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七
「ようやく会えたな」
公爵は生まれたばかりの娘の子供を腕に抱いた。
公爵は産後に亡くした妻の時のような事には二度とせぬと、産婆の他に医師と看護師、治癒魔法を持つグイスも待機させ、万端の状態で出産を迎えさせた。
危なげなく出産を終え、疲れたアレスフィナは眠りに落ち、グイスは彼女に付き合って側にいる。
生まれる前から予告していた通り、グイスの髪色にアレスフィナの目の色をした男児を産んだ。
赤子は小さな手に氷の花を握りしめていた。
グイスに似て、子も生まれながらの魔術師だった。
「君のおかげだ」
アレスフィナは王太子の妃とならなかったし、出産で亡くなることもなかった。
グイスは王宮の下級魔術師ではなく王の直属になるほど出世し爵位を得て娘に求婚したし、出世欲の強かったリリーザがうまく王太子を導き、国は安定している。
未来視の卜者が伝えた未来にはならなかった。
ーーー
「王を惑わせたペテン師はお前のことか」
巷で有名になっている平民の卜者を、公爵は見つけ連れてこさせた。
アレスフィナを王子の妃にしたかったのは権力を望んだわけではない。
妻が生前に望んでいた親友だった王妃の子との婚約を叶えたいと思っただけだ。
しかし、その望みを何処の誰とも知らぬ卜者か潰した。
王は卜者が見せた未来を視て、王子の運命である男爵令嬢を妃にしたいのだと公爵に告げ命じた。
男爵家の令嬢を養女として公爵に迎えよと。
男爵家が裏で糸を引いているのかと思い、卜者との関係を調べても繋がりは出なかった。
ならば、卜者に直接聞くしかない。
「王に見せたものをペテンと認めるならば、お前を雇った者の二倍の報酬を払おう」
卜者はフードで顔を隠したまま首を振った。
その態度に舌打ちし、無礼だとフードを掴み顔を暴いて、公爵は戸惑った。
公爵よりも幾つが年下の、成人はしているだろうが、見覚えのある顔と見知った瞳の色を持つ男。
アレスフィナの怪我を癒やした孤児の縁者だとわかる程に似ている顔立ちにもかかわらず、その瞳は公爵の大事な娘と同じ色。
「…ペテン、ではないですが、あれは俺にとっての未来ではないです。国王の息子の未来ではありますが」
まるで謎掛けのような言葉を発する。
何かを誤魔化し偽ろうという態度はない。
至極真面目に卜者は答えた。
あの孤児の、父親ならば若すぎる。
兄ならば、年が離れている。
目の前の卜者が、指から指輪を抜いて公爵の前に置いた。
公爵の指にはまっているものと同じ模様の指輪は、この公爵家に代々伝わっている物だった。
この世にただ一つしかない筈の物。
「どうして、こんなものが」
「…亡くなった母より受け継いだものです」
公爵が指輪を手に取り、己の物よりくすみ傷があるのを確認したが、それは間違いなく本物だった。
「…そんなことがありえるのか」
未来視など、そんなものはペテンだと思っていた。
公爵は占いも神も目に見えぬ存在を信じたことはない。
ありえないと冷静な頭は理解しているのに、一方で目の前の男に、強い繋がりを感じ取ってもいた。
「俺の父は王宮の下級魔術師でした。領主様の計らいで通わせて頂いた魔術学校を首席で卒業し、城に呼ばれたのです」
公爵は、あの孤児を思う。
難易度の高い治癒魔法を独学で編み出した孤児が、箔付けの為だけの貴族が多く通う魔術学校で首席になるなど容易いだろう。
王宮から目をつけられたのならば、公爵の目論見が外れ、我が家で雇い入れは出来なかったのだろう。
「父は、記憶の保存の魔術を構築し、己の記憶を幾つも記録して残していました。
王にお見せしたのは、そのうちの一つです」
