過去に戻った筈の王

基本二度寝

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ホボロンは馬を走らせた。

王妃を務められるのはシェラティエラしかいない。
ホボロンだけではない、父も母も、宰相も同じ意見だった。ずっと言われていたその事を、ようやく理解した。

シェラティエラの登城を命じたが、公爵に断わられた。

シェラティエラは二人目を身篭っている。
遠方から登城するのは無理だと、王妃はそれを聞いて諦めた。
側妃に召し上げるならば子と離れなければならない。
まだ可愛い幼子と離れて暮らせなど、王妃には言えなかった。

ホボロンは国のためならば多少の犠牲はやむを得ないと、両親の静止を振り切り、馬を走らせたのだった。


幾日を掛け、辿り着いた国境近くの宿場街。
ホボロンはシェラティエラが嫁いだ公爵家の領地を管理している代官のもとを訪ねた。

「此度はどのようなご用向きで…妻ですか…?」
「旦那様…!見てくださいな!こんなに大きな果物を…ってあれ?殿下?」

旦那様、と呼ばれた代官は、いきなり飛び込んできたふくよかな女に忍び笑いで殿下にご挨拶をと促す。
シェラティエラ、…?

「殿下お久しぶりです。あれから七年ですか。殿下は随分苦労されているようですねぇ」

ホボロンは学生時分からすれば、精悍、というより窶れた、草臥れた外見になっていた。

「ああ…君も…随分変わった…な」

学生時代の面影はない。
ほっそりしていた体型は見る影もなくぷくぷくと膨れている。
丸い体に突き出した腹。そこには二人目を宿しているのだろう。

「ええ!こっちに来てから食べ物が美味しくて!それに、妊娠で体力つけないといけなかったのでね!
先の出産で身体のライン崩れちゃって、戻す前に旦那がはりきっちゃうもんだからまたデキちゃって!やだっ何言わせてんですかもう!」

恥じらいながら口を大きく開けて笑うシェラティエラにホボロンの顔は引き攣った。
旦那と言われた代官は彼女を微笑ましそうに見つめている。

「で、殿下はどうしてここへ?」

シェラティエラの言葉にホボロンは要件を言いよどむ。

側妃として、王都に戻って欲しい。

己と並ぶ姿を想像して、言うべき言葉がでない。

それでも、数日掛けてここまで来たからには、挨拶だけで帰るわけには行かない。

「王都に…戻るつもりはないか?」

城を飛び出し息巻いていた時のような熱心さはない。

「私がですか?あー!無理無理!何年都から離れていると思ってるんですか。貴族の諸事は移り変わりが激しいんですよ。私の知ってる知識など最早過去の産物でしょうね!」

彼女の言い分は一理あった。
七年。この空白を埋めるにはそれなりに時間を要するだろう。
それに…貴族から王都から離れたせいか、彼女の口調は平民のようだった。
平民に嫁ぎ、彼女は平民になった。平民として生活していれば貴族の格式張った作法など不要。
そういうことなのだろう。

以前のシェラティエラの違いを一々発見して、ホボロンは彼女を諦めざるを得なかった。

色々なものが緩みきった彼女に、王妃業はこなせない。

「邪魔を…した」

ホボロンは肩を落として帰路についた。
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