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五
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聖女カリネアは、王都の教会と王城の聖堂を往復するだけの生活を強いられていた。
カリネアの持つ、真っ白で純真な聖力は俗世の穢れを厭い、移動の度、彼女を囲うように神官が隊列を組むほどだった。
彼らが、周辺を浄化させながら動かねばカリネアの聖力は容易く他の色に染まる。
産まれてすぐ、親元から離され教会の浄化された区域で育ったカリネアの穢れの抵抗力の低さは、そんな過剰な保護環境のせいだったのかもしれない。
それとは違いミリャーナは今も親元で節制なく過ごし、教会に通っていた。彼女には教会の厳しい規律に塗れた生活が合わなかった。
実家の貴族の力を使い、教会には入らず通いでの信仰を認めさせた。
十歳を過ぎてから聖女の素質を見出され、それ迄も今も俗世で過ごしていたミリャーナには俗世の穢れへの耐性があった。
カリネアほど純真ではないが、間違いなく聖力を持っていた。
ミリャーナの厳しい目に、王太子はたじろいだ。
彼女は普段王太子とともにカリネアを貶していた。
無菌培養とカリネアを茶化し、聖力もただ白くて膨大なだけ、と聖女をこき下ろす。
神官をぞろぞろ連れて歩く聖女を皮肉り、人件費の無駄、だと吐き捨てていたのに。
そんなミリャーナがカリネアを擁護するような発言をしたので王太子は戸惑っていた。
「っ全て、側近に任せていた。だから、」
私のせいではない。
「側近を、私の側近を呼べ!」
聖堂の入り口に立っていた警備兵のうちの一人が王太子の命令に走っていく。
「カリネア…様。失礼ながら…その主との交わりはどれくらいの頻度で」
まずは、カリネアとその主なる者とを引き離すことは前提だが、どれ程の穢れを体内に許したのか。
浄化にどれ程の時間を要するのか。
情報が少しでも欲しかった。
結界の崩壊までに回復は見込めるのかと。
「主と出会ってからはずっと。ここに来る直前まで」
カリネアの歩き方が覚束なかったのはそのせいだった。
神官は苦いものを食べたような顔をする。
「その男に淫紋の解除を命じさせましょう」
「え?所有紋は消しませんよ。私は主から離れるつもりはありません。たとえ主が私から離れたくとも。
双方の意志が一致しなければ、所有紋は刻めませんし、消せませんので」
「カリネア様!貴方はこの国と国民の幸福を祈る為に産まれてきたのですよ!」
「ですが、誰も私の幸せは祈ってくれないでしょう?」
カリネアの反論に神官は言葉に詰まった。
神官自身もカリネアの幸福など露ほども考えたことなどない。
「主は私を幸せにしてくれるのです」
カリネアは嬉しそうに笑う。
聖女と言われ、作ったような笑い方しかしらなかった聖女が。
「呼ばれ参上しました。一体なんの御用で」
丁度、先程王太子が呼んだ彼の側近が聖堂の入り口から現れた。
目の下は黒く、顔色は悪い。
げっそりと痩せた側近に、王太子はいつの間にこれほどまでに窶れたのだと、驚いた。
「聖女の…いや元聖女カリネアの護衛についてだ」
「…はい?」
側近は歩を進め、目の前のカリネアに気づいた。
「これはこれは、カリネア様。聖女がまるで娼婦のような格好をされて。私の用意した衣服はお気に召しませんでしたか?まぁ…いいです。丁度よいので本日分の食費をどうぞ」
側近は懐から一枚の銅貨を、カリネアに差し出す。
カリネアは手を広げてそれを受け取り、手の中の銅貨は二枚になった。
「…おや。昨日は食事をされなかったのですか?」
「いえ。主と美味しい食事を頂きました」
「まさか元聖女が物乞いをされているのですか?嘆かわしい」
「おいっ、お前!」
側近のカリネアへの態度に王太子は声を上げた。
元とはいえ聖女、彼女の結界で守られている国民は敬うべき対象だと、王太子は一応理解している。
だから婚約破棄も内々で話をつけたし、彼女の陰口もミリャーナだけに、密室でしか言ったことはない。
