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四
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「…なに?失う?なぜだ」
「わかりません。わかりませんが以前とは聖力の質が全然違って…」
「ああ、やはり変わっているのですね?自分ではよくわからなくて」
カリネアは無意識に自分の左腿を擦っている。
「カリネア様…この一週間で、一体何があったというのですか…?」
「えっ?特に何も…。私に主が出来たくらいです」
悲観する神官は原因を探そうとしている。
改善点があれば、また神々しい力に戻るのではと考えていた。
「主は神で…!」
「君は黙っていなさい。主とは、先程食事処でカリネア様を助けたという殿方ですよね?どうしてその者がカリネア様の主になりえたのですか」
神官は絶望する同僚を黙らせた。
王太子も口を挟まずに、成り行きを見ている。
「彼に所有紋を刻まれたので」
カリネアは恥ずかしげもなくまた、スカートの裾を掴んでたくし上げた。
左の太腿の上部に、掌ほどの禍々しい入れ墨が施されていた。
「っそれはっ!」
「なん、だその、破廉恥なっ」
王太子は片手で片顔を覆うが、もう一方の目でしっかりとそれを確認している。
「…淫紋」
「まさかっ!」
神官も、ミリャーナすら叫んだ。
意味がわからず置いてけぼりなのは王太子だけだ。
「な、なんだ。その淫紋とは」
「…己の所有物にする為の隷属魔法です。国によっては違法としている程危険なもので…この国では被害がないため法整備はされていませんが…」
「隷属魔法。それは便利そうな魔法だな」
そのような便利なものがあったのかと、ふぅんと王太子の反応は軽い。
その軽さが神官のしゃくにさわった。
事は重大だというのに。
「元々は遠征に発つ兵士が妻の貞操を守る為に作られた物だったのですが、時代は代わり今は別の使い方をされているのです」
「それは…?」
「性玩具」
「…なに?」
「所有者の性欲処理の道具にするために刻まれます」
先程から、嘆いていた神官は床に頭を打ちつけながら、主への謝罪を繰り返している。
「淫紋を施す際に、体内に主となる者の体液を流し込み交わる必要がありますから。カリネア様は、もう…無垢ではありません」
神官の言葉にカリネアは、ニコリと笑う。
「主は私に快楽というものを教えてくれました」
恥じ入ることもなく平然とカリネアは語る。
食事処で不足金を払った男は、下着姿のカリネアを自身の滞在する宿に連れ込んだ。
男は、金を立て替えた対価として奉仕を命じ、カリネアはそれを受け入れた。
身体を交じり合わせたそのついでに淫紋を刻まれたのだった。
「なん、ということを…」
たった七日。
産まれてから十数年、教会が守りつづけた純白な聖女。
真っ白だった絵の具に一滴の黒が混ざり、純白は白でなくなった。大量の白の中でも、一滴の黒で簡単に染まってしまうように。
「何故ですか。殿下。何故彼女に護衛がつけられていなかったのですか」
ミリャーナは王太子に冷たい目を向けた。
聖女の婚約者だった王太子が衣食住を提供したというのだから、彼女は誰かに守られて過ごしているものだと思った。
今まで厳重に神官達が彼女を守っていたことを、王太子は知っているはずだったから。
彼女は守らねばならぬ存在だと当然認識していただろうと。
カリネアを市井のどこかに囲い込み、必要な時だけ呼びつけるのだと、ミリャーナはそう思っていた。
「わかりません。わかりませんが以前とは聖力の質が全然違って…」
「ああ、やはり変わっているのですね?自分ではよくわからなくて」
カリネアは無意識に自分の左腿を擦っている。
「カリネア様…この一週間で、一体何があったというのですか…?」
「えっ?特に何も…。私に主が出来たくらいです」
悲観する神官は原因を探そうとしている。
改善点があれば、また神々しい力に戻るのではと考えていた。
「主は神で…!」
「君は黙っていなさい。主とは、先程食事処でカリネア様を助けたという殿方ですよね?どうしてその者がカリネア様の主になりえたのですか」
神官は絶望する同僚を黙らせた。
王太子も口を挟まずに、成り行きを見ている。
「彼に所有紋を刻まれたので」
カリネアは恥ずかしげもなくまた、スカートの裾を掴んでたくし上げた。
左の太腿の上部に、掌ほどの禍々しい入れ墨が施されていた。
「っそれはっ!」
「なん、だその、破廉恥なっ」
王太子は片手で片顔を覆うが、もう一方の目でしっかりとそれを確認している。
「…淫紋」
「まさかっ!」
神官も、ミリャーナすら叫んだ。
意味がわからず置いてけぼりなのは王太子だけだ。
「な、なんだ。その淫紋とは」
「…己の所有物にする為の隷属魔法です。国によっては違法としている程危険なもので…この国では被害がないため法整備はされていませんが…」
「隷属魔法。それは便利そうな魔法だな」
そのような便利なものがあったのかと、ふぅんと王太子の反応は軽い。
その軽さが神官のしゃくにさわった。
事は重大だというのに。
「元々は遠征に発つ兵士が妻の貞操を守る為に作られた物だったのですが、時代は代わり今は別の使い方をされているのです」
「それは…?」
「性玩具」
「…なに?」
「所有者の性欲処理の道具にするために刻まれます」
先程から、嘆いていた神官は床に頭を打ちつけながら、主への謝罪を繰り返している。
「淫紋を施す際に、体内に主となる者の体液を流し込み交わる必要がありますから。カリネア様は、もう…無垢ではありません」
神官の言葉にカリネアは、ニコリと笑う。
「主は私に快楽というものを教えてくれました」
恥じ入ることもなく平然とカリネアは語る。
食事処で不足金を払った男は、下着姿のカリネアを自身の滞在する宿に連れ込んだ。
男は、金を立て替えた対価として奉仕を命じ、カリネアはそれを受け入れた。
身体を交じり合わせたそのついでに淫紋を刻まれたのだった。
「なん、ということを…」
たった七日。
産まれてから十数年、教会が守りつづけた純白な聖女。
真っ白だった絵の具に一滴の黒が混ざり、純白は白でなくなった。大量の白の中でも、一滴の黒で簡単に染まってしまうように。
「何故ですか。殿下。何故彼女に護衛がつけられていなかったのですか」
ミリャーナは王太子に冷たい目を向けた。
聖女の婚約者だった王太子が衣食住を提供したというのだから、彼女は誰かに守られて過ごしているものだと思った。
今まで厳重に神官達が彼女を守っていたことを、王太子は知っているはずだったから。
彼女は守らねばならぬ存在だと当然認識していただろうと。
カリネアを市井のどこかに囲い込み、必要な時だけ呼びつけるのだと、ミリャーナはそう思っていた。
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