6 / 15
六
スラーシアは久しぶりに、心地よく目覚めることができた。
半ば強制的に受けさせられていたバルドの治癒がない日は、痛みで眠れない夜もあった。
連日に渡る王太子達の無自覚な攻撃に身体が悲鳴を上げていたから、今日みたいに痛みで起こされなかったのは久々だった。
ふと、胸に他者の体温と重みを感じた。
スラーシアの顔の横に、いつも傷を癒やしてくれるバルドがシーツに顔を突っ伏していた。
重みの原因は、彼の腕がスラーシアの胸の上にあったからだ。
「…?バルド?」
彼の顔に触れようとして、何も身に着けていないことに気づく。
彼も、そして自分も。
「えっあ、なんでっ」
口腔粘膜接触の治癒は、初めこそ恥ずかしかったけれど回数を重ねて慣れた。
慣れるほどに回数を重ねた。
あまりに、何度も治癒されるものだから、顔をしかめてお説教されたこともある。
重篤になれば、口の接触だけじゃなく身体を深く繋げての治療になるのだぞ、と。
この状況は、まさか。
スラーシアの顔に熱が集まった。
不思議と不快や嫌悪の気持ちは沸かなかった。
治癒の為、不可抗力でも純潔を失えば王太子との婚約継続は不可能。
王太子殿下の望み通り、婚約は破棄されるだろう。
「よかった…」
安堵で目尻に涙が滲む。
殿下の婚約者としての責務をようやく放棄出来る。
元々、スラーシアには手の余る問題だった。
解決策を見出だせずに、ただ、痛みに耐えるしかなかった。
バルドの身体に腕を回して抱き合うような体勢になる。
「ありがとう、バルド」
二重の意味で感謝する。
スラーシアを彼らから救ってくれた事。
婚約を破棄できる理由をくれた事。
ふいに、強く抱き寄せられた。
「次からはもっと早く助けを求めろよ」
「…起きてたの?」
「今起きた」
聞きなれない掠れ艶めいた声色がスラーシアの耳を刺激する。
今の状況を思い出して、また赤面した。
「つ、次があるの、?」
「あるだろ。俺達の縁は切れてない。ラーシの爺さんに婚約の申し入れをした」
「…え?」
「ラーシを傷物にするから俺にくれって。いかつい顔して大笑いされたけどな」
スラーシアの祖父は厳しい人という印象だった。
孫であっても甘やかしてくれた記憶はない。
その祖父が笑うなんて。
「傷物になるのなら、婚約なんてまどろっこしいこと言わずにとっとと結婚しろって言われた」
「けっこ?!」
「侯爵に命じられたら、俺の立場じゃあなぁ」
王族相手に啖呵を切りに行くような男が宣う。
照れもあり、バルドの腕から抜け出そうと藻掻くが、簡単には行かなかった。
半ば強制的に受けさせられていたバルドの治癒がない日は、痛みで眠れない夜もあった。
連日に渡る王太子達の無自覚な攻撃に身体が悲鳴を上げていたから、今日みたいに痛みで起こされなかったのは久々だった。
ふと、胸に他者の体温と重みを感じた。
スラーシアの顔の横に、いつも傷を癒やしてくれるバルドがシーツに顔を突っ伏していた。
重みの原因は、彼の腕がスラーシアの胸の上にあったからだ。
「…?バルド?」
彼の顔に触れようとして、何も身に着けていないことに気づく。
彼も、そして自分も。
「えっあ、なんでっ」
口腔粘膜接触の治癒は、初めこそ恥ずかしかったけれど回数を重ねて慣れた。
慣れるほどに回数を重ねた。
あまりに、何度も治癒されるものだから、顔をしかめてお説教されたこともある。
重篤になれば、口の接触だけじゃなく身体を深く繋げての治療になるのだぞ、と。
この状況は、まさか。
スラーシアの顔に熱が集まった。
不思議と不快や嫌悪の気持ちは沸かなかった。
治癒の為、不可抗力でも純潔を失えば王太子との婚約継続は不可能。
王太子殿下の望み通り、婚約は破棄されるだろう。
「よかった…」
安堵で目尻に涙が滲む。
殿下の婚約者としての責務をようやく放棄出来る。
元々、スラーシアには手の余る問題だった。
解決策を見出だせずに、ただ、痛みに耐えるしかなかった。
バルドの身体に腕を回して抱き合うような体勢になる。
「ありがとう、バルド」
二重の意味で感謝する。
スラーシアを彼らから救ってくれた事。
婚約を破棄できる理由をくれた事。
ふいに、強く抱き寄せられた。
「次からはもっと早く助けを求めろよ」
「…起きてたの?」
「今起きた」
聞きなれない掠れ艶めいた声色がスラーシアの耳を刺激する。
今の状況を思い出して、また赤面した。
「つ、次があるの、?」
「あるだろ。俺達の縁は切れてない。ラーシの爺さんに婚約の申し入れをした」
「…え?」
「ラーシを傷物にするから俺にくれって。いかつい顔して大笑いされたけどな」
スラーシアの祖父は厳しい人という印象だった。
孫であっても甘やかしてくれた記憶はない。
その祖父が笑うなんて。
「傷物になるのなら、婚約なんてまどろっこしいこと言わずにとっとと結婚しろって言われた」
「けっこ?!」
「侯爵に命じられたら、俺の立場じゃあなぁ」
王族相手に啖呵を切りに行くような男が宣う。
照れもあり、バルドの腕から抜け出そうと藻掻くが、簡単には行かなかった。
あなたにおすすめの小説
とある婚約破棄の事情
あかし瑞穂
恋愛
「そんな卑怯な女を王妃にする訳にはいかない。お前との婚約はこの場で破棄する!」
平民の女子生徒に嫌がらせをしたとして、婚約者のディラン王子から婚約破棄されたディーナ=ラインハルト伯爵令嬢。ここまでは、よくある婚約破棄だけど……?
悪役令嬢婚約破棄のちょっとした裏事情。
*小説家になろうでも公開しています。
〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?
ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」
その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。
「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」
【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~
黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。
婿入り条件はちゃんと確認してください。
もふっとしたクリームパン
恋愛
<あらすじ>ある高位貴族の婚約関係に問題が起きた。両家の話し合いの場で、貴族令嬢は選択を迫ることになり、貴族令息は愛と未来を天秤に懸けられ悩む。答えは出ないまま、時間だけが過ぎていく……そんな話です。*令嬢視点で始まります。*すっきりざまぁではないです。ざまぁになるかは相手の選択次第なのでそこまで話はいきません。その手前で終わります。*突発的に思いついたのを書いたので設定はふんわりです。*カクヨム様にも投稿しています。*本編二話+登場人物紹介+おまけ、で完結。
【完結】ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
不実なあなたに感謝を
黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。
※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。
※曖昧設定。
※一旦完結。
※性描写は匂わせ程度。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。