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一
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聖女候補は二人。
貴族令嬢と、村人。
「聖女は彼女に間違いない」
王太子は貴族令嬢、モニカ嬢が真の聖女たる理由を夜会の場でつらつらと述べた。
要約すれば、モニカの方が美人だから。
その一言に全てが集約される。
識者は王太子の言動に将来の不安を覚え、他の者は、恐ろしくも王太子の判断なら間違いないだろう、とすんなり受け入れた。
次代の為政者は聖女と婚姻せよ。
古くからこの国にある習わしだった。
結婚するなら美人が良い!
王太子の欲に塗れた発言が、最終的に認められてしまった。
国民を惑わせたとして、聖女と認められなかった少女は処刑されることになった。
「私を殺さないで」
平民の少女は城下の広場に、十字に磔にされた。
「死にたくなければ聖女の力を見せてみろ」
げらげらと兵士たちは笑う。
その手には長槍を持っていた。
ギロチンで首を落とすのでも火炙りでもなく、その槍で身体を何度も貫き、十分苦しめた上で屠るつもりのようだった。
「…お願い、止めて下さい…」
少女の声は、恐怖に震えたようにか細い。
なりゆきを見物するために、王太子はモニカを連れて広場に来ていた。
高みの見物、ではなく磔にほど近い場所でモニカを侍らせている。
ここならば表情もよく見える。
定刻になり、宰相が少女の罪状を読み上げ、兵士が定位置についた。
少女はただじっとモニカを見つめている。
助けを待つかのように。
当のモニカは取れそうなネイルの方が気になるのか、自分の爪ばかり見ていた。
「執行」
やぁっと兵士たちが声を上げ、小さい身体を三本の槍が突いた。
槍を引けば一瞬で、彼女の服が真っ赤に染まる。
少女は声を上げなかった。
声を上げたのは、
「いああああっ!いだぁぁあああ!」
モニカだった。
つまらなさそうに爪をいじっていたから、爪が外れて出血したのかと思ったが違った。
モニカのドレスが真っ赤に染まっていた。
「はぁっ!?これは、一体どういうことだ!?」
王太子は理解ができず、急に叫びドレスを真っ赤に染めたモニカへの対応が遅れた。
兵士は二刀目を少女に打ち込んだ。
「ぎぃぃいああぁぁあっ」
モニカの絶叫が響く。
「モニカ、モニカっ、」
モニカと磔の少女を交互に確認してようやく気づいた。
少女の貫かれた場所とモニカの出血位置が同じだった。
「馬鹿なっ!どういう事だ!?」
混乱する王太子やモニカの状態に気づいた周囲がざわざわと騒ぎ始める。
「どうもこうもない。お前らは今聖女を殺そうとしている。それだけだ」
磔の少女はうっすら笑う。
「…モニカではなく、お前が聖女だというのか!?」
「違う」
不気味な少女に戦慄した兵士は槍を構え、三刀目を放った。
「ぎぅゔゔゔゔゔっっ」
立っていられずモニカは地に崩れた。
途端に血の海が広がる。
「馬鹿!やめろ!!槍を引けっ!!」
王太子の命に驚いた兵士が槍を引き抜く。
傷口から新たに鮮血が吹き出す。
出血は収まらずだらだらと血だまりを作っている。
「ああ…モニカ…モニカ…何故…。君は聖女ではなかったのか…?」
宰相は救護班を呼んだ。
出血量からすればもう助からないのはわかっていたが。
「モニカは聖女ですよ。そして、私もまた聖女です」
磔の少女は告げた。
身体中から血を流しながら。
「聖女が、二人…?」
「そうです。彼女が光なら私は影。光がある所に影は常にあるものです。
つまり、影を消せば、光も消える。それだけです」
「なん、だと」
王太子の顔から血の気が失せる。
王太子の判断が間接的にモニカを死に追いやっている。
「この国は聖女殺しの罪を犯した。女神の加護はじき消える。後は人力で国を守れ」
少女は口角を上げて笑んだ。
モニカは白目をむいてヒクヒクと痙攣していた。
そのうち少女はガクリとうなだれた。
少女がゆっくり瞼を閉じれば、女神様の温かい腕の中にいるようだった。
遠くで王太子が何かを喚いている。
私のせいではない。知らなかった。許して。助けて。
女神様が耳をふさいでくれたので雑音は消えた。
愛しい子。行きましょう。
モニカの魂は王太子の横で、その場に留まっていた。
女神様に連れられていく少女を見上げながら、手を伸ばしている。
パクパクと口を動かしていたので、少女は手を振ってそれに応えた。
サヨウナラ
口の動きでわかったようで、モニカは頭を振って手を仰ぐ。
こっちに来い?あっちにいけ?
モニカの動作の意味はわからないまま、少女は光に包まれた。
少女は目覚めると、自分のベッドにいた。
「…うーん。なんか変な夢をみたような…」
起き上がると身体の節々が痛い。
変な体勢で眠ったのだろうか。
家を出れば、小さな村は朝から活気があった。
「よぉ!起きたか!ねぼすけ!速報だぞ!なんでもこの国に聖女様が現れたってさ!」
幼馴染から新聞を受け取ると、一面に記事があった。
聖女と思わしき女性は疲れきった生気のない顔をしている。
ーーさて、次はどうなることやら。
誰かの囁きが聞こえて振り返ったが、誰もいない。
少女は首をひねって、新聞を幼馴染に返すと朝食の材料を買いに朝市に向かった。
王都から騎士団がぞろぞろとやって来たのはそれから三日後のことだった。
貴族令嬢と、村人。
「聖女は彼女に間違いない」
王太子は貴族令嬢、モニカ嬢が真の聖女たる理由を夜会の場でつらつらと述べた。
要約すれば、モニカの方が美人だから。
その一言に全てが集約される。
識者は王太子の言動に将来の不安を覚え、他の者は、恐ろしくも王太子の判断なら間違いないだろう、とすんなり受け入れた。
次代の為政者は聖女と婚姻せよ。
古くからこの国にある習わしだった。
結婚するなら美人が良い!
