王太子妃は人質として帝国に差し出された

基本二度寝

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「地下牢へ?」
「はい」

「何故?」
「確認したい事が。…けじめをつけたいのです」

エンフィアの突然の申し出にジルグレイアは、拒否を示した。

「危険な場所なので認められない」
「ジルグに取っても悪くない情報だと思います」

エンフィアがそっと握った手を開く。

「…これは、」
「王太子殿下より贈られた耳飾りの石です」

ジルグレイアは石とエンフィアの顔を見比べて、じっと何かを考えていた。
やがて、彼女の希望を聞き入れた。

「俺もついていく」
「はい。そのつもりでお願い致しました」
「側を離れるなよ」

帝国の王は人質に甘い。
本人にその自覚があるかはわからないし、何故かなんてエンフィアにはわからない。
こんなに甘やかされれば、つい甘えてしまうのは致し方ない。
今まで甘えを許されない環境だった反動なのかもしれない。



数ヶ月前に連れられてきた地下牢へ戻ってきた。

並ぶ格子の奥が気になる。
あの子供は、まだいるのだろうかと。
しかし、今回の目的はそれとは違う。

エンフィアの登場で地下の牢獄は喧しくなるが、ジルグレイアが威圧を見せれば彼らはピタリと口を噤む。

「おやぁ?アンタ前に見たな」

その牢に囚われている男が、エンフィアを隔てる格子に近づいてきた。

「…貴方は以前此れに覚えがあると、言っていましたよね」

以前来た際、卑猥な言葉をぶつけられる中、この男の野次は異質で耳に残った。

『おっ!アンタの付けてる耳の石は、俺が盗んできた石だぜ』

その時は、罪人の意味のない出任せだと思っていた。
最愛の夫が贈ってくれたものが盗品だなんて思いもしなかった。

エンフィアが手を広げて、鮮やかな色の原石を見せた。
掌に乗る大きさの石を見て、男は「おお!これこれ!」と興奮しはじめた。
ペラペラと、聞いてもいないのに、帝国のどの宝石店からどのように盗んだかまでを自慢気に話し出した。

「本当にこの石ですか?」
「間違いねぇよ!俺は前に宝石鑑定やってたんだからなー!あれ…?」

男はふと気づいた。

「なんで、原石なんだ?前ん時は耳飾りに加工されてあんたがつけていたはずで…」
「貴方のその証言が欲しかった」
「?」

エンフィアは後ろに控えていたジルグレイアを振り向き、「もう終わりました」と伝え、この場での目的を終えた。


二人はいつもの部屋に戻ってくると、原石と耳飾りをジルグレイアの机に置いた。

「一対の耳飾りの内、片方の石を復元しました」

「復元魔法、か」
「加工前の原石の状態まで戻せば、固体識別の印を確認できます。…ここに」

エンフィアは石の裏側を見せて示す。
たしかにそこには発掘場所や日時、発掘グループや輸送経路などを記録した印が刻まれている。

「盗品の目録との照会をお願いいたします」

「…王国はつくづくわからん」

ジルグレイアは呆然と呟いた。
エンフィアは自身で証明してしまったのだ。
母国の、夫も関わっているであろう犯罪を。
ジルグレイアが頭を抱えるのも無理はない。

だがその呆れは思っていた事と違った。

「復元魔法なんて対象物質の構造を理解する基礎化学も、元素を増減させる緻密な複製魔法技術も必要な高度な術だぞ…!?
どうしてただの王太子妃が扱えるんだ。
しかも、人質としてあっさり他国に渡すなんて…宝をみすみすくれてやるあの国が全く理解できない…」

「それは…」

伝えていないだけ。王太子妃としては必要のない技術だったから。
たとえ知られていたとしても魔法そのものに興味のない王太子がそれを重視したとも思えない。
それに、…自身も、能力も貴重だと思ったことはない。

「フィア。悪用される可能性もある魔法だ。このことは俺とフィアとの秘密に」

秘密を守るという儀式だと、ジルグレイアはエンフィアの手をとって自分の指と絡めた。

約束を守らなければ、一万回口付けなければならないという謎の童歌を口ずさみながら。


ーーー
※この話の世界の化学は魔法化学なので、地球上のものとは違います。
一般的な紙の原料は木ではありません。魔獣の分泌物から出来ています。そういうことです。

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