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12月26日(1)
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朝、まだ登校している生徒が少ない教室の出入り口から中を覗き込む。
まだ早い時間だというのにもう教室で姿勢よく席に座っている人物へと近づいた。
「おはよう。要ちゃん」
「あ、おはようございます。凪沙様」
少し驚いた様子を見せる幼馴染の要ちゃんは今日も私に“様“をつけてくる。
「…………」
「ど、どうなさったんですか?」
ジトっとした視線を向けると戸惑った表情に変化した。
「…………」
「な、な、凪沙……ちゃん……」
「うん。おはよう要ちゃん」
私の言いたい事を感じ取って、照れた様子を見せる要ちゃんに笑顔を向けた。
「一昨日はありがとうってお礼言いたくて」
「いえ、なぎさ…ちゃんの為でしたらあれくらい当然ですので…それにその事は昨日電話もいたしましたし」
「それでも、直接お礼言いたかったの。要ちゃんがいなかったら涼ちゃんとも話せないままだっただろうし、気持ちも伝えられなかったと思うから。涼ちゃんもここに残れるようになったし、要ちゃんのおかげだよ」
「凪沙ちゃんと悠木さんが上手くいったようで私も嬉しいです」
要ちゃんが微笑みながら言う。
私は熱くなる頬を隠すように顔を手で押さえた。いまだに涼ちゃんと付き合えたんだとかそういう実感はあまりなくてこうやって言われると照れてしまう。
「それも……ありがとうね」
「何かあれば凪沙ちゃんにはいくらでも協力しますので……悠木さんがちょっとでも凪沙ちゃんを悲しませるようなことがあればいくらでも――」
「そ、そこは大丈夫!!何かあったらちゃんと話し合うから!」
要ちゃんの目つきが鋭くなって涼ちゃんを刺すような視線をしたので慌てて止めた。
教室の生徒の人数が増えてきて、そろそろHRの時間が迫ってきていた。
「じゃあ、私教室戻るね。ホントにありがとう要ちゃん」
席に座っている要ちゃんに手を振って教室から出た。
廊下には登校してきたばかりの生徒が教室に入っていく。自分の教室に向かって歩いているとA組の教室から涼ちゃんが出てきた。
「あ、凪沙!おはよう。どこ行ってたの?」
「おはよう。涼ちゃん。どこってD組だけど」
「D組?」
「うん。要ちゃんの所」
「龍皇子さんのところ……」
「涼ちゃんはどうしたの?私に用事?」
少し考えるそぶりをしていた涼ちゃんが私にムスッとした表情をした。
私何かした?
「何かないと来ちゃいけないの?」
「……そんな事ないけど」
「昨日だってほんとはもっと一緒にいたかったのに……」
「それは仕方ないでしょ?」
昨日の帰りは結局それぞれ最寄り駅で降りてそのまま家に帰った。そこから遅刻して学校に行く気にもならず、寝不足気味だったので私は家で休んでいた。
涼ちゃんは退学手続きが進められていた為、美月さんと学校に行かなければならずその日はおやすみのメッセージを送り合って終わった。
「そうなんだけど……せっかくのクリスマスだったのになぁ」
「でも、夜は一緒だったでしょ」
イブの夜は一緒のホテルで泊まっていたんだから、長い時間を一緒にいた事には変わりない。
「凪沙寝てた」
「…………」
「私がお風呂入ってる間に凪沙寝てたじゃん」
「気づいたら寝ちゃってて……」
「一緒にいれたのは嬉しいけど……もっと話したりとか、色々したかったのに……せっかく付き合え――」
「こら、廊下で痴話喧嘩はやめなさい」
教室から出てきたちさきちゃんが私たちを見て呆れた表情をする。
「こんなところでするような話じゃないだろ悠木涼……」
周りを見れば結構視線を感じる。ちょっと話題になったことがある2人がこんなところで、クリスマスの夜の話とかし始めたら変な噂が立つかもしれない。
確かに早々にベッドで寝てしまったのはちょっと勿体なかったなとは思っていた。付き合ったばかりだし、涼ちゃんがアメリカに行かなくて嬉しかったもっと話したりしたかった。朝は涼ちゃんのお父さんの関係でバタバタと支度してホテルを出たし、電車の中はみんながいたからゆっくりと2人で話す時間はあまりなかった。
涼ちゃんも気づいたのか周りを見渡してため息をついた。声を小さくして口を開く。
「ごめん……私は別に凪沙との事広まってもいいって思ってるけど……そういうのはちゃんと話し合うべきだよね」
「……じゃあ、今日は一緒に帰ろ?どこか寄り道しよ?」
瞬時に笑顔になった涼ちゃんはコクコクと頷いた。
チャイムが鳴り廊下にいた生徒達は教室に入っていく。
「また後で……」
涼ちゃんが手を振って機嫌よく教室に入って行った。私も隣の教室に向かう。
「朝から騒がしいやつだな……」
「あ、ちさきちゃんも一緒に帰る?」
「遠慮する。悠木涼が不機嫌になる未来が見えるからな……」
「だよねー」
教室に入ればすぐに先生がやってきてHRが始まった。
今日は終業式でそれが終われば成績表をもらって解散となる。午前中で終わるのでお弁当も持ってきていないし、お昼は涼ちゃんとどこかで食べるのも良いかもしれない。
