【本編完結】お互いを恋に落とす事をがんばる事になった

シャクガン

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2月12日 Side涼26

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「ほらよ」

ドカッ

机に突っ伏した私の頭に固い何かが乗せられた。

「凪沙じゃなくて悪かったな」

頭に乗せられたものと共に顔を上げて相手を見ると、明るく染め上げた髪に校則に違反しない程度に施されたメイクと寒くないのかと言うほど短めなスカートの見た目がギャルな高坂が不機嫌そうにこっちを見ていた。

頭に乗せられたものを受け取ると、最近では見慣れた袋に入れられたお弁当だった。

「凪沙は?」
「教室。わざわざ届けにきてあげたんだから感謝しろよな」

「ありがとう」
「塞ぎ込んでるみたいだけどさ。全面的にお前が悪いからな?大事な物を忘れたり、勝手に修学旅行二日目を賭けたりしてさ」

高坂もやっぱり色々と思うところがあったのか、私に鋭い視線を向けて上から見下ろしてくる。結にも修学旅行二日目を賭けたことを怒っていたし、私も悪いことをしたと思っている。

だけど今更辞めるなんて言えば私の不戦敗となって、凪沙の修学旅行二日目が森と過ごすことになってしまう。森はそういうところが厳しいんだよな。耳元で『女に二言はないよな?』と脅しとも取れるようなことを平気で言ってくるようなやつだ。

凪沙も応援をしてくれると言っていたし、今回は勝つためにもここは我慢というものをしていくしかない。

「今日は凪沙のお弁当だけで我慢だな」

バシッと肩を強く叩いてから高坂は教室から出て行った。言いたいことも言えたし、一発くらわせたから満足みたいな表情をしていた。

「ほらね?涼くんが悪いんだよ」

高坂と意見が一致したことが嬉しかったのか鼻高々に言ってくる。わかってるって!全部私が悪いんだって!



♢♢♢Sideちさき♢♢♢

B組の教室から出て自分のクラスに戻る。あたしの席の後ろには、太陽が高く登り暖かそうな日差しが降り注いでいる窓の外を眺めて、ため息をついている凪沙が座っていた。

「渡してきたぞー」
「ん?あ、ありがとう」

声をかければ笑顔で振り返ってくる。いつもの笑顔だけど、どこか寂しそうにしているのはあたしの勘違いというわけでもなさそうだ。

「わざわざお弁当作ってこなくても良かったんじゃないか?」

今日は会わないって事前に知らせてあるなら、お昼だって個々で過ごすことはわかっているはずだし、そんな日までお弁当を持ってくることなんてしなくても良いんじゃないかって思うんだけど。

「なんかねぇ。気付いたらお弁当二つ作っちゃってたんだよねぇ」

少し恥ずかしそうに小さく笑う。

そういや、悠木涼が一緒にお昼を過ごさなかった期間中も毎日お弁当作ってきてたな。もう2人分のお弁当を作るのが日課になってるってことだろう。

あの時は代わりにお弁当を食べて体重が⚪︎キロ増えて戻すのに苦労したな……全部あいつのせいだ。もう一発殴っておけばよかったか。

「凪沙の修学旅行二日目を勝手に賭けて、森優菜と勝負するなんてどうかしてるよな。凪沙は優しいよ。あいつの為に会わないようにするなんてさ」

バレンタインチョコの個数勝負で邪魔にならないようにするために会わない選択を選ぶなんて、凪沙だって不本意だよな。

カバンからいつものように菓子パンとミルクティーを取り出して自分の席に座り、後に座る凪沙に振り返った。

ポカンと私の顔を見ている。

なんでそんな表情をしているのか分からず首を傾げた。

「私優しい?」
「優しいでしょ。あたしならキレてその賭け自体を無くしてるだろうからさ」

んー。と唸りながら凪沙が顎に指を当てて考え込んだ。

「私怒ってるよ?」
「え!?」

いやいや、凪沙のどこに怒りの様子が出てたって言うんだ!?表情にも態度にも怒った様子なんて微塵も感じていないんだけど……

「勝手に私の修学旅行二日目を賭けてるのも怒ってるし、その勝負がバレンタインのチョコなのも嫌だなって思ってる。わざわざそんな賭けをしなくても、涼ちゃんと一緒に観光したかったよ」

苦笑しながら凪沙は続けた。

「確かに、涼ちゃんの邪魔にならないようにって言うのもあるけど、私が色んな子からチョコを貰ってる涼ちゃんを見たくなかったって言うのが本音かな」
「あ―」

そりゃそうか、好意を寄せている相手から笑顔でチョコを貰ったりしているのなんて見たくないよな。

「あいつにガツンと言ってやればよかったんだよ」
「だからちょっと距離置いて反省してもらおうかなって」

邪魔にならないようにするんだったら当日だけでいいものを、次の日からと言うのは凪沙が悠木涼を懲らしめるためのものだったらしい。

ガツンというよりもあいつが最も嫌がるであろう手段を選んでいるあたり、凪沙って結構怒らせると怖いタイプの人間なのかとちょっと恐怖した。

肘をついて凪沙がまた窓の外を眺める。

その表情はやっぱり寂しげに見えるのはあたしの勘違いではない。

自分から距離を置いたくせに結局自分も寂しいのだ。

お昼休みは悠木涼がお弁当を美味しそうに食べてる姿を見て、嬉しそうにしている凪沙を見ている。

いつもいるあいつがいない環境は寂しさを倍増させる。

最近では4人で食べるのが当たり前になっていたから2人だけというのは、なんだか物足りない。



あたしは誰もいない隣を見る。

今日は亜紀は図書室で食べるらしい。
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