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2章 渡界人の日報
2-1 駆け落ちは異世界で①駆け落ちの相談
しおりを挟む異世界関連コンサルタント
これが渡界人という男の職業なのだがこういう仕事柄やってくる人々は基本的にいわくつきの人間である。
これはその中でも依頼人及び事件経過が特に変わった経緯を辿ったものである。
そして関係者が既にいなくなった為公の発表を渡本人から許可を受けた為ここに記すのである。
今から10年程前の春の事である。
私が渡の部屋に入り浸っていると突然彼からこんな事を言われた。
「異世界転移をしたがる女性とはどんなものかね?」
「依頼人がこれから来るのか?」
「そうだ。大概こういう事をしたがるのは男と相場が決まっている。女性という物は大抵現実的で物事の解決方法も地に足のついたものであることが多い。だもんでしっかりとした形ではこれが初だ。こういう仕事をしている女性はいるがいわば顧客としては僕としても経験がないんだ。君、ちょっと一緒にいて色々アドバイスしてくれないか。おっ、噂をすればなんとやらだ」
ブザーが鳴り、彼はその依頼人を招き入れた。
華奢な体に恐らく一度たりとも染めた事のない黒髪と柔らかな物腰
少しソワソワしているのは全く来たことのない場所故だからか、心配事のせいか。
良家の子女という言葉がぴったりのその依頼人は私がいるのを見て渡と私を見比べながら
「あの、どちらが渡さんでしょうか?」
「はじめまして。私が渡界人です。こちらは僕の記録係です。信用に足る男ですからどうぞご心配なく」
そう言って渡はその依頼人へ椅子を勧める。
渡界人はその新卒の社会人か大学生にも見える女性の対面に座ると依頼人はこう切り出した。
「私は結菜実和と申します。大学4年生で、今年卒業します。こちらは異世界へ連れて行って下さると聞いて。実は・・・私達を異世界へ駆け落ちさせてください」
その言葉に渡は両手を上げると
「その事情を聴く前に一つだけ。私へ払う料金は決して安くはありません。何ならその金額の半分以下で引き受けてくれる引っ越し業者だってありますよ。切羽詰まって冷静になれないのは想像できますが、駆け落ちするにしても地方まで行けば良いのじゃありませんか?それに外国に行くという手もあると思いますが。異世界へ行くとなると少なくともあらゆる常識が通用しないばかりか、場合によっては危険の頻度も相当のモノですよ」
「それは渡さんが私の実家を知らないから言えるのです。なるほど確かに結菜家は大金持ちという訳ではありませんが、その一帯で知らぬ者の無い名家です。その気になれば一帯に手をまわしてたちまち追手が来ます。近くには私達の通っている有名大学のK大学もあり、父はそこの理事もしています。ですから私の事は筒抜けと言っていいでしょう」
そう言うと結菜嬢は嘆息した。
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