思っていたから。
だから、ヘンルーダについて調べたのだ。
もしかしたら、結婚という晴れの日に相応しい意味を持っているんじゃないかって。
「ファララス公爵令嬢のおっしゃることは分かります。ですが、この花はヘンルートゥ家の優しい想いから家紋になった花なのです。それに、昔は魔除けとして広く使われ、神聖な儀式においても重要な役割を果たしたそうですよ」
「まぁ、ヴォレッカが良いなら、私は何も言いませんわ。でも、刺繍のモチーフを聞かれた時は、そう答えるのはお止めなさい。大事な花を悪く言われたくはないでしょう?」
心配してくれてるんだ……。
そのことに、自然と口角が上がっていく。
「ありがとうございます。ですが、大丈夫ですよ。そもそも王都には、そういう事を聞いてくれるほど親しい人はいないので」
「あぁ、たしか王都に来て、まだ日が浅いんだったわね。それに、夫がライラクス様じゃ、親しい方をつくるのはなかなか難しいでしょうね」
うん、その通りだと思う。
ライラクス目当てで近付いてくる女性に気を付けなきゃいけないし、そのつもりじゃなくてもライラクスと出会って変わってしまう可能性もある。
親しい人をつくるのは、諦めた方がいいだろうな。
「ま、私がいるし、ヴォレッカに親しい友人は他にはいらないわよ」
……おや? 私とファララス公爵令嬢は友人だったっけ?
つい先日、戦ったばかりだと思ったけど。
あれか? 昨日の敵は今日の友的なやつ?
まぁ、ファララス公爵令嬢は、もうライラクスのことで警戒する必要はないし、安心ではあるよなぁ。
なんて考えている間に、ライラクスとファララス公爵令嬢は再び私のドレスについて口論を始めた。
そして、その矛先は今度はレティアさんへと向かう。
「ねぇ、レティシアはヴォレッカに似合うドレスはクラシカルなものかプリンセスラインかどちらだと思いますの?」
「プリンセスラインだよな?」
「正直に答えさせていただいてもよろしいのですか?」
神妙な雰囲気で、レティアさんは言い、ライラクスとファララス公爵令嬢が頷いている。
「それぞれの魅力があり、どちらも甲乙つけがたいので、金銭面に余裕があれば私なら両方作りますね。そして、お色直しで着てもらいます。お色直しは考えてますか?」
「もちろんだよ。最低でも四回はしたいと思っている」
はい? それだとドレス五着は着る計算だよね?
「式は教会で行いますか?」
「あぁ、その予定だ。そのあとの披露宴は我が家で行う。サミレット領でも結婚式は予定しているから、そっちのドレスはヴォレッカに詳しく聞かないとだね」
「では、計六着ですね」
「待ってください。そんなにお色直しはいりませんよ」
私がそう言うと、三人から何を言っているの? という視線を向けられる。
この三人、金銭感覚おかしい。
オーダーメイドのドレスって、かなり高価だし、金に糸目をつけないって言ってた言葉が不穏すぎる。
「ヴォレッカ、どれだけ立派な結婚式ができるかは、ライラクス様から愛されているのかを知らしめるという意味と、家の財力を見せるという意味で重要よ。諦めなさい」
「…………はい」
必要経費ってことかぁ。それ、本当だよね?
このあと、ライラクスとファララス公爵令嬢が言い争いをしながらも、ドレスの大まかな方向性だけは決まった。
教会で着るウェディングドレスは、厳かな雰囲気に合うクラシカルなものがいいだろうということになり、そこにヘンルーダの刺繍もしてくれるそうだ。
ライラクス希望のプリンセスラインのドレスは、披露宴で少なくとも二着は着るらしい。
次回の打ち合わせの日程を決めたあと、レティアさんはうきうきしながら帰っていった。
たくさんデザインしてくるから期待していてくださいね! と言ってくれたけど、豪華だと顔が負けそうなのでほどほどにしてもらいたいなぁ。
「そう言えば、ファララス公爵令嬢は──」
「ロゼリアでいいわよ」
「……ロゼリア様は、何のご用で今日はいらしたんですか?」
アポイントメントもなしで来たのだから、それなりの理由があるのだろう。
ドレス選びに参戦していたくらいだから、急いではいないんだろうけど。
「あぁ、侍女を一人紹介しようかと思っていたのよ。ヘンルートゥ家は新しく使用人を雇えないのでしょう?」
「結構だよ。うちにも侍女はいるからね」
間髪入れずにライラクスが答え、ロゼリア様は冷めた目でライラクスを見る。
「あら、それは私のおばあ様より年上の侍女を雇っていて言える、お言葉かしら? 今後のためにも人員は補充すべきでしてよ。何より、紹介する彼女は、とても美容や化粧に詳しいんですの。もっと魅力的なヴォレッカを見たいでしょう?」
「それは……」
あ、ライラクスが押されてる。
でもなぁ、ロゼリア様は平気でも、その侍女がライラクス相手に普通でいられるとは限らないんだよね。
「ロゼリア様、大変ありがたいのですが、ライラクスにその侍女が恋情を抱いても困りますし──」
「あり得ないから、安心して大丈夫よ」
「その根拠は?」
「彼女は筋肉隆々の男性しか興味がないのよ。ライラクス様のような線の細い男性は対象外ね」
あぁ、なるほど。それなら大丈夫そうだ。
「身元も保証するわよ。彼女、私の専属の侍女なのよ」
「それだと、ロゼリア様が困るんじゃないですか?」
「問題ないわ。そもそも、彼女から希望してきたことだもの。何でも、伯爵の護衛をしている方の筋肉が黄金比だとかで、お近づきになりたいそうよ」
そう聞いた瞬間、ものすごい癖の強い人物を想像してしまった。
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