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彼岸花のような人

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 香が目を覚ましたのは丸一日経ってからだった
「あの、ここは?!」
「医院ですけど?」
「あの、僕保険証とか持ってないです!」
 知らない場所で混乱する彼に、若葉は笑いをこぼす
「それだけ元気なら大丈夫そうですね、ここは保険証いりませんよ、それに治療費は代理でお支払いしてくださった方がいますし」
 わけが分からず固まる香に、若葉は診察用のボードを持って近づく
「でも、カルテは作らないといけませんからお名前教えて下さい、偽名でも構いませんので」
 保険証がいらず、名前も偽名で構わない、香はようやくここが闇医者だとわかった
「植花・香です、あの…ここに運んできてくれた方って、お会いできませんか、お金とか建て替えてもらってますし、お礼も言わないと」
「不死原さんでしたら、そろそろお越しになると思いますよ、心配なさってましたし」
「余計な事を言うな若葉」
 昨日と同じ格好で出入り口に立つ血霧に対し、香は目を丸くした
「下斗米さん?」
 その言葉に表には出さないものの今度は血霧が動揺した、格好で印象はかなり変わっているし、声も変えているなにが、同一人物だと結びつけるきっかけになったのか、わからなかった
「人違いじゃあ」
「間違えませんよ、自分で作った香水の匂いくらいわかります、ネメシアの香りは新作でまだ買っていかれた人は少ないそれに貴女は」
 香は一瞬、言葉が止まるが、迷ったように小さな声で
「貴女は彼岸花のような人だから」
 彼岸花には、「情熱」と言う花言葉がある反面、「諦め」「独立」「悲しい思い出」などネガティブなものも多い
「このギフトのせいなのか人から色々な花の香りがするんです、彼岸花は慣れた香りのハズなのに、不思議と不快感がなかった」
(ハナズオウ、パセリ、スノードロップ、タツナミソウも多かった)
「どうしてだろう、彼岸花には嫌な思い出しか無いはずなのに、初対面の時から、貴女がお店に来るのを待っている自分がいて」
 ここまで来ると香は泣き泣き話し続ける
「貴女に一目惚れしてしまったんです」
 闇医者の医院でする会話では絶対にない、しかし、話す香も聞く血霧も真剣だ
「悪いけれど、君の気持ちには答えられない、私は殺し屋だから、なぜ君が裏賞金サイトに載っているのかは知らないが、君は善人だろ、将来の夢もある、殺し屋なんかと関わっていい人間じゃない」
「殺し屋、まさか白狼・血霧…」
「知っていたのか?」
「はい、僕の父が殺し屋の技術において右に出るものはいないと言っていたので、僕は親が犯した犯罪の関係で追われています、ずっと、隠れながら生きている、どうすれば、コソコソと怯えないで生きられますか?」
 血霧が殺し屋でありながら、平然と町中を歩く姿を知っての質問だろう、それに対し、血霧は指を三本たてた
「方法は三つ、一つは見た目を変えること、外見が賞金サイトと違えば気づかれづらい、二つ目は、どこかの組織に所属すること、最後の三つ目は極めて単純、狙ってくる相手よりも強くなることだ」
 更に付け足すと
①見た目を変えるは、整形手術などを利用した際、整形医が賞金サイトを見ている危険性があるというリスク
②組織に所属するは、どこに所属するかに寄って、今に比べ更に死と隣合わせになり、場合によっては裏切りに合う可能性も合う、うまく行けば安全だが、最もリスクが大きい
③強くなるは、自分がどの程度強くなれるかにかかっており、他人に騙されるリスクは無いが、誰も頼れない
「私は三を選んだ、昔から隠し事は苦手だったから、隠す相手すら作らないように生きている、戦術を教えた弟子もいるが、独り立ちしてからは一度も…」
「あの、すみません話を遮って、僕が貴女から教わることは可能ですか?」
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