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十
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「これから私と共に国に尽してほしい」
荘厳な聖堂で、王太子は花嫁に微笑んだ。
「…はい」
周囲からは拍手が上がる。
王家に仕える重臣が並ぶ中に、フランシールの父親、侯爵の姿もあり、そしてその横に正装した高貴な男性。
(スレッド…?)
片肩に掛けられた短い外套の留め具に施されているのは島国の王家の紋章。
あれと思う間もなく面が変わり、今日ここに認められた新たな夫婦の姿が現れた。
王太子は王太子妃と招待客に手を振って拍手に応える。
これから幸せになる王太子夫婦は、希望に満ちた顔をしていてー…。
「…、っん?」
「起きた?おはよう」
太腿を這い回る硬い皮膚の指を、フランシールは無意識に自分の手を重ねて止める。
「式が大変だったから、昨夜はあまり無理はさせてないと思うけど。大丈夫?」
スレッドに抱えられて目覚める朝は初めてではないけれど、濃厚な夜を越えたのは初めての事だった。
フランシールは昨日、スレッドと夫婦になった。
この国に来て、スレッドの婚約者になって一週間も経っていないのに。
本来、貴族の婚姻がこんなに早く行えるはずがないのだが。
『フランシールは書面上、四年前に養女になってるし、同じタイミングで俺の婚約者になってるから。婚約期間に問題ないんだよ』
予告なしに当日、花嫁衣装を着せ飾られたフランシールにスレッドが笑って告げた。
『サイズもデザインもぴったりだね。俺の目もなかなか』
文句の一つでもと口を開けたフランシールは、
『綺麗だよ』
の一言で、俯き沈黙した。
フランシール以上に、島国に到着するなり式場に連行された侯爵…いや元侯爵のフランシールの両親も、突然の娘の結婚式にあっけにとられていたけれど。
最終的には、フランシールを受け入れてくれた伯爵夫人に
感謝して、目を潤ませて祝福してくれた。
「昨日の結婚式のせいかな。あの王太子殿下と伯爵令嬢の結婚式の夢を見ちゃった」
「ふぅん」
興味なさげなスレッドは、フランシールの手を乗せたまま無骨な手を再び太腿に這わせる。
フランシールは彼の手が好きだ。
貴族らしくない細かな傷の跡を残し、皮も厚くなったその手は、フランシールを救う為に仕掛けを施したせい。
「伝え忘れていたけれど…選択次第では、あの伯爵令嬢とこの国の王族が恋に落ちる未来もあったみたい」
先ほどの、夢の男性を見て気づいた。
王太子の花嫁に対し、秘めた恋する他国の王族。
フランシール断罪後に出会いがあったように思うが、その記憶は曖昧だった。
スレッドの手がピタリと止まる。
「この国の王族にスレッドと同じ年頃で、似た髪色の方って居られる?」
「…俺のよりも暗い色の方ならいるかな。この国の貴族では珍しくない色だからね」
「そっか。スレイ…んー名前なんだったかなぁ。思い出せない」
悩むフランシールの隙を突いて、スレッドは彼女の弱点に触れる。
甘い息を漏らすフランシールに被さり、彼女の頭の中を占領するものを追い払う。
「寝台で他の男の話はしないように」
「!そんなんじゃ…っ!ちょっと、もう朝なのにっ!待って、ってば…」
意図的に逸らされた話題だとはフランシールは知る由もない。
荘厳な聖堂で、王太子は花嫁に微笑んだ。
「…はい」
周囲からは拍手が上がる。
王家に仕える重臣が並ぶ中に、フランシールの父親、侯爵の姿もあり、そしてその横に正装した高貴な男性。
(スレッド…?)
片肩に掛けられた短い外套の留め具に施されているのは島国の王家の紋章。
あれと思う間もなく面が変わり、今日ここに認められた新たな夫婦の姿が現れた。
王太子は王太子妃と招待客に手を振って拍手に応える。
これから幸せになる王太子夫婦は、希望に満ちた顔をしていてー…。
「…、っん?」
「起きた?おはよう」
太腿を這い回る硬い皮膚の指を、フランシールは無意識に自分の手を重ねて止める。
「式が大変だったから、昨夜はあまり無理はさせてないと思うけど。大丈夫?」
スレッドに抱えられて目覚める朝は初めてではないけれど、濃厚な夜を越えたのは初めての事だった。
フランシールは昨日、スレッドと夫婦になった。
この国に来て、スレッドの婚約者になって一週間も経っていないのに。
本来、貴族の婚姻がこんなに早く行えるはずがないのだが。
『フランシールは書面上、四年前に養女になってるし、同じタイミングで俺の婚約者になってるから。婚約期間に問題ないんだよ』
予告なしに当日、花嫁衣装を着せ飾られたフランシールにスレッドが笑って告げた。
『サイズもデザインもぴったりだね。俺の目もなかなか』
文句の一つでもと口を開けたフランシールは、
『綺麗だよ』
の一言で、俯き沈黙した。
フランシール以上に、島国に到着するなり式場に連行された侯爵…いや元侯爵のフランシールの両親も、突然の娘の結婚式にあっけにとられていたけれど。
最終的には、フランシールを受け入れてくれた伯爵夫人に
感謝して、目を潤ませて祝福してくれた。
「昨日の結婚式のせいかな。あの王太子殿下と伯爵令嬢の結婚式の夢を見ちゃった」
「ふぅん」
興味なさげなスレッドは、フランシールの手を乗せたまま無骨な手を再び太腿に這わせる。
フランシールは彼の手が好きだ。
貴族らしくない細かな傷の跡を残し、皮も厚くなったその手は、フランシールを救う為に仕掛けを施したせい。
「伝え忘れていたけれど…選択次第では、あの伯爵令嬢とこの国の王族が恋に落ちる未来もあったみたい」
先ほどの、夢の男性を見て気づいた。
王太子の花嫁に対し、秘めた恋する他国の王族。
フランシール断罪後に出会いがあったように思うが、その記憶は曖昧だった。
スレッドの手がピタリと止まる。
「この国の王族にスレッドと同じ年頃で、似た髪色の方って居られる?」
「…俺のよりも暗い色の方ならいるかな。この国の貴族では珍しくない色だからね」
「そっか。スレイ…んー名前なんだったかなぁ。思い出せない」
悩むフランシールの隙を突いて、スレッドは彼女の弱点に触れる。
甘い息を漏らすフランシールに被さり、彼女の頭の中を占領するものを追い払う。
「寝台で他の男の話はしないように」
「!そんなんじゃ…っ!ちょっと、もう朝なのにっ!待って、ってば…」
意図的に逸らされた話題だとはフランシールは知る由もない。
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