王は想い人を他人に委ねる

基本二度寝

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四 侍女

婚姻式当日、アネッサは浮かれていた。

仕える主、オリビア様の晴れの舞台でもあるが、今夜のことを考えると朝から動悸が激しい。

浮かれていた。浮かれすぎていた。
この時幸せの絶頂にいたアネッサはこの後自分がどんな命令をうけるのか知る由もなかった。

---

「オリビア様…いま、なんと…」

「だから。アネッサ、貴女に代わってほしいって言ったのよ。初夜の陛下のお相手をね」

アネッサとオリビアは体型から顔立ちまでよく似ていた。
髪色や目の色は違う為、間違われることなどまずはないけれど。

よくよく思えば、何故オリビアの侍女に選ばれこの国についてくることになったのか。もとは城のメイドで下働きをしていたアネッサが。

「いよいよ結婚となったらねーつい。祖国の素敵な人と夜を過ごしちゃったのよ。だから、私純潔じゃないの。
ね?わかるでしょ」

つまりはアネッサはで側付き侍女に選ばれたのだと理解した。

(無理だ。そんなこと)

「そう。無理なのね?仕方ないわ。私も含め、ここにいる全員首を斬り落とされるわね。
王国を謀ったとして戦争にも発展するかもしれないわ。国の家族も無事では済まないでしょうね。
まぁ、大丈夫よ。貴方に無理強いはするつもりはないから。なんかじゃないから気にしないでね。これも運命なのよ」

優しく微笑むオリビアがアネッサには悪魔に見えた。

これは『王女のかわいらしいお願い』などではない。
国と家族を人質にとってアネッサを共犯者に巻き込もうとする悪魔の所業だ。

アネッサは唇を噛み、その願いを受け入れるほかなかった。





「じゃあーあとはよろしくね」

オリビアはアネッサに扮するつもりで侍女の衣装を纏い、アネッサの髪色の鬘を被って結い上げていた。
アネッサはというと肌が透けるほどに薄い生地の夜着を着せられ、オリビアと同じ髪色の鬘を被った。
瞳の色は…どうしようもない。

「大丈夫。祖国では閨は明かりをつけない作法だからそうしてほしいって事前に言ってあるの。顔立ちも似てるし大丈夫よ。…声、ださないように気を付けてね…?」

オリビアとアネッサの顔立ちはよく似ていた。
髪色と髪型、瞳の色が違うだけで、雰囲気は変わる。
それに加えて化粧を施せば薄明かりの中でならオリビアにみえる。…かもしれない。

オリビアも祖国から付いてきた他の侍女も部屋から去り、真っ暗な王妃の寝室に残された。
昼間の緊張とは違い、今は不安で震えた。

陛下の従者がいつ現れるのだろうか。
彼らをだまし続けることなどできるのだろうか。


アネッサは絶望感でいっぱいだった。

「っ、」

この国への派遣が決まり、結婚はあきらめていた。
恋人は、できたら良いなとは思っていた。
でも、好きでもない男に身を差し出さねばならないことになるとは思いもしなかった。

声は出せない。
けれど、耐えようとした溢れる涙も漏れる嗚咽も抑えられなかった。

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