私は早く終わらないかなと窓の外を眺めた。
まだ早い時間だというのにもう教室で姿勢よく席に座っている人物へと近づいた。
「おはよう。要ちゃん」
「あ、おはようございます。凪沙様」
少し驚いた様子を見せる幼馴染の要ちゃんは今日も私に“様“をつけてくる。
「…………」
「ど、どうなさったんですか?」
ジトっとした視線を向けると戸惑った表情に変化した。
「…………」
「な、な、凪沙……ちゃん……」
「うん。おはよう要ちゃん」
私の言いたい事を感じ取って、照れた様子を見せる要ちゃんに笑顔を向けた。
「一昨日はありがとうってお礼言いたくて」
「いえ、なぎさ…ちゃんの為でしたらあれくらい当然ですので…それにその事は昨日電話もいたしましたし」
「それでも、直接お礼言いたかったの。要ちゃんがいなかったら涼ちゃんとも話せないままだっただろうし、気持ちも伝えられなかったと思うから。涼ちゃんもここに残れるようになったし、要ちゃんのおかげだよ」
「凪沙ちゃんと悠木さんが上手くいったようで私も嬉しいです」
要ちゃんが微笑みながら言う。
私は熱くなる頬を隠すように顔を手で押さえた。いまだに涼ちゃんと付き合えたんだとかそういう実感はあまりなくてこうやって言われると照れてしまう。
「それも……ありがとうね」
「何かあれば凪沙ちゃんにはいくらでも協力しますので……悠木さんがちょっとでも凪沙ちゃんを悲しませるようなことがあればいくらでも――」
「そ、そこは大丈夫!!何かあったらちゃんと話し合うから!」
要ちゃんの目つきが鋭くなって涼ちゃんを刺すような視線をしたので慌てて止めた。
教室の生徒の人数が増えてきて、そろそろHRの時間が迫ってきていた。
「じゃあ、私教室戻るね。ホントにありがとう要ちゃん」
席に座っている要ちゃんに手を振って教室から出た。
廊下には登校してきたばかりの生徒が教室に入っていく。自分の教室に向かって歩いているとA組の教室から涼ちゃんが出てきた。
「あ、凪沙!おはよう。どこ行ってたの?」
「おはよう。涼ちゃん。どこってD組だけど」
「D組?」
「うん。要ちゃんの所」
「龍皇子さんのところ……」
「涼ちゃんはどうしたの?私に用事?」
少し考えるそぶりをしていた涼ちゃんが私にムスッとした表情をした。
私何かした?
「何かないと来ちゃいけないの?」
「……そんな事ないけど」
「昨日だってほんとはもっと一緒にいたかったのに……」
「それは仕方ないでしょ?」
昨日の帰りは結局それぞれ最寄り駅で降りてそのまま家に帰った。そこから遅刻して学校に行く気にもならず、寝不足気味だったので私は家で休んでいた。
涼ちゃんは退学手続きが進められていた為、美月さんと学校に行かなければならずその日はおやすみのメッセージを送り合って終わった。
「そうなんだけど……せっかくのクリスマスだったのになぁ」
「でも、夜は一緒だったでしょ」
イブの夜は一緒のホテルで泊まっていたんだから、長い時間を一緒にいた事には変わりない。
「凪沙寝てた」
「…………」
「私がお風呂入ってる間に凪沙寝てたじゃん」
「気づいたら寝ちゃってて……」
「一緒にいれたのは嬉しいけど……もっと話したりとか、色々したかったのに……せっかく付き合え――」
「こら、廊下で痴話喧嘩はやめなさい」
教室から出てきたちさきちゃんが私たちを見て呆れた表情をする。
「こんなところでするような話じゃないだろ悠木涼……」
周りを見れば結構視線を感じる。ちょっと話題になったことがある2人がこんなところで、クリスマスの夜の話とかし始めたら変な噂が立つかもしれない。
確かに早々にベッドで寝てしまったのはちょっと勿体なかったなとは思っていた。付き合ったばかりだし、涼ちゃんがアメリカに行かなくて嬉しかったもっと話したりしたかった。朝は涼ちゃんのお父さんの関係でバタバタと支度してホテルを出たし、電車の中はみんながいたからゆっくりと2人で話す時間はあまりなかった。
涼ちゃんも気づいたのか周りを見渡してため息をついた。声を小さくして口を開く。
「ごめん……私は別に凪沙との事広まってもいいって思ってるけど……そういうのはちゃんと話し合うべきだよね」
「……じゃあ、今日は一緒に帰ろ?どこか寄り道しよ?」
瞬時に笑顔になった涼ちゃんはコクコクと頷いた。
チャイムが鳴り廊下にいた生徒達は教室に入っていく。
「また後で……」
涼ちゃんが手を振って機嫌よく教室に入って行った。私も隣の教室に向かう。
「朝から騒がしいやつだな……」
「あ、ちさきちゃんも一緒に帰る?」
「遠慮する。悠木涼が不機嫌になる未来が見えるからな……」
「だよねー」
教室に入ればすぐに先生がやってきてHRが始まった。
今日は終業式でそれが終われば成績表をもらって解散となる。午前中で終わるのでお弁当も持ってきていないし、お昼は涼ちゃんとどこかで食べるのも良いかもしれない。
私は早く終わらないかなと窓の外を眺めた。
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