100 / 129
あの日 Side涼3(中学生〜高校生)
しおりを挟む
「ちょっと急ごうか」
バスから降車してお姉さんが私に振り返って手を差し出してきた。
その手を掴むと小走りで私を引っ張っていく。お姉さんはスニーカーではなく踵が高めのサンダルを履いていて、走るには向いていない。
それでも、時間に間に合うようにと私を引っ張りながら進んでいく。
お姉さんの手は身長と同じように小さく柔らかい。
一生懸命私を学校に連れていってくれているお姉さんに対して申し訳ないけど、私は学校に着かなければいいのにと思っていた。
お姉さんの歩みがゆっくりに変わっていく。そうか、もう近くまで来たんだなと俯いていた顔をあげる。
振り返り私を見ていたお姉さんが、繋いでいない方の手で前を指差した。
「ほら、あそこ!」
学校の校舎とフェンスで囲われたグラウンド、校門には⚪︎×中学校と書かれている。
手が緩んで、繋いでいた手が離れていく。
「あ、ありがとうございます。ここまで来たら大丈夫です」
「うん」
向かい合って頭を下げながらお礼を言った。
お姉さんが少し早くなっている呼吸を整えながら笑った。
「練習試合頑張ってね」
「はい……」
「………」
「………」
風の音と遠くで車の走る音が聞こえる。ただ何も言わないで2人で向かい合っている状況。下を向いて足元ばかり見ていた視線を上げた。
お姉さんが割と近くに来ていて、茶色い瞳が私の目と合った。
「緊張してる?先生に怒られると思ってる?大丈夫だよ?ちゃんと間に合ったから」
俯いて何も言わない私を気にかけてくれていたんだと気付かされた。集合時間前にちゃんと到着したのに、動かないで立ち止まってしまった私をまだ優しく接してくれる。
本当はあなたともう少し一緒にいたかったからなんだけど、これ以上の迷惑はかけられないと私はまた頭を深く下げた。
「ありがとうございました!」
「ふふ。どういたしまして」
私がそのままお姉さんに目を向けずに学校に行こうとすれば、「そうだ!ちょっと待って」と声をかけられ、振り返った。
お姉さんはカバンからゴソゴソとポーチを取り出し、ポーチにくっ付いていたストラップを外した。
「これ、お守りがわりに」
「え……」
それはメッセージアプリで最近よく見かけるようになったイケメンな猫のストラップだった。私は使ったことがなかったけど、送られてくるメッセージで見かけることがよくある。
「いや、でも……」
「いいからいいから!」
私の顔の位置までストラップを上げて笑いかけてくる。
「なんとなく君に似てるよね」
ストラップと私を交互に見つめて微笑んだ。
私の手に無理やりイケメンな猫のストラップを握らせる。
「試合がんばってね!見にはいけないけど、応援してるから」
そういうとお姉さんは手を振って来た道を戻って行った。
その背中を見送り私は学校の校門をくぐった。
後からお姉さんの名前だけでも聞いておくべきだったと大いに後悔した。
その後すぐだった。私が彼女と別れたのは……
「好きな人ができた」
そう伝えると彼女は「誰!?どんな人!?同じ学校の人?男?」など色々問い詰められたけれど、どれも答えずにただ好きな人とだけ伝えた。
本当は気になる人と言った方が正しかったけど、別れるならハッキリと好きな人と伝えた方が別れやすいと思った。
やっぱり付き合うなら本気で好きになった人が良いと、付き合うのならあのお姉さんのような人と付き合いたいと中学2年の私は思った。
あの日から私はたまにあの駅に行っていた。ちょっとストーカーっぽいなって思うけど、あの時のお礼をちゃんとしていなかったしなどと適当な言い訳を心の中で呟いて、あの時のお姉さんにまた会えないだろうかと周りを見渡していた。
結局は一度も会えることはなかったけど……
中学を卒業して私はなんとなく進学が有利そうな高校を選んだ。自分の学力でも入れそうな所、あまり遠くない所、校則が厳しくなさそうな所。高校はそこまで真剣には選んでいなかった。
でも、高校の入学式の日にここの高校を選んで良かったと心から感謝した。
まさか会えるなんて思わなかった。
