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十四
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ルデが目覚めた時にはもう、サリーシアの姿はなかった。
ざあっと顔から血の気が引く。
ー…嫌われたか
いや、…。
昨日泣いて謝ったサリーシアに、ルデは止まる事をしなかった。
「大丈夫」などと気休めにもならぬこと言って、快楽に溺れたのはルデの方だ。
まさか自分が盛りのついた猿に成り下がるとは思ってもいなかった。
慌てて身支度を整えて、部屋を飛び出せば、実父の用意した護衛の騎士が一人立っていた。
他にもいたはずの騎士らの姿はない。
「ご自宅までお送りいたします」
「サリィ、サリーシア様は何処に」
護衛の騎士は首を横に振った。
「白い結婚でも、王妃の離縁となれば…。
その身を利用されるかもしれませんので、そうならぬよう毒杯を賜るか、或いは、他の方法で」
「はっ?」
「もう再びお会い出来ることは…」
「…嘘だろう?」
『今夜だけ』
彼女は昨夜そういった。
「最初からそのつもりで…」
護衛は曖昧に首を振る。
命を刈られるとわかっていて、彼女は離縁を選んだのか!?
ルデにサリーシアの行き先を答えるつもりのない護衛に苛立ち、乱暴な口調で命じた。
「ならば、父の元に連れて行け」
「あら、ルデ様。おはようございます」
怒りのまま、王領にある屋敷に飛び込んでみれば、応接室で先王とサリーシアがお茶を囲んでいる。
入り口でへなへなと脱力し、護衛騎士を睨みつけた。
護衛の騎士は何処吹く風と素知らぬ顔をしていた。
「楽しんだか?昨夜は」
ニヤニヤと笑う実父を睨む。
ルデは許可を取ることも遠慮もなく、サリーシアの隣を陣取り、腰を抱いた。
「おかげさまで」
「おいおい。一度身体を繋げただけで我が物顔をするとは」
「私の身はサリーシア様のものですから」
相手が元王でも、それだけははっきり宣言した。
横から視線を感じるけれど何も言わない。
「サリーシア様。貴女が拾ったんです。この駄犬を。今更放棄して捨てていかないでください」
情けなく縋っている自覚はある。
相手の方が地位も力もあるのだから、情けなくとも縋って情に訴えるしか引き止める術がないのだ。
「貴方を捨てるなんてそんな恐れ多いことはできませんわ」
赤い目元を伏せて、サリーシアはルデと視線を合わせない。
「ですが、
婚姻後数年で得た知識はそれなりですので、このまま放置はしてもらえないのでしょう?」
神妙に頷くのは、対面する先王だった。
「ベアディスも、サリーシアを差し出せと喚いておる」
「折角逃げ出したのに嫌ですよ?」
「命存える法はそれしかなくてもか?」
「はい」
サリーシアは目の前に置かれたカップに手を伸ばす。
所作に不審な点はなかったが、本能的にルデはその手首を掴んで止めた。
「ルデ様?」
「父上。私には地位も力はありません。ですが、貴方なら彼女を守る力があるのでは」
先王はルデの急な申し出に、面白そうな顔をした。
「母に、よく似た子をみてみたくはありませんか…?」
ルデの母は再婚している。
城から追い出された母子を救ってくれた、ルデの養父だ。
流石に先王も、二人を引き裂こうとはしなかった。
側妃だった母を護れなかった負い目もあるのだ。
それでも、ルデの顔を誰かに重ねてみている事には気づいていた。
「別にそれはサリーシアでなくとも、お前がいつか誰かと所帯を持てば出会える未来で」
ルデは首を横に振った。
「私は、サリーシア様以外に反応しない身体になっているのです」
ざあっと顔から血の気が引く。
ー…嫌われたか
いや、…。
昨日泣いて謝ったサリーシアに、ルデは止まる事をしなかった。
「大丈夫」などと気休めにもならぬこと言って、快楽に溺れたのはルデの方だ。
まさか自分が盛りのついた猿に成り下がるとは思ってもいなかった。
慌てて身支度を整えて、部屋を飛び出せば、実父の用意した護衛の騎士が一人立っていた。
他にもいたはずの騎士らの姿はない。
「ご自宅までお送りいたします」
「サリィ、サリーシア様は何処に」
護衛の騎士は首を横に振った。
「白い結婚でも、王妃の離縁となれば…。
その身を利用されるかもしれませんので、そうならぬよう毒杯を賜るか、或いは、他の方法で」
「はっ?」
「もう再びお会い出来ることは…」
「…嘘だろう?」
『今夜だけ』
彼女は昨夜そういった。
「最初からそのつもりで…」
護衛は曖昧に首を振る。
命を刈られるとわかっていて、彼女は離縁を選んだのか!?
ルデにサリーシアの行き先を答えるつもりのない護衛に苛立ち、乱暴な口調で命じた。
「ならば、父の元に連れて行け」
「あら、ルデ様。おはようございます」
怒りのまま、王領にある屋敷に飛び込んでみれば、応接室で先王とサリーシアがお茶を囲んでいる。
入り口でへなへなと脱力し、護衛騎士を睨みつけた。
護衛の騎士は何処吹く風と素知らぬ顔をしていた。
「楽しんだか?昨夜は」
ニヤニヤと笑う実父を睨む。
ルデは許可を取ることも遠慮もなく、サリーシアの隣を陣取り、腰を抱いた。
「おかげさまで」
「おいおい。一度身体を繋げただけで我が物顔をするとは」
「私の身はサリーシア様のものですから」
相手が元王でも、それだけははっきり宣言した。
横から視線を感じるけれど何も言わない。
「サリーシア様。貴女が拾ったんです。この駄犬を。今更放棄して捨てていかないでください」
情けなく縋っている自覚はある。
相手の方が地位も力もあるのだから、情けなくとも縋って情に訴えるしか引き止める術がないのだ。
「貴方を捨てるなんてそんな恐れ多いことはできませんわ」
赤い目元を伏せて、サリーシアはルデと視線を合わせない。
「ですが、
婚姻後数年で得た知識はそれなりですので、このまま放置はしてもらえないのでしょう?」
神妙に頷くのは、対面する先王だった。
「ベアディスも、サリーシアを差し出せと喚いておる」
「折角逃げ出したのに嫌ですよ?」
「命存える法はそれしかなくてもか?」
「はい」
サリーシアは目の前に置かれたカップに手を伸ばす。
所作に不審な点はなかったが、本能的にルデはその手首を掴んで止めた。
「ルデ様?」
「父上。私には地位も力はありません。ですが、貴方なら彼女を守る力があるのでは」
先王はルデの急な申し出に、面白そうな顔をした。
「母に、よく似た子をみてみたくはありませんか…?」
ルデの母は再婚している。
城から追い出された母子を救ってくれた、ルデの養父だ。
流石に先王も、二人を引き裂こうとはしなかった。
側妃だった母を護れなかった負い目もあるのだ。
それでも、ルデの顔を誰かに重ねてみている事には気づいていた。
「別にそれはサリーシアでなくとも、お前がいつか誰かと所帯を持てば出会える未来で」
ルデは首を横に振った。
「私は、サリーシア様以外に反応しない身体になっているのです」
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