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三
「子…」
わかってはいても、ソルダートはショックを受けた。
行き場のない嫉妬が渦巻く。
しかし彼女がソルダートのものだったことは一度もない。
「ゔあうっ!」
「わっ」
子犬が足元からソルダートに向かって吠えた。
一匹が鳴けば、どこからかもう一匹、もう一匹と現れて増えていく。
懸命に威嚇しているが、恐怖は感じない。
どちらかといえば愛玩動物に近い…
「お客さんだ。安心しろ」
シンリの声に子犬たちは反応し、ソルダートからは興味を無くし散っていく。
「人間には警戒するように躾けている」
子犬を追うシンリの瞳はまるで親のようで。
視線を追い、じゃれ合う子犬たちを眺めた。
「俺とソマリの子達だ」
ソルダートは弾かれたようにシンリに顔を向けた。
「えっ…?な、」
「俺は獣人。ソマリは聖獣の血を引く獣人」
国の神官が「聖獣の加護を追えばソマリに行き着く」と言っていた意味を、ソルダートはようやく理解した。
「…ソマリにはどうしても会えないか?」
「なぜ会いたがる。まさか、また魅了魔法を掛けてもらいたいなんて甘えた事を言いに来たわけではないよな?」
「…その通りだ」
ソルダートは頭を垂れた。
魅了魔法が解かれてから全てがおかしくなった。
「愛されていた故、王太子の仕事も周囲が率先して片付けてくれたものな。仕事の成果のみ受取り、持て囃された。
魅了が解ければそれまでと同じようにいかなかったのだろう」
シンリは見てきたかのように言う。
実際その通りだった。
ソルダートを敬愛していた子息達は、肩代わりしていた王太子の仕事を放棄し、好意を示していた令嬢達は去った。
「どうか、もう一度、」
両親である国王と王妃には魅了魔法の効果は効いていない。魅了されずとも、息子を愛していた。
しかし、為政者は情に振り回されなかった。
魔法が解かれ、周囲に見放された息子の廃嫡を決めた。
「一度解かれた魅了魔法は、再付与しても効果はない。魅了されていた人間が警戒するようになるから二度目は掛からないんだ」
「っそんな、頼む!魅了がなければ、私は戻れないんだ」
惜しげもなくソルダートは地に伏し頭を下げた。
頭を下げられてもシンリには魔法の付加など出来ない。
シンリが困っていた所で、小屋の扉が開いた。
「なぁに?うるさいんだけど」
「悪い。客人だ。人間だから服はちゃんと着ておけ」
「んー?」
目を擦りながら顔を出したのは、ソマリだった。
身体よりも大きな服の襟ぐりから覗く肌に、布一枚の下には何もつけていないと察せられた。
一年前とは異なる肢体。
たった一年で艶めかしい姿に変貌したソマリはソルダートに気づくと、地に伏せた。
…違う。地面にソマリが着ていた服が落ちて、姿が消えた。
「んなぁ」
落ちた服からもぞもぞと猫が頭を出し、ひと鳴きした後、シンリに飛びついた。
ソルダートに近寄りもせず。
「腹減ったか?」
「んぁぅ」
「飯にするか。川で捕れた鮭があったはずだ」
歓喜に喜ぶ猫を抱いて、シンリは子犬たちを呼ぶ。
「そんなわけで、殿下。俺達は昼飯の時間なんで、また今度」
「ま、まってくれ!シンリ!ソマリ!昔私は助けてやっただろう!?だから、今度は私を助け」
「ソルダート殿下。その恩は既に返した。ソマリが魅了魔法を使ったことで」
「だがっ!それはもう解けて…!」
シンリは腕の中の番を優しく撫でる。
ソマリはもうソルダートには興味がないようでシンリの腕をがぶがふと甘噛みして、食事を催促していた。
出産と子育てに明け暮れているソマリはもう一年前の事など遠い過去になっていた。
「聖獣の加護を解く聖者なんて、世界広しといえどなかなか居ない。力ある聖者様を大事にしろよ?」
ソマリが聖獣の血縁の者だと気づいた聖者は、己の行為が加護の破棄だと知り、国王に許しを乞うた。
名のあった聖者は、今や国王の小間使いとなり、ただの王族の犬に成り下がった。
「っ!あの者がっ!魅了を解かなければ、私達はまだ仲の良い…っシンリ!?待て!待ってくれ」
シンリはにっと笑うと、頭からひょこりと獣の耳が現れた。
「じゃあな」
引き止める間もなく、シンリの姿はあの日のように消えた。
騒がしかった子犬たちもいつの間にか消えていた。
ソルダートは、聖獣の加護だけでなく、昔馴染みをも失った。
最も、彼らを要らぬと先に切り捨てたのはソルダートだったのだけれど。
