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2章 渡界人の日報
2-1 駆け落ちは異世界で②不審点と調査
しおりを挟む「その彼とは大学で?」
「いいえ、ヨシカズの家と私の家とは旧来からのライバル関係でして、その対立は地元では有名です。その為私達の両親は先祖代々から嫌いあってきましたが、私達はどういう因果か互いを憎からず思っているのです。ただ向こうの家は最近経済状態が悪く、ヨシカズは奨学金を受けて大学へ通っています。あの、退屈ですよね?」
結菜嬢の体験は私の学生時代と真逆と言っていい。
私は大学入試の受験勉強に疲れ果てた反動でサークルもやらず、ただ大学と自宅との往復に虚しさと倦怠感を感じて中退してしまったのだ。
そのエネルギーや情熱への嫉妬というか苛立ちが知らず知らず出てしまったらしい。
「それにしてはよくここへお一人で来られたようですね。その彼氏君はどこに?」
「実は今回の件はヨシカズの提案なんです。でも調べてみたら渡さん以外にもこういう仕事をされている事業所があるもので。それで彼も半信半疑ですが別の所へ」
「まあ、こんな仕事は前代未聞でしょうね。失礼ですがそんな事を彼が言い出した時あなたは不安になりませんでしたか?」
「不安というよりも驚きました。てっきりどこか地方へ逃げきってそこで生活するために遠くで就活をしているとばかり思っていましたから・・・」
「では付いて行くという、あなたの決心は変わらない訳ですね?」
「はい」
「それに見積もりを取るのに他社との比較は大事ですからね。その事はあなたが?」
「いいえ、彼です」
「フム、しっかりした方のようですね。どちらかもしくは両方が教育課程は取っていますか」
「いいえ」
「では水道・電気といったインフラ関係の資格などは」
「それもございません」
「そうなるとあなた方の様な方で今転移募集中の奴は1つだけで」
「それで構いません。お願い致します」
かなり強い口調で結菜実和は渡の言葉を遮ってそう決定してしまった。
その事に渡は何も言わず
「そうですか。ではこちらも準備がありますので、また後日連絡を差し上げます。そこに連絡先を。そして彼の方にもこちらからお伺いすると思います。学部をお教え願いますか」
これらの連絡先を書くと結菜実和は来た時同様ソワソワしながら、いや若干嬉しそうにソワソワしながら帰っていった。
その後ろ姿を部屋の窓から眺め、彼女の姿が完全に見えなくなると渡は低い収納棚の上に置いてある様々な効果のある特殊液の入った試験管の束から赤色の液体の入った物を2本取り出すと同時にもう片方の手でスマホを操作し始める。その作業を同時にこなしながら
「君、一緒に来てくれ。ちょっと彼らについて調べよう」
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