過保護の王は息子の運命を見誤る

基本二度寝

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アレスフィナを彼女の侍女に任せると、グイスは部屋を出て出産に関わってくれた者を労った。

今夜は、医者と看護師が念の為にと屋敷に滞在してくれる。
アレスフィナには過保護だと言われる義父は、出産で亡くした妻の事もあり慎重なのだろうとグイスは何も言わなかった。
出産で命を落とす可能性もあるのだと知って、アレスフィナよりもグイスの方がナーバスになっていた程だ。


自分の子に会おうと所在を公爵家の家令に尋ねると義父と共にいると聞いて、彼の元へと足を向けた。

義父はアレスフィナの婚姻の頃から孫を楽しみにしていた。

「失礼します、…っこれは」
「元気な子だろう?」

義父の書斎には書類が舞う。
蝶のように書類が目の前を羽ばたいているのだ。

「…その子が?」
「天才だろう?私の孫は」

手には氷の花を握っている小さな赤子は、羽ばたく紙に手を伸ばす。

「名前をフィズと付けた」
「フィズ、?」

「お前の師と同じ名だ」

「師匠の名前…」

グイスは知らなかった。師のことは「師匠」としか呼んだことがない。アレスフィナも名を口にしたことはない。
聞いたことがなかった。

義父が差し出した赤子を恐る恐る抱き抱える。

紫の目に黒い髪は、アレスフィナとグイスの色に違いない。
黒い髪は魔力の強さも意味している。魔術師以外には知られていない事だけれど。

子が纏う魔力にグイスは触れて、驚愕した。

「…こんなことありえない」

強い魔力量に師匠と同じ質の魔力を感じた。
グイスが漏らした呟きに、公爵が含んで笑う。

「フィズが居なくなった時期を覚えているか?」
「師匠が居なくなった時期…?」

師匠と過ごした時間はそう長くはなかった。
月日にしたら三年程。

十三になったグイスが、王宮の魔術師試験を受けると決めて公爵家を出てから師匠には会っていない。

「この屋敷を出てからは会えていませんでした」

公爵もわざわざ王宮魔術師にならなくても我が家が雇うと言ってくれたけれど、グイスは叙爵を目指した。

アレスフィナを娶るならばせめて貴族にはならなくてはならないと思いこんでいた。

無謀だと公爵家の使用人達は止めたが、グイスは爵位を得たらアレスフィナと結婚したいと公爵に伝えた。

簡単に認められるとは思わなかった。
もしかしたら、殺されるかもしれないという覚悟もあった。

「そうか。それから二年ほどしてからだな。お前が最短で上級魔術師となって叙爵した後。私が、君とアレスフィナとの婚約を認めてすぐだ」

「…師匠は何処に」

グイスは混乱している。
腕の中にある師の魔力に。
グイスよりも遥かに超えた魔力を持つ子に。

「未来が変われば、フィズの存在が消える。そう本人は言っていた」

フィズの戻るべき未来も消滅した。

グイスは視線を赤子に落とす。
口をパクパクさせるだけで声はない。

「…師匠?」

水の玉がグイスの頭の上に出現して落ちる。

ざばりと水を頭に被ったグイスに、赤子は喜んで手足をばたつかせた。

「フィズは両親の幸せを望んで過去を遡ってきたのだ。君たちの幸せにはその子も必要だろう?」

グイスは頷いた。
声は出ない。

被った水の名残と涙が混ざる。

我が子が、時を遡る力を使ってまでグイス達のためにやってきたと言うことは、アレスフィナとグイスは幸せになれなかった未来だったのだろうか。

過去には遡れても、未来に戻る術がなかったからこの時代に留まっていたのだろうと思うのは、魔術師としての見解だ。

未来を変えれば自分の存在も消滅するというのに、恐ろしくはなかったのだろうか。

「師匠は、強いな。俺なんかよりも」
「気の強さならアレスフィナ譲りだろう」

確かに。
小さく苦笑した。

グイスは小さなフィズを抱えて、アレスフィナが眠る部屋へ戻ることにした。

「積もる話はまた今度にしよう」と義父に追い払われた。

グイスには公爵に聞きたいことが山ほどあった。

しかし、今は…。

彼女が目覚めたら教えよう。
きっと驚く。

今世は大きなフィズが望んだ未来に辿り着いていると信じている。

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