このように人前で本人に向かって貶める行為など、ありえないのだ。
カリネアの持つ、真っ白で純真な聖力は俗世の穢れを厭い、移動の度、彼女を囲うように神官が隊列を組むほどだった。
彼らが、周辺を浄化させながら動かねばカリネアの聖力は容易く他の色に染まる。
産まれてすぐ、親元から離され教会の浄化された区域で育ったカリネアの穢れの抵抗力の低さは、そんな過剰な保護環境のせいだったのかもしれない。
それとは違いミリャーナは今も親元で節制なく過ごし、教会に通っていた。彼女には教会の厳しい規律に塗れた生活が合わなかった。
実家の貴族の力を使い、教会には入らず通いでの信仰を認めさせた。
十歳を過ぎてから聖女の素質を見出され、それ迄も今も俗世で過ごしていたミリャーナには俗世の穢れへの耐性があった。
カリネアほど純真ではないが、間違いなく聖力を持っていた。
ミリャーナの厳しい目に、王太子はたじろいだ。
彼女は普段王太子とともにカリネアを貶していた。
無菌培養とカリネアを茶化し、聖力もただ白くて膨大なだけ、と聖女をこき下ろす。
神官をぞろぞろ連れて歩く聖女を皮肉り、人件費の無駄、だと吐き捨てていたのに。
そんなミリャーナがカリネアを擁護するような発言をしたので王太子は戸惑っていた。
「っ全て、側近に任せていた。だから、」
私のせいではない。
「側近を、私の側近を呼べ!」
聖堂の入り口に立っていた警備兵のうちの一人が王太子の命令に走っていく。
「カリネア…様。失礼ながら…その主との交わりはどれくらいの頻度で」
まずは、カリネアとその主なる者とを引き離すことは前提だが、どれ程の穢れを体内に許したのか。
浄化にどれ程の時間を要するのか。
情報が少しでも欲しかった。
結界の崩壊までに回復は見込めるのかと。
「主と出会ってからはずっと。ここに来る直前まで」
カリネアの歩き方が覚束なかったのはそのせいだった。
神官は苦いものを食べたような顔をする。
「その男に淫紋の解除を命じさせましょう」
「え?所有紋は消しませんよ。私は主から離れるつもりはありません。たとえ主が私から離れたくとも。
双方の意志が一致しなければ、所有紋は刻めませんし、消せませんので」
「カリネア様!貴方はこの国と国民の幸福を祈る為に産まれてきたのですよ!」
「ですが、誰も私の幸せは祈ってくれないでしょう?」
カリネアの反論に神官は言葉に詰まった。
神官自身もカリネアの幸福など露ほども考えたことなどない。
「主は私を幸せにしてくれるのです」
カリネアは嬉しそうに笑う。
聖女と言われ、作ったような笑い方しかしらなかった聖女が。
「呼ばれ参上しました。一体なんの御用で」
丁度、先程王太子が呼んだ彼の側近が聖堂の入り口から現れた。
目の下は黒く、顔色は悪い。
げっそりと痩せた側近に、王太子はいつの間にこれほどまでに窶れたのだと、驚いた。
「聖女の…いや元聖女カリネアの護衛についてだ」
「…はい?」
側近は歩を進め、目の前のカリネアに気づいた。
「これはこれは、カリネア様。聖女がまるで娼婦のような格好をされて。私の用意した衣服はお気に召しませんでしたか?まぁ…いいです。丁度よいので本日分の食費をどうぞ」
側近は懐から一枚の銅貨を、カリネアに差し出す。
カリネアは手を広げてそれを受け取り、手の中の銅貨は二枚になった。
「…おや。昨日は食事をされなかったのですか?」
「いえ。主と美味しい食事を頂きました」
「まさか元聖女が物乞いをされているのですか?嘆かわしい」
「おいっ、お前!」
側近のカリネアへの態度に王太子は声を上げた。
元とはいえ聖女、彼女の結界で守られている国民は敬うべき対象だと、王太子は一応理解している。
だから婚約破棄も内々で話をつけたし、彼女の陰口もミリャーナだけに、密室でしか言ったことはない。
このように人前で本人に向かって貶める行為など、ありえないのだ。
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