断罪後に入れ替わった悪役令嬢

基本二度寝

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リグツィネが再び目を覚した時、覚えのない天蓋が目に入った。

シーツの肌触りが違いすぐに気づく。
いつものリグツィネの寝台ではない。

ゆっくり身体を起こすと、背中に痛みが走った。

声は、出さなかった。
身体に染み付いた淑女としての矜持がそうさせた。

見知らぬ部屋。内装。
見知らぬ侍女。

夢ではなかった。

リグツィネは、侍女に鏡を頼んだ。


「腫れは引きましたが、赤みがまだ…」

侍女は心配そうな顔で手鏡を手渡した。

顔の腫れの確認の為ではない。
だが、それを説明する気はなかった。

リグツィネとエルシャナは全く顔の作りが違う。
似ていて間違えた、ということはまずありえない。
エルシャナの父親が娘を間違えることがあるだろうか。
それもあんなに近くにいて。

ならば。

鏡のカバーを外すと、そこに写っていたのはキュール伯爵の娘、エルシャナの顔だった。




瞼を閉じて、大きく深呼吸をする。
落ち着け。パニックになるな。

この顔で、「自分はリグツィネだ」などと喚いて誰が信じるか。
私でも取り合わない。
昨夜の伯爵の怒りは最もだと思った。

ただ、一方的に手を上げるのはどうかと思うけれど。


「朝食をお持ちします」

侍女が部屋を出た隙に、部屋を物色する。
この際プライバシーなどは考慮しない。
今は少しでも情報がほしい。

本棚には暗黒魔術や黒魔法、その類の書籍が並ぶ。

「黒魔法使い」

なるほど。

リグツィネに魔法の才能はないが、知識はあった。
黒魔法には禁術とされる魔法が多く存在している。
時を戻す物や、呪いの類。
ならば、他人に成り変わる、ないしは入れ替わる魔法があっても不思議ではない。

本のタイトルを黙読していて背表紙になにも書かれていない物を見つけた。

手に取り、それが日記だと気づいた。



一人の朝食を終え、ゆっくり休みたいと言って侍女を下がらせた。
エルシャナの日記を開く。

最後のページから遡り、直近の物を読もうとした。

この国の言語ではない。
見たこともない言葉で綴られていた文章を目にしてリグツィネは戸惑った。

内容がわからなくて、ではない。
何故か理解できた事に。


『明日は学園最後の日
とうとうこの日がやってきた

推しの攻略はどう頑張っても能力値ステータスが足りなすぎた
補助アイテムなしの自力で学年上位なんてやっぱり無理だった
出会いイベントすら発生しなかったなんて好感度を上げる以前の問題だ

このままヒロインはバッドエンドまっしぐら

でも、それは私じゃない
あの悪役令嬢と入れ替われば、私は王太子と結婚できる

バッドエンドはあの男との結婚
無理 絶対嫌

私の未来はハッピーエンドしか認めない』


「っう…」

頭の中に一気に情報が流れ込んできて頭痛がした。 

きっかけはこの日記を読んだことだろう。
この国に無い文字に触れて、記憶の扉が開いた。

遠い昔の記憶。この生を受ける以前の。

エルシャナはこの世界を「ゲームの物語」だと思っているのだ。
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