彼女は、罰して命を奪った男の後を追った

基本二度寝

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七 メリアンテ

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「…ギル?、私…また?」

王太子の訪問があり長時間拘束された末、メリアンテは意識を失った。
気づくと、ギルバートの腕の中にいた。
ここの所、ギルバートに抱かれて目覚める事が多くなってきた。

「だめよ、殿下が居られるのに」
「殿下は帰られた後なので大丈夫です。それに側にメイドも護衛もいますのでご安心を」

メリアンテが視線を他に向けると室内にはメリアンテの侍女も護衛も居た。
ギルバートは弁えている。

殿下がいる空間で平民のギルバートがメリアンテに触れるなど許されない。
衣越しでも抱き合うなどもってのほか。

メリアンテは王太子の婚約者だったから。

「本当は、肌と肌の接触、且つ接触面の大きい方が早く魔力を流せるのですが」
「ギル。それは本当にだめなのよ」
「貴族とは…難儀ですね」

幾ら侯爵家の使用人の口が固くても、婚約者がいる令嬢が他の男性と裸で抱き合うなんて出来ない。

例え生命を天秤にかけたとしても。

貴族は面子を重んじる。
その筈なのに、父はメリアンテが許すなら構わないと言う。
王太子との婚約のせいで躊躇するならば、婚約を解消してやると躍起になっている。

「殿下の目の前で倒れられなくてよかった。もしまた、彼の前で倒れでもしたら殿下はメリアンテ様の側を離れなかったでしょうしね」

殿下がメリアンテの側にいる限り、魔力の補給が出来ない。
その度に症状は悪化する。

「…まだ王太子殿下が好きなんですか?」
「…そうね」
「難儀なものですね」

呆れたように肩を竦め、ギルバートはメリアンテを腕の中から解放した。
しかし、魔力補給のために手は繋いだまま。

ー…好き、か。

本当は、好きも嫌いもない。

恋を知る前に、メリアンテは王太子殿下の婚約者に選ばれ、教育を受けた。

王太子の望む答えをせよ。
王太子に好意を持てと

殿下に「好きか」と問われたら「好き」と、「愛しているか」と問われたら「愛している」と返す以外の答えはない。
メリアンテは常に王太子の望む言葉を先回りして、対応を求められていた。

ギルバートに、同じ質問をされたらどう答えるべきなのだろうか。

ー「わからない」

メリアンテがギルバートに抱く感情は、王太子殿下や父親、屋敷の使用人達とは少し違う。
その感情の名を知らない。

…違う。私には婚約者が居るのだから、そもそもそんな問いがあるはずがない。

妃教育上なら、王太子を立てるような模範的な回答を…。

いや。もう、メリアンテが王妃になる未来はない。
ギルバートが側にいなければ、座っているだけの茶会ですら危うい身体。
彼から大量の魔力を定期的に取り込むことができれば、人並みの生活は出来るだろうと、公爵家の抱える魔術師から説明を受けたけれど、それには…。

メリアンテは頭を振った。
将来の約束もない男女が裸で抱き合うなんて…。
想像だけで頬が赤らんだ。
恥ずかしいと思うが、嫌だとは思わない。

だだ、それは現状では許されない。

繋がれた手に力が入った。
許されるのは、此処まで。
だから、触れ合う手に少しだけ力を入れた。
もう少し、と。
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