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二 番外 ノーロマン
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ノーロマンは実家に送り返された。
兄は鋭い目つきで弟を睨むと、請求書を投げて寄こした。
「なぜうちにこんなものが来る」
「それは…」
「払う義理はないぞ。お前はもう、うちの保護下にない」
「…」
父なら、ほいほいと払ってくれただろう。
今までのように。
「請求書は伯爵家に送り返す。お前はなんでここに返された」
ノーロマンは先程までのことを説明した。
「子ができたか。なら囲って産ませればよかたっただろう?何故わざわざユーフォリア夫人に面会させた」
「…伯爵家で、育てたいと」
「我が子を他人に預けるつもりだったのか?」
「マリラも…家に…引き入れて貰おうと」
「馬鹿か?」
「…そんなに変なことでしょうか」
愛人を持つことは貴族では当たり前だとユーフォリアも認めた。なのに。
「お前は、ユーフォリア夫人が情夫を家に入れると言って許可するのか?」
「そんなことっ常識的にありえな……ぁ」
立場を代えて理解した。
どれだけ常識無しなのかと。
「お前の愛人が孕もうが、お前が伯爵家でそれなりに働いていたのなら現状を不服として訴えれるがどうする?」
「仕事は、していません、でした」
「…なんにもか?なにかあるだろう?」
兄は知らないのだろう。
夜会で会ったことはない。
お飾り夫にできる唯一のエスコートすら放棄した。
マリラを裏切りたくないと思っての行動だった。
兄は大きなため息をついた。
ようやくお前から解放されると思ったのに。
苦々しく、離れを使え、と指示を受けた。
以前住んでいた本宅の部屋には入れてもらえないようだ。
「で、我が家の宝剣はどこにある」
商売が大成功して、爵位を得たときに陛下から頂いた大事な宝だった。
父は大事なものを二人の息子に分けた。
兄には当主の座を、弟には宝剣を。
ノーロマンは唾を呑み込んだ。
自分の境遇を嘆くばかりで忘れていた。
「…ツケの支払いの為に売り払」
最後まで言い終わる前にノーロマンは壁に叩きつけられた。
出戻って一番の怒りをぶつけられた。
「兄、様」
「うちの宝は何に消えた」
「わかりません…マリラのドレスか、装飾」
肺に衝撃を受け、一瞬息が止まった。
腹を蹴り上げられた。
「無能が」
兄は踵を返した。
兄の補佐をしている従兄がその後に続く。
「っ…ぐ、っ、ぐすっ、おとぅ、さま」
毛足の長い絨毯に涙と涎と尿が染み込む。
父がこの場に居れば慰めてくれただろうか。
いや、家宝がすでに人の手に渡ったと聞かされた時点で心を壊しただろう。
それほどに宝剣を誇りにしていた。
助けて
心に浮かぶのは、マリラでも兄でも父でもない。
ユーフォリアの顔だった。
兄は鋭い目つきで弟を睨むと、請求書を投げて寄こした。
「なぜうちにこんなものが来る」
「それは…」
「払う義理はないぞ。お前はもう、うちの保護下にない」
「…」
父なら、ほいほいと払ってくれただろう。
今までのように。
「請求書は伯爵家に送り返す。お前はなんでここに返された」
ノーロマンは先程までのことを説明した。
「子ができたか。なら囲って産ませればよかたっただろう?何故わざわざユーフォリア夫人に面会させた」
「…伯爵家で、育てたいと」
「我が子を他人に預けるつもりだったのか?」
「マリラも…家に…引き入れて貰おうと」
「馬鹿か?」
「…そんなに変なことでしょうか」
愛人を持つことは貴族では当たり前だとユーフォリアも認めた。なのに。
「お前は、ユーフォリア夫人が情夫を家に入れると言って許可するのか?」
「そんなことっ常識的にありえな……ぁ」
立場を代えて理解した。
どれだけ常識無しなのかと。
「お前の愛人が孕もうが、お前が伯爵家でそれなりに働いていたのなら現状を不服として訴えれるがどうする?」
「仕事は、していません、でした」
「…なんにもか?なにかあるだろう?」
兄は知らないのだろう。
夜会で会ったことはない。
お飾り夫にできる唯一のエスコートすら放棄した。
マリラを裏切りたくないと思っての行動だった。
兄は大きなため息をついた。
ようやくお前から解放されると思ったのに。
苦々しく、離れを使え、と指示を受けた。
以前住んでいた本宅の部屋には入れてもらえないようだ。
「で、我が家の宝剣はどこにある」
商売が大成功して、爵位を得たときに陛下から頂いた大事な宝だった。
父は大事なものを二人の息子に分けた。
兄には当主の座を、弟には宝剣を。
ノーロマンは唾を呑み込んだ。
自分の境遇を嘆くばかりで忘れていた。
「…ツケの支払いの為に売り払」
最後まで言い終わる前にノーロマンは壁に叩きつけられた。
出戻って一番の怒りをぶつけられた。
「兄、様」
「うちの宝は何に消えた」
「わかりません…マリラのドレスか、装飾」
肺に衝撃を受け、一瞬息が止まった。
腹を蹴り上げられた。
「無能が」
兄は踵を返した。
兄の補佐をしている従兄がその後に続く。
「っ…ぐ、っ、ぐすっ、おとぅ、さま」
毛足の長い絨毯に涙と涎と尿が染み込む。
父がこの場に居れば慰めてくれただろうか。
いや、家宝がすでに人の手に渡ったと聞かされた時点で心を壊しただろう。
それほどに宝剣を誇りにしていた。
助けて
心に浮かぶのは、マリラでも兄でも父でもない。
ユーフォリアの顔だった。
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