【本編完結】お互いを恋に落とす事をがんばる事になった

シャクガン

文字の大きさ
83 / 129

12月26日 Side涼1

しおりを挟む
「涼くんおはよー風邪だったの?大丈夫?」

教室に入って自分の席に座ると私に気づいた結が心配そうに近寄ってきた。

風邪?なんのことだろうと一瞬考えるが、そういえば何も言わずに今週はずっと学校を休んでいたし、退学の話も他の人にはしていなかった。龍皇子さんは知っていたが、凪沙達に教えたくらいで他の人には無闇に話したりとかはしていないのか、私は風邪で休んでいたということになっているみたいだ。

「風邪ね。もう大丈夫だよ」
「今日も休んじゃえば良かったんじゃない?終業式だけしかないんだから」

「成績表もらえないじゃん。休みの日にわざわざ成績表取りにくるのもいやだよ」
「その為に今日登校してきたの!?」

「まぁ……」

それに凪沙にも会えなくなるし、帰りは下校デートのお誘いまで受けてしまった。今日登校してきて良かった。

「それにしてはなんか機嫌良さそう……」
「ん?」

嬉しさが表情に現れてたのか結が不思議そうに私の顔を覗き込んできたと思ったら、急に視線を天井に向けて何かを思い出したみたいに手をポンと打った。

「あ!涼くん!今日部活ないでしょ?ちょっとバッシュ選ぶの手伝って欲しいんだけど……」
「ムリ」

私は食い気味に返答を返した。

「何か用事でもあるの?」
「今日は凪沙と帰る約束してるから」

「凪沙ちゃんと!?」

結は凪沙という名前を聞いた途端表情を輝かせた。なんか嫌な予感がする。

「じゃあ、私も一緒に帰っていい?というか一緒にどこかいこ!?!?」
「え!?いや、それは……」

「あ、凪沙ちゃんにも聞かないとだよね?そこはちゃんと確認するよ?放課後でいいよね?一緒に凪沙ちゃんのところに行っていい?」

疑問系で聞いてくる割には人の話を全く聞く気がない結は勝手に話を進めてくる。
返答を間違えた。凪沙の名前を出せばどうなるかなんてわかりきっているはずなのに……私の了承も得ずに勝手に凪沙のところに一緒にいく事になってしまった。

「ゆ、結。今日は――」

運悪く先生が教室に入ってくる。それを見て結は自分の席に戻って行ってしまった。
凪沙と付き合い始めてからの初デートなのに……

終業式中はみんなから体調が悪いの?とか心配されて、成績表はまずまずだったのに席に座って眺めていたら隣の女子から成績下がってたの?とか聞かれた。

どれも私の表情が暗く落ち込んでいたからなんだと思う。


私はどうやったら凪沙と2人きりのデートができるのか考えていた。結に“凪沙と2人きりが良いから“なんて無下にはできないし、それに“私たち付き合ってるから“なんて勝手に結に教えることもできない。

「涼くん。準備できた?凪沙ちゃんの所いこ?」
「うん……」

結は悪気があってやってるわけではないし、根はすごく良い子だっていうのはわかってる。だけど、ちょっと空気が読めないところがある。

凪沙も結が一緒に行きたいと言ったら、きっと断らない。2人きりで帰りたいと私が思っていることはわかっているだろうけど……

私は結の後を足に重りがついているような気分でついていった。


「凪沙ちゃーん!!今日もかわいいね!いつもかわいいけど、今日は一段とかわいいね」
「あ、結ちゃん。結ちゃんもかわいいよー」

結が凪沙のところまで駆け寄って行った。
しゃがみ込んで机に肘を乗せた結の頭を凪沙がよしよしと撫でると、結が顔を赤くしながら照れている。
私の凪沙なんだけど……

「なんだお迎えにきたのか?」

凪沙の前の席に座っている高坂が結の後から入ってきた私に視線を向けた。
もしかしたら結が一緒に帰ることを高坂なら阻止できるのではないか!?私は期待の眼差しを何もわかっていない高坂に放つ。

「それで結ちゃんはどうしたの?」
「あ、今日涼ちゃんと一緒に帰るんでしょ?私も一緒に帰っていい?というかどこか寄り道して帰りたいなって思って!」

少し瞳を大きく開いた凪沙が私を見る。
私は居心地が悪く、肩を小さくした。凪沙は小さく笑って「いいよ」と答えた。

「なるほどねー悠木涼」

凪沙は断らないことはわかっていたけど、私と凪沙の関係を知っている高坂ならもしかしたらそれとなく結を止めてくれるのではないかと、再度期待の眼差しを高坂に放つ。
高坂は机に乗っていた自分の鞄を手に持ち私の隣に立つと、肩にポンと手を置いた。

「ドンマイ。ま、次があるさ」

口の端をニヤと上げて、肩に置いてあった手を上げてみんなに「またなー」と言って東雲の机に向かっていった。
凪沙との付き合ってからの初デート、下校デートは一度しかないんだけど!?!?
役に立たなかった高坂に自分のことを棚に上げて、目を細めて軽く睨んでおいた。

「それじゃあ、どこか寄って帰ろうか?涼ちゃん」
「あ、う、うん……」

凪沙も机の中の教科書などを鞄に詰めて立ち上がり、凪沙の隣には結が嬉しそうに並んだ。
その後ろを私がついていく。仲良く並んで昇降口に向かって歩いている2人の背中を見る。肩と肩が触れ合うくらいの距離……


私の凪沙なんだけど……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...