だって年上だと思っていた人が、同学年で隣のクラスにいるなんて誰が想像できただろう。
茶色い髪は長くなって背中まであって、身長も伸びてより女性らしく、可愛い笑顔はそのままで誰にでも優しいあの人がいた。
名前はすぐにわかった。でも、隣のクラスという壁は意外にもかなり分厚かった。なかなか接点もできなかったし、気のせいかもしれないけど目が合っても彼女は私の事を覚えている気配はなかった。
あの時と違って背もまた伸びたし、髪はショートになったから一度しか会ったことのない人のことなんて、気付かれなくても当然かもしれない。
図書委員になって東雲亜紀と仲良くなった。高坂ちさきと幼馴染で高坂ちさきは彼女とクラスで1番仲良くしている。かなり遠いが繋がりができたけど、いきなり彼女を紹介して欲しいだなんて言えるはずもなかった。いつかもしかしたら会える機会ができないかと期待はしていた。
高坂ちさきは東雲亜紀とたまに母さんがやっている喫茶店に来ることはあったけど、何故か彼女はいつもいなかった。高坂ちさきと仲が良いはずなのにいつも帰りはバラバラだった。
そんな日々がずっと続いていた時ついにチャンスが来た。
高坂が彼女のアルバイト先として喫茶店を紹介してくれた。理由が彼氏と別れたとかだったけど……それでも、話せるチャンスが来たんだと嬉しかったんだ。
ずっと遠くから見つめて気になる人が、友達になれて嬉しかった。
ちゃんと話すようになって“好きだ“って思ったのはすぐだったけど……もしかしたら、あの日からずっと好きだったのかもしれない……
バスから降車してお姉さんが私に振り返って手を差し出してきた。
その手を掴むと小走りで私を引っ張っていく。お姉さんはスニーカーではなく踵が高めのサンダルを履いていて、走るには向いていない。
それでも、時間に間に合うようにと私を引っ張りながら進んでいく。
お姉さんの手は身長と同じように小さく柔らかい。
一生懸命私を学校に連れていってくれているお姉さんに対して申し訳ないけど、私は学校に着かなければいいのにと思っていた。
お姉さんの歩みがゆっくりに変わっていく。そうか、もう近くまで来たんだなと俯いていた顔をあげる。
振り返り私を見ていたお姉さんが、繋いでいない方の手で前を指差した。
「ほら、あそこ!」
学校の校舎とフェンスで囲われたグラウンド、校門には⚪︎×中学校と書かれている。
手が緩んで、繋いでいた手が離れていく。
「あ、ありがとうございます。ここまで来たら大丈夫です」
「うん」
向かい合って頭を下げながらお礼を言った。
お姉さんが少し早くなっている呼吸を整えながら笑った。
「練習試合頑張ってね」
「はい……」
「………」
「………」
風の音と遠くで車の走る音が聞こえる。ただ何も言わないで2人で向かい合っている状況。下を向いて足元ばかり見ていた視線を上げた。
お姉さんが割と近くに来ていて、茶色い瞳が私の目と合った。
「緊張してる?先生に怒られると思ってる?大丈夫だよ?ちゃんと間に合ったから」
俯いて何も言わない私を気にかけてくれていたんだと気付かされた。集合時間前にちゃんと到着したのに、動かないで立ち止まってしまった私をまだ優しく接してくれる。
本当はあなたともう少し一緒にいたかったからなんだけど、これ以上の迷惑はかけられないと私はまた頭を深く下げた。
「ありがとうございました!」
「ふふ。どういたしまして」
私がそのままお姉さんに目を向けずに学校に行こうとすれば、「そうだ!ちょっと待って」と声をかけられ、振り返った。
お姉さんはカバンからゴソゴソとポーチを取り出し、ポーチにくっ付いていたストラップを外した。
「これ、お守りがわりに」
「え……」
それはメッセージアプリで最近よく見かけるようになったイケメンな猫のストラップだった。私は使ったことがなかったけど、送られてくるメッセージで見かけることがよくある。
「いや、でも……」
「いいからいいから!」
私の顔の位置までストラップを上げて笑いかけてくる。
「なんとなく君に似てるよね」
ストラップと私を交互に見つめて微笑んだ。
私の手に無理やりイケメンな猫のストラップを握らせる。
