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五 後日談

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ガスティンは眠るシュナンゼの寝台の側で膝をついていた。

殿下の冤罪作りには疑問はあった。
しかし、止めなかったのはガスティン自身だ。

ーシュナンゼは王太子妃には向いていないー

殿下がそう言うのなら反論などない。

シュナンゼを内偵しても、婚約を破棄できる材料などなかった。
むしろ、評価が高かった。

どんなに調べてもシュナンゼには瑕疵がない。

痺れを切らした殿下が、罪を用意すると言い出し、あのような断罪劇となった。




「んー…」
「シュナンゼ様。朝です、起きてください」
「やー」
「シュナンゼ様」

家令のニドからお嬢様を起こすようにと言われたガスティンだが、本人はいやいやと子供のようにぐずっていた。

「きすしてくれないとおきません」
「シュナンゼ様」
「やー」

淑女の鏡といわれた貴女きじょが完全なる駄々っ子になってしまった。

『あいつは隙もなければ可愛げもない』

以前の主は男爵令嬢と比べ、そう評価していた。

「がすてぃん…?」

反応がなくなって不安に駆られたのか、新しい主は布団からひょこりと顔を出す。

(隙だらけで可愛げしかない)

現れた主の額にキスを落とすと、驚いているシュナンゼから布団を剥いだ。

「ああぁぁあ!卑怯ー!」
「起きましたね。では朝食を」
「だっこ」

「…はい?」

「食堂までだっこしてつれてって」

頬を膨らませて、こちらに両手を広げる。

「ガスティンのせいで歩けないの。だから」

そう言われたらガスティンも強くは言えない。
だけれど…

「…シュナンゼ様がまだ足りないと」

ぽすんとダメージゼロのパンチが腹部に入る。
ジト目で無言の反撃。

ガスティンは逆らわずに、主を抱き上げた。

そういえば、あの男爵令嬢も王太子殿下に同じように甘えていた。
だらしない顔をした殿下は嬉しそうに応えていた。

もし、シュナンゼが殿下にこのような甘え方をしていたらこんな未来はなかったのかもしれない。

「何考えてるの」

腕の中から頬をつねられた。

「我が主のことを」
「嘘つき」

嘘ではないのだけれど。


食堂まで主を運べば、朝食の用意をしていたニドもメイド達も驚愕の顔をした。

「お、お嬢様が起きたぁ!!!」
「ガスティン!よくやった!!」

何故か頭を抱えるメイドに、泣き真似をするニド。

シュナンゼの屋敷での立ち位置を少し垣間見た。

「失礼ね。いつも起きてるじゃない」
「予定がなければ昼頃まで起きてこないじゃないですか」

シュナンゼは聞こえないとばかりに耳をふさいだ。

ここでは殿下に従っていたときと違い、従者同士の足の引っ張り合いはない。
罪人で平民で新参者。
にもかかわらず、皆ガスティンを認めてくれている。


何故か当たり前のように、ガスティンの膝に座って彼に差し出されるものをシュナンゼが咀嚼する。

主を餌付けしている従者。
これでいいのかと不安になるが、心を許されているようで悪い気はしない。

ニドもメイドも「お嬢様が、素直にご飯を食べているっ…!さすがガスティン」と感動していた。

ガスティンの中でシュナンゼのイメージが完全に塗り替えられていた。




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