わかってはいても、ソルダートはショックを受けた。
行き場のない嫉妬が渦巻く。
しかし彼女がソルダートのものだったことは一度もない。
「ゔあうっ!」
「わっ」
子犬が足元からソルダートに向かって吠えた。
一匹が鳴けば、どこからかもう一匹、もう一匹と現れて増えていく。
懸命に威嚇しているが、恐怖は感じない。
どちらかといえば愛玩動物に近い…
「お客さんだ。安心しろ」
シンリの声に子犬たちは反応し、ソルダートからは興味を無くし散っていく。
「人間には警戒するように躾けている」
子犬を追うシンリの瞳はまるで親のようで。
視線を追い、じゃれ合う子犬たちを眺めた。
「俺とソマリの子達だ」
ソルダートは弾かれたようにシンリに顔を向けた。
「えっ…?な、」
「俺は獣人。ソマリは聖獣の血を引く獣人」
国の神官が「聖獣の加護を追えばソマリに行き着く」と言っていた意味を、ソルダートはようやく理解した。
「…ソマリにはどうしても会えないか?」
「なぜ会いたがる。まさか、また魅了魔法を掛けてもらいたいなんて甘えた事を言いに来たわけではないよな?」
「…その通りだ」
ソルダートは頭を垂れた。
魅了魔法が解かれてから全てがおかしくなった。
「愛されていた故、王太子の仕事も周囲が率先して片付けてくれたものな。仕事の成果のみ受取り、持て囃された。
魅了が解ければそれまでと同じようにいかなかったのだろう」
シンリは見てきたかのように言う。
実際その通りだった。
ソルダートを敬愛していた子息達は、肩代わりしていた王太子の仕事を放棄し、好意を示していた令嬢達は去った。
「どうか、もう一度、」
両親である国王と王妃には魅了魔法の効果は効いていない。魅了されずとも、息子を愛していた。
しかし、為政者は情に振り回されなかった。
魔法が解かれ、周囲に見放された息子の廃嫡を決めた。
「一度解かれた魅了魔法は、再付与しても効果はない。魅了されていた人間が警戒するようになるから二度目は掛からないんだ」
「っそんな、頼む!魅了がなければ、私は戻れないんだ」
惜しげもなくソルダートは地に伏し頭を下げた。
頭を下げられてもシンリには魔法の付加など出来ない。
シンリが困っていた所で、小屋の扉が開いた。
「なぁに?うるさいんだけど」
「悪い。客人だ。人間だから服はちゃんと着ておけ」
「んー?」
目を擦りながら顔を出したのは、ソマリだった。
身体よりも大きな服の襟ぐりから覗く肌に、布一枚の下には何もつけていないと察せられた。
一年前とは異なる肢体。
たった一年で艶めかしい姿に変貌したソマリはソルダートに気づくと、地に伏せた。
…違う。地面にソマリが着ていた服が落ちて、姿が消えた。
「んなぁ」
落ちた服からもぞもぞと猫が頭を出し、ひと鳴きした後、シンリに飛びついた。
ソルダートに近寄りもせず。
「腹減ったか?」
「んぁぅ」
「飯にするか。川で捕れた鮭があったはずだ」
歓喜に喜ぶ猫を抱いて、シンリは子犬たちを呼ぶ。
「そんなわけで、殿下。俺達は昼飯の時間なんで、また今度」
「ま、まってくれ!シンリ!ソマリ!昔私は助けてやっただろう!?だから、今度は私を助け」
「ソルダート殿下。その恩は既に返した。ソマリが魅了魔法を使ったことで」
「だがっ!それはもう解けて…!」
シンリは腕の中の番を優しく撫でる。
ソマリはもうソルダートには興味がないようでシンリの腕をがぶがふと甘噛みして、食事を催促していた。
出産と子育てに明け暮れているソマリはもう一年前の事など遠い過去になっていた。
「聖獣の加護を解く聖者なんて、世界広しといえどなかなか居ない。力ある聖者様を大事にしろよ?」
ソマリが聖獣の血縁の者だと気づいた聖者は、己の行為が加護の破棄だと知り、国王に許しを乞うた。
名のあった聖者は、今や国王の小間使いとなり、ただの王族の犬に成り下がった。
「っ!あの者がっ!魅了を解かなければ、私達はまだ仲の良い…っシンリ!?待て!待ってくれ」
シンリはにっと笑うと、頭からひょこりと獣の耳が現れた。
「じゃあな」
引き止める間もなく、シンリの姿はあの日のように消えた。
騒がしかった子犬たちもいつの間にか消えていた。
ソルダートは、聖獣の加護だけでなく、昔馴染みをも失った。
最も、彼らを要らぬと先に切り捨てたのはソルダートだったのだけれど。
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