5 / 7
五
しおりを挟む
「『貴女を愛するつもりはない』なんて言うからややこしいのよ」
啼かされすぎて、掠れ声になっているエレアーナは不貞腐れていた。
休戦中の今しか、エレアーナに口撃の機会はない。
イグナーツはエレアーナの髪の毛先をくるくると弄んでいる。
「それに関しては、語弊があるかと」
「なによ」
「私が見合いした令嬢に発したのは『過分な愛情を求めるな』と。熱烈なご令嬢に向けられた愛情と同等のものを求められても返せないからです」
「…なるほど」
令嬢方はそれを「愛するつもりはない」と理解したのか。
まぁ…イグナーツの言葉でそれを理解しろというのも気の毒ではある。
「ですが、…私は貴女にはそれを発した覚えはありません」
「…?」
「貴方を愛するつもりはないと、貴女からは言われましたが、私は貴女には告げていない」
近距離にある男が艶めいて微笑んでいる。
「エレアーナの気持ちが殿下に向いていてもかまいません。ですが、私は貴女に好意を抱いていました。
貴女からの求婚は、私にも都合が良かった」
「…は、?」
イグナーツの言葉にエレアーナの思考は止まる。
「これは政略結婚です。互いに誰に想いを向けていたとしても関係ありません。
貴女がどれだけ殿下へ想いがあっても、エレアーナを抱けるのは夫の私だけですから」
普段は至極真面目な男が、悪い顔をしてエレアーナを、その腕の中に閉じ込める。
熱い。
この男の何処が氷の貴公子だ。
情熱が強すぎて此方が火傷しそうになる。
王太子殿下を愛していたエレアーナは、誰かに愛情を向けられることに慣れていない。
だから、容易く彼の熱で身体も心も溶かされてしまう。
「エレアーナ、愛しています」
「イグナーツは言葉足らずだ」とエレアーナが伝えたせいか、彼は言葉を惜しまなくなった。
何度も「愛している」とエレアーナに囁く。
腕の中にいる時も。
穿たれ揺さぶられている時も。
エレアーナは愛しの王太子の事を思い出さなくなっていった。
イグナーツが話題に上げたときだけ、その存在を思い出すだけで、この屋敷に嫁いでからは以前のように殿下を想い焦がれることは無い。
今日はどうやってイグナーツを躱すか。
絆されるなと、葛藤する日々を送る。
新婚だということでしばらくは毎日帰ってきていた彼が、城から戻らない日が続いた。
初めこそ、邪魔がなくようやく一人で眠れると喜んでいたが、三日を過ぎれば不安になる。
イグナーツは眠れているのか、無理をしていないか。食事は取れているのかと。
悩んだ末、イグナーツが帰って来なくなって五日目に、手紙を城へ送った。
返事はなかったが、その夜にはようやく五日ぶりの夫が戻ってきた。
戻るとは思いもせず、夜着に上着を引っ掛けた状態で迎え出ると、イグナーツの腕の中に囲われた。
「戻りました」
「お、おかえりなさいませ」
「寂しかったですか」
「さ、寂しくはなかったです」
「その上着…私のものですが」
「あの、これは。咄嗟にとったもので…」
「そうですか。私の部屋で休んでいたんですね。そのまま寝ていてもよかったのに」
失敗した。
イグナーツが戻ってきたと侍女から聞いて、慌てて部屋を飛び出したのだ。
イグナーツの上着が、エレアーナの寝室に置いてあるはずがない。
「いや、あのそれは」
「ああ、聞いていますよ、家令から。一昨日から私の部屋の寝台で眠るようになったと。
寂しかったですか?」
再び問われ、ぐっとエレアーナは答えに詰まった。
まさか、報告されているなんて思いもしなかった。
家令にも使用人にも口止めすべきだったと、今更ながらに思う。
「…」
「私は寂しかったです。エレアーナを腕に抱けずに一人寝しなければならなかったことが」
「…」
「…今夜は上着を抱きしめて一人で慰める事はなさらなくても良いですよ。私が慰めます」
「っな!んぐ」
そんなことしていないとの反論は唇で塞がれた。
たとえ塞がれなくても、彼には筒抜けなのだろう。
寝台を整える侍女が、主に其れを報告していたのならば。
…しかたないではないか。
イグナーツが、エレアーナの身体をそのようにしたのだから。
婚姻からしばらくは毎日イグナーツの熱を受け続けていた。
それが急に無くなったから…。
イグナーツは真っ赤になって黙り込む妻を抱き上げると、そのまま自室に連れて行く。
エレアーナはこの男からの愛情を、この後も受け続けることになる。
啼かされすぎて、掠れ声になっているエレアーナは不貞腐れていた。
休戦中の今しか、エレアーナに口撃の機会はない。
イグナーツはエレアーナの髪の毛先をくるくると弄んでいる。
「それに関しては、語弊があるかと」
「なによ」
「私が見合いした令嬢に発したのは『過分な愛情を求めるな』と。熱烈なご令嬢に向けられた愛情と同等のものを求められても返せないからです」
「…なるほど」