「試合がんばってね!見にはいけないけど、応援してるから」
そういうとお姉さんは手を振って来た道を戻って行った。
その背中を見送り私は学校の校門をくぐった。
後からお姉さんの名前だけでも聞いておくべきだったと大いに後悔した。
その後すぐだった。私が彼女と別れたのは……
「好きな人ができた」
そう伝えると彼女は「誰!?どんな人!?同じ学校の人?男?」など色々問い詰められたけれど、どれも答えずにただ好きな人とだけ伝えた。
本当は気になる人と言った方が正しかったけど、別れるならハッキリと好きな人と伝えた方が別れやすいと思った。
やっぱり付き合うなら本気で好きになった人が良いと、付き合うのならあのお姉さんのような人と付き合いたいと中学2年の私は思った。
あの日から私はたまにあの駅に行っていた。ちょっとストーカーっぽいなって思うけど、あの時のお礼をちゃんとしていなかったしなどと適当な言い訳を心の中で呟いて、あの時のお姉さんにまた会えないだろうかと周りを見渡していた。
結局は一度も会えることはなかったけど……
中学を卒業して私はなんとなく進学が有利そうな高校を選んだ。自分の学力でも入れそうな所、あまり遠くない所、校則が厳しくなさそうな所。高校はそこまで真剣には選んでいなかった。
でも、高校の入学式の日にここの高校を選んで良かったと心から感謝した。
まさか会えるなんて思わなかった。
だって年上だと思っていた人が、同学年で隣のクラスにいるなんて誰が想像できただろう。
茶色い髪は長くなって背中まであって、身長も伸びてより女性らしく、可愛い笑顔はそのままで誰にでも優しいあの人がいた。
名前はすぐにわかった。でも、隣のクラスという壁は意外にもかなり分厚かった。なかなか接点もできなかったし、気のせいかもしれないけど目が合っても彼女は私の事を覚えている気配はなかった。
あの時と違って背もまた伸びたし、髪はショートになったから一度しか会ったことのない人のことなんて、気付かれなくても当然かもしれない。
図書委員になって東雲亜紀と仲良くなった。高坂ちさきと幼馴染で高坂ちさきは彼女とクラスで1番仲良くしている。かなり遠いが繋がりができたけど、いきなり彼女を紹介して欲しいだなんて言えるはずもなかった。いつかもしかしたら会える機会ができないかと期待はしていた。
高坂ちさきは東雲亜紀とたまに母さんがやっている喫茶店に来ることはあったけど、何故か彼女はいつもいなかった。高坂ちさきと仲が良いはずなのにいつも帰りはバラバラだった。
そんな日々がずっと続いていた時ついにチャンスが来た。
高坂が彼女のアルバイト先として喫茶店を紹介してくれた。理由が彼氏と別れたとかだったけど……それでも、話せるチャンスが来たんだと嬉しかったんだ。
ずっと遠くから見つめて気になる人が、友達になれて嬉しかった。
ちゃんと話すようになって“好きだ“って思ったのはすぐだったけど……もしかしたら、あの日からずっと好きだったのかもしれない……
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。
甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。
平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは──
学園一の美少女・黒瀬葵。
なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。
冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。
最初はただの勘違いだったはずの関係。
けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。
ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、
焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる