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七
「ジルグ、ここはスペルミスです」
「あー…」
「少しお休みになられては?」
エンフィアはジルグレイアを気遣った。
赤い目をした皇帝は、隣に腰掛けるエンフィアを見下ろす。
何か言いたげだが、口を開く事はない。
彼の側に居るようになって、三月経過した。
ジルグレイアは陛下と呼ばれる事も敬称も嫌い、彼の愛称で呼ぶように命じられた。
初めこそ不敬だと断っていたが、意外に執拗い皇帝にエンフィアが折れた。
次に、常に側に居るようにと言われ、皇帝の仕事の手伝いをするようにもなった。
王国語の単語表記の間違いを見つけたのが始まりだった。
ジルグレイアは多国語を話すことには不自由していないが、書くのは苦手らしい。
本来ならば側近のウェルズが補助しているはずだが、今は側にはいない。
エンフィアを勝手に連れ出し、罪人たちに面通しさせたことや、エンフィアに対する嫌がらせがジルグレイアの信用を失わせた。
「それは、添い寝の誘いか?」
たっぷり時間をかけた後、ジルグレイアはエンフィアの腰に腕を回す。
「ち、がいます!」
三ヶ月前とは違う。
ジルグレイアはこうやってエンフィアを狼狽えさせる。
「俺の安眠を願うなら、腕の中に居てもらわねば」
ジルグレイアの加護は意識がある時は、部屋全体を囲うほどの範囲でも、睡眠や意識が無い状態ではベッドの大きさまで狭まるらしい。
初めこそ、ベッドの端と端で眠っていたはずなのに、この頃はエンフィアはジルグレイアの抱き枕になっていた。
収まり具合が丁度いい、らしい。
ジルグレイアを躱す言葉を探していると、扉を叩く音がした。
「…まったく。懲りないな」
ジルグレイアは並べられた食事を咀嚼しながら、顔を顰めていた。
「またですか?」
「あぁ」
エンフィアは毎回申し訳なく思う。
二人の前に並べられた食事だが、用意した者が部屋から退出すると、食べる直前で毎回席を入れ替えている。
初めて出された食事の際、鼻の聞くジルグレイアが同様の事をした。
「毎回懲りずに同じ毒とは。学習能力も無い」
文句を言いながらも、ジルグレイアは料理を完食した。
「幼少期の毒の訓練を思えば、この程度風味付けのようなものだ」
自国の毒なのでジルグレイアには耐性があると言う。
毎回、死には至らない程度の微量の毒を混ぜているらしい。
完全な嫌がらせだと判断して、ジルグレイアはウェルズを側に寄せ付けなくなった。
「…やはり、私が頂いたほうが」
「何度も言わせるな。フィアに死なれたら困るのはこっちだ」
「私にも、少しは毒の耐性はあります」
「…駄目だ。譲れない」
ジルグレイアはエンフィアを愛称で呼ぶ。
本人は許した覚えはないが、止めさせる術もない。
彼に守られている立場としても意見はし難い。
公の場ではないから、と己に言い訳をして、その実ジルグレイアに愛称で呼ばれることは悪くないと思っている。
立場が変わり、両親も、親しい友人ももう呼んでくれなくなった愛称だったから。
「あー…」
「少しお休みになられては?」
エンフィアはジルグレイアを気遣った。
赤い目をした皇帝は、隣に腰掛けるエンフィアを見下ろす。
何か言いたげだが、口を開く事はない。
彼の側に居るようになって、三月経過した。
ジルグレイアは陛下と呼ばれる事も敬称も嫌い、彼の愛称で呼ぶように命じられた。
初めこそ不敬だと断っていたが、意外に執拗い皇帝にエンフィアが折れた。
次に、常に側に居るようにと言われ、皇帝の仕事の手伝いをするようにもなった。
王国語の単語表記の間違いを見つけたのが始まりだった。
ジルグレイアは多国語を話すことには不自由していないが、書くのは苦手らしい。
本来ならば側近のウェルズが補助しているはずだが、今は側にはいない。
エンフィアを勝手に連れ出し、罪人たちに面通しさせたことや、エンフィアに対する嫌がらせがジルグレイアの信用を失わせた。
「それは、添い寝の誘いか?」
たっぷり時間をかけた後、ジルグレイアはエンフィアの腰に腕を回す。
「ち、がいます!」
三ヶ月前とは違う。
ジルグレイアはこうやってエンフィアを狼狽えさせる。
「俺の安眠を願うなら、腕の中に居てもらわねば」
ジルグレイアの加護は意識がある時は、部屋全体を囲うほどの範囲でも、睡眠や意識が無い状態ではベッドの大きさまで狭まるらしい。
初めこそ、ベッドの端と端で眠っていたはずなのに、この頃はエンフィアはジルグレイアの抱き枕になっていた。
収まり具合が丁度いい、らしい。
ジルグレイアを躱す言葉を探していると、扉を叩く音がした。
「…まったく。懲りないな」
ジルグレイアは並べられた食事を咀嚼しながら、顔を顰めていた。
「またですか?」
「あぁ」
エンフィアは毎回申し訳なく思う。
二人の前に並べられた食事だが、用意した者が部屋から退出すると、食べる直前で毎回席を入れ替えている。
初めて出された食事の際、鼻の聞くジルグレイアが同様の事をした。
「毎回懲りずに同じ毒とは。学習能力も無い」
文句を言いながらも、ジルグレイアは料理を完食した。
「幼少期の毒の訓練を思えば、この程度風味付けのようなものだ」
自国の毒なのでジルグレイアには耐性があると言う。
毎回、死には至らない程度の微量の毒を混ぜているらしい。
完全な嫌がらせだと判断して、ジルグレイアはウェルズを側に寄せ付けなくなった。
「…やはり、私が頂いたほうが」
「何度も言わせるな。フィアに死なれたら困るのはこっちだ」
「私にも、少しは毒の耐性はあります」
「…駄目だ。譲れない」
ジルグレイアはエンフィアを愛称で呼ぶ。
本人は許した覚えはないが、止めさせる術もない。
彼に守られている立場としても意見はし難い。
公の場ではないから、と己に言い訳をして、その実ジルグレイアに愛称で呼ばれることは悪くないと思っている。
立場が変わり、両親も、親しい友人ももう呼んでくれなくなった愛称だったから。
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