過保護の王は息子の運命を見誤る

基本二度寝

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公爵が次に気づいた時、目の前には向かい合う男女がいた。

公爵は、言葉を発することもできず、ただ、男女の会話を聞いた。

国王の若い頃に似た男性が「婚約破棄」を告げ、公爵の妻によく似た女性はそれを素直に受けた。

公爵は憤った。

婚約破棄を告げたのは、まだいい。
他に好いた女がいた事も、まだいい。

婚約破棄を告げながら、結局王子は密室での婚約破棄を無かったことにした。

王子は男爵令嬢への愛を貫き、妃になった公爵令嬢は冷遇された。
そんなことにも気づかない自分と同じ顔の公爵令嬢の父は、無神経に「早く子を。第二子を我が家に」と急かす。

閨に訪れない王子は、嫌味だけを妃にぶつける。
自分の存在理由を見出だせなかった公爵令嬢は心を壊して絶望した。
自死の覚悟を見せた彼女に気づき、城から逃したのが、下級魔術師だった。

下級魔術師はその地位には不相応な力を隠していた。
身体を透化させて誰に気づかれることなく歩き回れたし、人形模型を妃の遺体に擬態させる力もあった。


公爵は見続けた。

下級魔術師の目線で、妃になった公爵令嬢の人生を。
魔術師の感情すら体感した。

城で静かに泣いていた彼女に手を差し伸べられない葛藤も。
刃物を見つめ思い悩む彼女に声をかけられないもどかしさも。
城から助け出した妃と自身の生まれ育った領地に隠れ住み、慎ましく二人で暮らしていた温かさも。
彼女を出産で失った時の深い悲しみも。


魔術師がその後狂ったように【時を遡る術】の研究し始めた事に嫌悪は抱かない。
可笑しくもない。

公爵が魔術師だったならば、妻を失った時に同じことをしたと思うのだ。




公爵の目の前に男が座っている。

ここは何処だと、自分の居場所を一瞬見失った。
先程まで成り代わっていた男の顔が目の前に現れて軽い混乱を起こした。


「未来視などではなく、過去にあった歴史を語って、よく当たる卜者だと持て囃されただけなのですが、運良く城に呼ばれまして王に謁見叶いました」

「…あの研究は、成功したのか」

追体験をした魔術師の感情が、公爵の中に残る。
もはや公爵の中に疑いなどない。
未来に起こった事実を視たからだ。

「はい。ただ、実験のし過ぎで父は身体を壊し亡くなりました。この術は術者への負担が大きいので」

「君が過去に遡ってきた理由は?」

公爵の瞳から自覚のない涙が流れて落ちている。

娘が幸せだった時間は短かった。
亡くなる前の数年だけ。魔術師と過ごした、たった数年だけ。

「母には幸せな人生を歩んで欲しい。それが父の願いでもありました」

公爵は、娘が王子と結ばれることが幸せと信じて疑わなかった。つい記録を視る前までは。

「俺は、母と少し、話が出来たらと」

遠慮がちなその些細な望みを叶える事は公爵には容易い。
正体を知る前なら検討の余地無く断っていた。
家令に娘を連れてくるように指示をした。

卜者は小さい母を前にして、緊張していた。

早速領地の孤児をこちらへ呼ぶ算段を立てる。
卜者に魔術の講師を頼めば、城に取られることも無いのではと考えた。

魔術師の記憶では、偽装された妃の自死で、王子は病み、国がガタついた。
国王は譲位出来ずにいた。

国としての未来も明るくない。

ならば、選択は一つだろう。

「…王子の運命の相手とやらを立派に育て、添い遂げさせてやろう」

娘のためにも、…その子の未来のためにも。

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