【本編完結】お互いを恋に落とす事をがんばる事になった

シャクガン

文字の大きさ
47 / 129

11月22日 Side涼3

しおりを挟む
「はぁ…はぁ…はぁ……」

ショッピングモールからさほど遠くない距離にあるカラオケボックス。
不安と緊張からか普段ならこの程度の距離でここまで息が上がることはないのに、乱れている呼吸をなんとか落ち着かせようと息を吐き出す。

急ぎたい気持ちを抑えつけて、店内に入店して教えてもらった部屋番号を探していく。
一度も利用したことのないカラオケボックスは部屋の並びなんか分からず一つ一つ確認していく。

「102…103…105……」

部屋から出てきた別のお客とぶつかりそうになりながら、早足で道を進んでいく。

「あ、あった」

廊下の角に教えてもらった部屋番号の札を見つけた。
急いで部屋の前に行きドアを乱暴にノックしてそのままの勢いで扉を開けた。

「え………」

もう一度部屋番号を確認する。
龍皇子さんが教えてくれた番号のそれだった。

部屋には誰もおらずスピーカーからアイドルの曲が流れているだけだった。

部屋から出て急いで携帯を取り出した。すぐに着信履歴から龍皇子さんの番号を引っ張り出しかけた。
廊下を進み曇りガラスになっている扉の隙間から凪沙がいないか確認しながら、部屋を一つ一つ見ていった。

『はい。龍皇子です』
「凪沙がいない!!」

『え?』
「部屋を見たけどもういなかった!!」

焦りからつい声が大きくなって、感情的になってしまう。
ドクンドクンとなる心臓は入店してきた時以上に激しく脈打っている。

『まずいですね。移動したのかもしれません。急いで調べますので少々お待ちを』

すぐに電話は切られた。
待っていられない。だからって当てがあるわけではない。
どうして凪沙は移動した?どこにいった?

携帯を持つ手が自然と凪沙の番号を呼び出していた。
もしかしたら、帰っているかもしれない。一縷の望みをかけて携帯を耳に当てた。

発信音がなる音に耳を傾ける。店の前の端によって空を見ると、もう真っ暗な空はポツポツと星が光っている。
はぁはぁとなかなか整わない呼吸をしながら、いつまで経っても取られない電話音を聞く。

そろそろ留守番電話サービスに繋がりそうな気配がした頃プツッと音が止んだ。

「ん?」

留守番電話サービスに繋がったのかと思ったけど、待っても機械音声のような声は聞こえない。
耳を澄ませば雑音のような外の音が聞こえる。

繋がってる!!

「凪沙!?凪沙!!今どこ!?」
「…………」

数秒待つが返事がない。
「凪沙?」小さく問い掛ければ電話の向こうから物音がした。

嫌な予感が体中を駆け巡った。

「あ、あの……えっと……」

凪沙の声じゃない人の声が聞こえた。

「キミ誰?」

私でも信じられない程冷たく低い声が出た。
なんで凪沙の携帯にかけて凪沙以外の人が取るんだ?お前か?凪沙を連れて行ったやつ。
怒りと不安が両方襲ってきていた。

「と、とめたんです。で、でも、聞いてくれなくて……あの、急いで。早く来て!」

何?どういう状況なのか全く把握できないけど、凪沙に何かあったんだ……

「どこ!?場所!!教えて!!」

「〇〇ホテルに向かってる」

ここら辺の建物の名前なんてほとんどわからないし、ホテルなんて利用したことないんだから場所なんてわからないけど、私は携帯の地図アプリを開いて検索した。

大通り沿いにあるこのカラオケボックスから少し離れた場所にあるらしい。

私は今日何度目かの全速力で駆け出した。

走りながら龍皇子さんに再度電話をかけた。

『はい。りゅうおうj――』
「〇〇ホテル!!」

電話が取られた瞬間叫んだ。

『はい?』
「〇〇ホテルに凪沙向かってるって!!はぁ…はぁ……私も向かってる!」

『その情報どちらから………』
「誰かわからない!……凪沙に電話したら…違う人が出て――」

『そうですか。わかりました。ありがとうございます。私たちもすぐに向かいます』
「わ、わたし…たち?」

電話はすぐに切られてしまった。
そしてすぐ携帯が震えた。画面を見ないで着信を取る。

「はい!」
『悠木涼?凪沙は見つかったの?』

「はぁはぁ……高坂?――凪沙はまだ……はぁ…」
『どこにいるかもわからないの?』

「い、今凪沙がいるらしい所に向かってる……はぁ…」
『悠木涼今どこにいるの?』

「ショッピングモールの……ところ…から少し離れた〇〇ホテル!!はぁ……はぁ…」
『ちょっ!!ホテル!?ちょっと!どういうこと!?凪沙は!?』

走りながら話しているといつも以上に息が上がってきた。走ってるの気づかないのか高坂は!
こんなに息を切らしながら話してるのにこれ以上話してる余裕はない。とにかく急ぎたい。

「高坂!今急いでるから!!」
『――――!!』

何か叫んでいるのはなんとなくわかったけど、切った。
高坂だって心配しているのはわかっている。

でも、なんとしてもホテルに入る前には凪沙を見つけたかった。
ホテルに入ってしまうと、カラオケ以上に見つけにくい。部屋に鍵をかけられてしまったら終わりだ。

足を更に早める。

せっかく誰かわからないけど、凪沙の居場所を教えてくれたんだ。信用してもいいかもわからない人物を信じて全力で走って、もし罠だったりしたら……

いや、凪沙を守るって誓ったんだろ!罠でもなんでも凪沙を絶対守るって!


引き攣りそうな足を無理やり前に出して、ホテルに向かって走った。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

処理中です...