婚約破棄された彼女は元婚約者の側近に求婚する

基本二度寝

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「『貴女を愛するつもりはない』なんて言うからややこしいのよ」

啼かされすぎて、掠れ声になっているエレアーナは不貞腐れていた。

休戦中の今しか、エレアーナに口撃の機会はない。
イグナーツはエレアーナの髪の毛先をくるくると弄んでいる。

「それに関しては、語弊があるかと」
「なによ」

「私が見合いした令嬢に発したのは『過分な愛情を求めるな』と。熱烈なご令嬢に向けられた愛情と同等のものを求められても返せないからです」

「…なるほど」

令嬢方はそれを「愛するつもりはない」と理解したのか。
まぁ…イグナーツの言葉でそれを理解しろというのも気の毒ではある。

「ですが、…私は貴女にはそれを発した覚えはありません」
「…?」

と、貴女からは言われましたが、私は貴女には告げていない」

近距離にある男が艶めいて微笑んでいる。

「エレアーナの気持ちが殿下に向いていてもかまいません。ですが、私は貴女に好意を抱いていました。


「…は、?」

イグナーツの言葉にエレアーナの思考は止まる。

「これは結婚です。互いに誰に想いを向けていたとしても関係ありません。
貴女がどれだけ殿下へ想いがあっても、エレアーナを抱けるのは夫の私だけですから」

普段は至極真面目な男が、悪い顔をしてエレアーナを、その腕の中に閉じ込める。

熱い。
この男の何処が氷の貴公子だ。
情熱が強すぎて此方が火傷しそうになる。

王太子殿下を愛していたエレアーナは、誰かに愛情を向けられることに慣れていない。
だから、容易く彼の熱で身体も心も溶かされてしまう。

「エレアーナ、愛しています」


「イグナーツは言葉足らずだ」とエレアーナが伝えたせいか、彼は言葉を惜しまなくなった。

何度も「愛している」とエレアーナに囁く。
腕の中にいる時も。
穿たれ揺さぶられている時も。


エレアーナは愛しの王太子の事を思い出さなくなっていった。

イグナーツが話題に上げたときだけ、その存在を思い出すだけで、この屋敷に嫁いでからは以前のように殿下を想い焦がれることは無い。


今日はどうやってイグナーツを躱すか。
絆されるなと、葛藤する日々を送る。

新婚だということでしばらくは毎日帰ってきていた彼が、城から戻らない日が続いた。

初めこそ、邪魔がなくようやく一人で眠れると喜んでいたが、三日を過ぎれば不安になる。

イグナーツは眠れているのか、無理をしていないか。食事は取れているのかと。

悩んだ末、イグナーツが帰って来なくなって五日目に、手紙を城へ送った。

返事はなかったが、その夜にはようやく五日ぶりの夫が戻ってきた。

戻るとは思いもせず、夜着に上着を引っ掛けた状態で迎え出ると、イグナーツの腕の中に囲われた。

「戻りました」
「お、おかえりなさいませ」

「寂しかったですか」
「さ、寂しくはなかったです」

「その上着…私のものですが」
「あの、これは。咄嗟にとったもので…」

「そうですか。私の部屋で休んでいたんですね。そのまま寝ていてもよかったのに」

失敗した。
イグナーツが戻ってきたと侍女から聞いて、慌てて部屋を飛び出したのだ。
イグナーツの上着が、エレアーナの寝室に置いてあるはずがない。

「いや、あのそれは」
「ああ、聞いていますよ、家令から。一昨日から私の部屋の寝台で眠るようになったと。
寂しかったですか?」

再び問われ、ぐっとエレアーナは答えに詰まった。
まさか、報告されているなんて思いもしなかった。
家令にも使用人にも口止めすべきだったと、今更ながらに思う。

「…」
「私は寂しかったです。エレアーナを腕に抱けずに一人寝しなければならなかったことが」

「…」
「…今夜は上着を抱きしめて一人で慰める事はなさらなくても良いですよ。私が慰めます」

「っな!んぐ」

そんなことしていないとの反論は唇で塞がれた。

たとえ塞がれなくても、彼には筒抜けなのだろう。
寝台を整える侍女が、主に其れを報告していたのならば。


…しかたないではないか。
イグナーツが、エレアーナの身体をそのようにしたのだから。
婚姻からしばらくは毎日イグナーツの熱を受け続けていた。

それが急に無くなったから…。

イグナーツは真っ赤になって黙り込む妻を抱き上げると、そのまま自室に連れて行く。


エレアーナはこの男からの愛情を、この後も受け続けることになる。
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