卜者の言葉が歪んでいく。
公爵は生まれたばかりの娘の子供を腕に抱いた。
公爵は産後に亡くした妻の時のような事には二度とせぬと、産婆の他に医師と看護師、治癒魔法を持つグイスも待機させ、万端の状態で出産を迎えさせた。
危なげなく出産を終え、疲れたアレスフィナは眠りに落ち、グイスは彼女に付き合って側にいる。
生まれる前から予告していた通り、グイスの髪色にアレスフィナの目の色をした男児を産んだ。
赤子は小さな手に氷の花を握りしめていた。
グイスに似て、子も生まれながらの魔術師だった。
「君のおかげだ」
アレスフィナは王太子の妃とならなかったし、出産で亡くなることもなかった。
グイスは王宮の下級魔術師ではなく王の直属になるほど出世し爵位を得て娘に求婚したし、出世欲の強かったリリーザがうまく王太子を導き、国は安定している。
未来視の卜者が伝えた未来にはならなかった。
ーーー
「王を惑わせたペテン師はお前のことか」
巷で有名になっている平民の卜者を、公爵は見つけ連れてこさせた。
アレスフィナを王子の妃にしたかったのは権力を望んだわけではない。
妻が生前に望んでいた親友だった王妃の子との婚約を叶えたいと思っただけだ。
しかし、その望みを何処の誰とも知らぬ卜者か潰した。
王は卜者が見せた未来を視て、王子の運命である男爵令嬢を妃にしたいのだと公爵に告げ命じた。
男爵家の令嬢を養女として公爵に迎えよと。
男爵家が裏で糸を引いているのかと思い、卜者との関係を調べても繋がりは出なかった。
ならば、卜者に直接聞くしかない。
「王に見せたものをペテンと認めるならば、お前を雇った者の二倍の報酬を払おう」
卜者はフードで顔を隠したまま首を振った。
その態度に舌打ちし、無礼だとフードを掴み顔を暴いて、公爵は戸惑った。
公爵よりも幾つが年下の、成人はしているだろうが、見覚えのある顔と見知った瞳の色を持つ男。
アレスフィナの怪我を癒やした孤児の縁者だとわかる程に似ている顔立ちにもかかわらず、その瞳は公爵の大事な娘と同じ色。
「…ペテン、ではないですが、あれは俺にとっての未来ではないです。国王の息子の未来ではありますが」
まるで謎掛けのような言葉を発する。
何かを誤魔化し偽ろうという態度はない。
至極真面目に卜者は答えた。
あの孤児の、父親ならば若すぎる。
兄ならば、年が離れている。
目の前の卜者が、指から指輪を抜いて公爵の前に置いた。
公爵の指にはまっているものと同じ模様の指輪は、この公爵家に代々伝わっている物だった。
この世にただ一つしかない筈の物。
「どうして、こんなものが」
「…亡くなった母より受け継いだものです」
公爵が指輪を手に取り、己の物よりくすみ傷があるのを確認したが、それは間違いなく本物だった。
「…そんなことがありえるのか」
未来視など、そんなものはペテンだと思っていた。
公爵は占いも神も目に見えぬ存在を信じたことはない。
ありえないと冷静な頭は理解しているのに、一方で目の前の男に、強い繋がりを感じ取ってもいた。
「俺の父は王宮の下級魔術師でした。領主様の計らいで通わせて頂いた魔術学校を首席で卒業し、城に呼ばれたのです」
公爵は、あの孤児を思う。
難易度の高い治癒魔法を独学で編み出した孤児が、箔付けの為だけの貴族が多く通う魔術学校で首席になるなど容易いだろう。
王宮から目をつけられたのならば、公爵の目論見が外れ、我が家で雇い入れは出来なかったのだろう。
「父は、記憶の保存の魔術を構築し、己の記憶を幾つも記録して残していました。
王にお見せしたのは、そのうちの一つです」
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