王太子の欲に塗れた発言が、最終的に認められてしまった。
国民を惑わせたとして、聖女と認められなかった少女は処刑されることになった。
「私を殺さないで」
平民の少女は城下の広場に、十字に磔にされた。
「死にたくなければ聖女の力を見せてみろ」
げらげらと兵士たちは笑う。
その手には長槍を持っていた。
ギロチンで首を落とすのでも火炙りでもなく、その槍で身体を何度も貫き、十分苦しめた上で屠るつもりのようだった。
「…お願い、止めて下さい…」
少女の声は、恐怖に震えたようにか細い。
なりゆきを見物するために、王太子はモニカを連れて広場に来ていた。
高みの見物、ではなく磔にほど近い場所でモニカを侍らせている。
ここならば表情もよく見える。
定刻になり、宰相が少女の罪状を読み上げ、兵士が定位置についた。
少女はただじっとモニカを見つめている。
助けを待つかのように。
当のモニカは取れそうなネイルの方が気になるのか、自分の爪ばかり見ていた。
「執行」
やぁっと兵士たちが声を上げ、小さい身体を三本の槍が突いた。
槍を引けば一瞬で、彼女の服が真っ赤に染まる。
少女は声を上げなかった。
声を上げたのは、
「いああああっ!いだぁぁあああ!」
モニカだった。
つまらなさそうに爪をいじっていたから、爪が外れて出血したのかと思ったが違った。
モニカのドレスが真っ赤に染まっていた。
「はぁっ!?これは、一体どういうことだ!?」
王太子は理解ができず、急に叫びドレスを真っ赤に染めたモニカへの対応が遅れた。
兵士は二刀目を少女に打ち込んだ。
「ぎぃぃいああぁぁあっ」
モニカの絶叫が響く。
「モニカ、モニカっ、」
モニカと磔の少女を交互に確認してようやく気づいた。
少女の貫かれた場所とモニカの出血位置が同じだった。
「馬鹿なっ!どういう事だ!?」
混乱する王太子やモニカの状態に気づいた周囲がざわざわと騒ぎ始める。
「どうもこうもない。お前らは今聖女を殺そうとしている。それだけだ」
磔の少女はうっすら笑う。
「…モニカではなく、お前が聖女だというのか!?」
「違う」
不気味な少女に戦慄した兵士は槍を構え、三刀目を放った。
「ぎぅゔゔゔゔゔっっ」
立っていられずモニカは地に崩れた。
途端に血の海が広がる。
「馬鹿!やめろ!!槍を引けっ!!」
王太子の命に驚いた兵士が槍を引き抜く。
傷口から新たに鮮血が吹き出す。
出血は収まらずだらだらと血だまりを作っている。
「ああ…モニカ…モニカ…何故…。君は聖女ではなかったのか…?」
宰相は救護班を呼んだ。
出血量からすればもう助からないのはわかっていたが。
「モニカは聖女ですよ。そして、私もまた聖女です」
磔の少女は告げた。
身体中から血を流しながら。
「聖女が、二人…?」
「そうです。彼女が光なら私は影。光がある所に影は常にあるものです。
つまり、影を消せば、光も消える。それだけです」
「なん、だと」
王太子の顔から血の気が失せる。
王太子の判断が間接的にモニカを死に追いやっている。
「この国は聖女殺しの罪を犯した。女神の加護はじき消える。後は人力で国を守れ」
少女は口角を上げて笑んだ。
モニカは白目をむいてヒクヒクと痙攣していた。
そのうち少女はガクリとうなだれた。
少女がゆっくり瞼を閉じれば、女神様の温かい腕の中にいるようだった。
遠くで王太子が何かを喚いている。
私のせいではない。知らなかった。許して。助けて。
女神様が耳をふさいでくれたので雑音は消えた。
愛しい子。行きましょう。
モニカの魂は王太子の横で、その場に留まっていた。
女神様に連れられていく少女を見上げながら、手を伸ばしている。
パクパクと口を動かしていたので、少女は手を振ってそれに応えた。
サヨウナラ
口の動きでわかったようで、モニカは頭を振って手を仰ぐ。
こっちに来い?あっちにいけ?
モニカの動作の意味はわからないまま、少女は光に包まれた。
少女は目覚めると、自分のベッドにいた。
「…うーん。なんか変な夢をみたような…」
起き上がると身体の節々が痛い。
変な体勢で眠ったのだろうか。
家を出れば、小さな村は朝から活気があった。
「よぉ!起きたか!ねぼすけ!速報だぞ!なんでもこの国に聖女様が現れたってさ!」
幼馴染から新聞を受け取ると、一面に記事があった。
聖女と思わしき女性は疲れきった生気のない顔をしている。
ーーさて、次はどうなることやら。
誰かの囁きが聞こえて振り返ったが、誰もいない。
少女は首をひねって、新聞を幼馴染に返すと朝食の材料を買いに朝市に向かった。
王都から騎士団がぞろぞろとやって来たのはそれから三日後のことだった。
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