令嬢方はそれを「愛するつもりはない」と理解したのか。
まぁ…イグナーツの言葉でそれを理解しろというのも気の毒ではある。
「ですが、…私は貴女にはそれを発した覚えはありません」
「…?」
「貴方を愛するつもりはないと、貴女からは言われましたが、私は貴女には告げていない」
近距離にある男が艶めいて微笑んでいる。
「エレアーナの気持ちが殿下に向いていてもかまいません。ですが、私は貴女に好意を抱いていました。
貴女からの求婚は、私にも都合が良かった」
「…は、?」
イグナーツの言葉にエレアーナの思考は止まる。
「これは政略結婚です。互いに誰に想いを向けていたとしても関係ありません。
貴女がどれだけ殿下へ想いがあっても、エレアーナを抱けるのは夫の私だけですから」
普段は至極真面目な男が、悪い顔をしてエレアーナを、その腕の中に閉じ込める。
熱い。
この男の何処が氷の貴公子だ。
情熱が強すぎて此方が火傷しそうになる。
王太子殿下を愛していたエレアーナは、誰かに愛情を向けられることに慣れていない。
だから、容易く彼の熱で身体も心も溶かされてしまう。
「エレアーナ、愛しています」
「イグナーツは言葉足らずだ」とエレアーナが伝えたせいか、彼は言葉を惜しまなくなった。
何度も「愛している」とエレアーナに囁く。
腕の中にいる時も。
穿たれ揺さぶられている時も。
エレアーナは愛しの王太子の事を思い出さなくなっていった。
イグナーツが話題に上げたときだけ、その存在を思い出すだけで、この屋敷に嫁いでからは以前のように殿下を想い焦がれることは無い。
今日はどうやってイグナーツを躱すか。
絆されるなと、葛藤する日々を送る。
新婚だということでしばらくは毎日帰ってきていた彼が、城から戻らない日が続いた。
初めこそ、邪魔がなくようやく一人で眠れると喜んでいたが、三日を過ぎれば不安になる。
イグナーツは眠れているのか、無理をしていないか。食事は取れているのかと。
悩んだ末、イグナーツが帰って来なくなって五日目に、手紙を城へ送った。
返事はなかったが、その夜にはようやく五日ぶりの夫が戻ってきた。
戻るとは思いもせず、夜着に上着を引っ掛けた状態で迎え出ると、イグナーツの腕の中に囲われた。
「戻りました」
「お、おかえりなさいませ」
「寂しかったですか」
「さ、寂しくはなかったです」
「その上着…私のものですが」
「あの、これは。咄嗟にとったもので…」
「そうですか。私の部屋で休んでいたんですね。そのまま寝ていてもよかったのに」
失敗した。
イグナーツが戻ってきたと侍女から聞いて、慌てて部屋を飛び出したのだ。
イグナーツの上着が、エレアーナの寝室に置いてあるはずがない。
「いや、あのそれは」
「ああ、聞いていますよ、家令から。一昨日から私の部屋の寝台で眠るようになったと。
寂しかったですか?」
再び問われ、ぐっとエレアーナは答えに詰まった。
まさか、報告されているなんて思いもしなかった。
家令にも使用人にも口止めすべきだったと、今更ながらに思う。
「…」
「私は寂しかったです。エレアーナを腕に抱けずに一人寝しなければならなかったことが」
「…」
「…今夜は上着を抱きしめて一人で慰める事はなさらなくても良いですよ。私が慰めます」
「っな!んぐ」
そんなことしていないとの反論は唇で塞がれた。
たとえ塞がれなくても、彼には筒抜けなのだろう。
寝台を整える侍女が、主に其れを報告していたのならば。
…しかたないではないか。
イグナーツが、エレアーナの身体をそのようにしたのだから。
婚姻からしばらくは毎日イグナーツの熱を受け続けていた。
それが急に無くなったから…。
イグナーツは真っ赤になって黙り込む妻を抱き上げると、そのまま自室に連れて行く。
エレアーナはこの男からの愛情を、この後も受け続けることになる。
496
あなたにおすすめの小説
私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ?
青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。
チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。
しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは……
これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で
す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦)
それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる