魅了によって堕ちる者と救われる者

基本二度寝

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七 騎士団長子息

「お前の母は実家に戻らせた」

騎士団長は息子に告げた。

「…」
「陛下に聞いた。つまらぬ女に魅了されていたようだな」

「つまらないなんて事は!」

「じゃあお前が養ってやれ」

「俺は…この家を守らねばならないので、それは」

リリメを侯爵家の養女にする事は出来なかった。
実父の実家からいらぬと言われた娘を侯爵家が引き取る利点を提示できなかった。
流石の王太子殿下も、スラーシアとの婚約を破棄し、リリメと結ばれたいからだと、婚約者の祖父である侯爵当主に言い出せるはずもなかった。

魅了が解けても、リリメを不憫だとは思っている。
だが、貴族でもない女を娶れるはずもない。
どうにもできないことはある。

「そうか。好きにしろ。お前の籍は抜いていない」
父の言葉に息子は頬が緩んだ。
血は繋がらなくても、親は親なのだと。

「籍を抜いたのはお前の母と、私だ」

「え?」



「嬉しいか?お前が当主だ」

「当主…?、ちょっと待ってください、この家は」

「騎士団長の職も辞した。空席は副団長が繰り上がるだろう」

「はっ、?」

父は元々平民として生きてきた。
高位貴族の誰かの愛人をやっていたのが、父の母だった。
身ごもり捨てられた生みの母の顔を、父は知らない。

父は平民として生きてきたが、その身体に薄くも王家の血が流れていた。
それを把握していたのは、本人と王族の限られた者だけだったようだ。
本人には団長職を命じられる際に告知を受けた。

騎士団長までに成り上がった父は、国王に剣を返したようだ。
その地位に立つために賜った爵位に、領地などない。

それでも、母も自分も貴族として生きてきた中で、父親が平民だと揶揄される環境以外、生活に不便さを感じたことはなかった。

騎士団長という立場が得る報酬を考えたことはなかったが、一貴族の対面を整えるだけの物が、一兵卒が獲得できる報酬程度でないこと位は分かる。

父に似ず、体格も能力も恵まれなかった自身に、それ相当の報酬を得る術もなく、貴族として、当主として、家を維持していけるはずがない。

「父上、当主から、団長職から降りるなど!どうやって生きていくつもりですか!考え直してください」

その言葉は、父を案じる言葉ではない。
自分の保身の為の言葉だ。

「古い知り合いから誘われている」

誘いはずっとあったのだという。
堪えていたのは国のため、家のため、家族のためだった。

「どうせ父上から搾取しようとする輩ですよ!」

「高難度のダンジョンに挑みたいという昔の仲間からだ」

平民時代に、冒険者をしていた時の仲間らしく、父は懐かしそうに郷愁に浸っている。

「自分達の年齢を忘れているのではないかと笑が出る」

「ならば、」

「今の私には何もない。地位も、責務も」

「父上!」

「我が子すら、なかった」

元騎士団長は立ち上がった。
いつものような騎士の紋章を刻んだ甲冑ではない、簡素な出で立ちだったのは、ここを去るつもりだったからだ。

息子は今頃気づいた。

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